空でつながろう

Interview Vol.8 会津に生きる伝統農法が
次世代の生き方へのヒントとなる

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。今回は福島県会津美里町で「循環型の有機農業」をベースに地域活動をされている宇野さんにお話を伺いました。

会津に生きる伝統農法が次世代の生き方へのヒントとなる

写真右側二人目が宇野さん

農業で変わる自然環境と健康

Q.現在の活動のキッカケを教えてください。

宇野元々は経営学における組織論の学者を目指していて、大学名誉教授の助手をしていました。自分の目標に向かって仕事をしていたので学ぶことは多かったのですが、実は学者以外の仕事を考え始めたのもこの頃です。「今後50年かけてでもやり続けたいこと」という視点で考えた時に、自分の中に「自然環境と健康」というキーワードが浮かび上がってきました。さらに掘り下げていった結果、「農業」がこの二つの課題に対して同時にアプローチできる営みだということが見えてきました。そこから日本にはどんな農業が適しているのかが知りたくなって、素人ながら日本全国30件ぐらいの有機栽培・自然栽培の農家さんを回りました。北は北海道の訓子府から、西は愛媛県の西宇和まで。その中で最後に訪れた農園が、今私の拠点となっている、福島県・会津美里町の「自然農法無の会」です。

Q.福島県会津美里町に惹かれた理由は何ですか?

宇野私は出身が東京都ですが、4年前くらいから移住して農業をやりたいと考えておりました。日本中の農家さんを回っている時に出会った無の会のお米と野菜、お水がどこよりも自分にとっては美味しく感じられて、また農園の型破りで自由な空気、ビジョンや世界観に共感したことで、訪問初日で移住を決意しました。

会津には、地域の自然環境やそこで暮らす人の営みを最大限に活用する持続可能な伝統農法の形が記された江戸農書が残されています。自然農法無の会では、この伝統農法の考え方を現代社会の文脈に応用しながら、最新の科学の知見も取り入れた有機農業を行っています。地域で廃棄される植物性の有機物を集めて堆肥をつくることで、米、野菜、大豆、果樹、そばなどを、全て無農薬で栽培しており、私の中で「農業をやるならココだ!」と直観しました。

会津美里町は、有機栽培の耕地総面積が福島県内で最大だったり、江戸時代の土地の利用法も考慮しながら会津全域の林業を支える会社があったり、古くは地産地消を基本としていた会津本郷焼という東北最古の焼き物の伝統工芸が残っていたり、自然素材の家を昔ながらの伝統工法で建てる工務店さんがあったりと、自然環境や伝統技術、地域循環に根ざした営みを続けている人が多い町です。明治以降の近代的な発展からは、他地域に比べても大きく取り残されたため、自然は本当に豊かです。農業に限らず、千葉県と同じ大きさのある会津地域それぞれの特性をつないで、お互いに地域循環の連携を図ることができたら、会津全体で自然環境を活性化していく広域連携コミュニティーと文化、経済のカタチが創り出され、それを住む人・訪れる人が体感できる場所になるんじゃないか、という希望を密かに抱いています。

会津に生きる伝統農法が次世代の生き方へのヒントとなる

「自然農法無の会」の堆肥場

Q.会津美里町に愛を注ぐのはなぜですか?

宇野会津の為に…というよりも、自分が考えていたことや、やりたいことの全てが、この場所とここに住む人、そしてこれから集まってくる人と共になら実現できる気がしたんです。これまで会津でご縁をいただき親しくさせてもらっている方は、本当に飾り気がなくて純朴で、でも個性的で、きちんと自分なりの世界観を持っている面白い方ばかりなんです。しかも、外から来た私のことも温かく応援してくれる。だから、会津の皆さんからできる限りのことを吸収しつつ、会津だからこそ創れる世界を皆で構想していきたいという想いがあります。個人的には、会津の歴史や伝統、民族史にはかなり関心があって、そこからの学びをベースに持ちつつも、現代社会に合わせた形で、次の世代に活かせるコミュニティーづくりをやっていきたいと思っています。

会津に生きる伝統農法が次世代の生き方へのヒントとなる

農園の稲刈り中

食から環境活性を進める未来。

Q.あなたにとっての EVOLUTION × LOVEは?

宇野会津という地域で農業を通して、人々の「自然環境と健康」への意識を変えながら、私たちの生き方の本質も問い直していくこと、ですかね。現在、無の会には全国から年間1,000人ぐらいの人たちが訪れます。多くは若い世代で、一度に3日〜2週間ぐらい滞在していきますが、農園を訪れる理由は皆さんバラバラ。仕事やプライベートで悩みを抱えていて、心も体も不健全な状態であることが多いです。そんな人たちが会津にきて、うちの農園で毎日三食、美味しいものを食べて、農園の仕事を少し手伝ったりしながら、3日ぐらい自由に過ごす。そうすると、本人の表情や雰囲気に自然と活力が戻ってきて、心身ともに元気になって帰っていくんです。こういう変化を何度も目の当たりにすると、「環境」や「食」が如何に人にとって重要なものかが分かるようになります。食や暮らしを変える事が、より元気に、よりオープンな心持ちで、不確実な未来へと向き合っていくための鍵となるのではないかと。こんなふうに、伸び伸びとエネルギッシュに生きる若者を、1人、2人と増やしていきたいなと思っています。その中で、未来の自然環境を考えながら、いまの持続不可能な社会を根本から創り変えていく道筋が見えてくるのではないでしょうか。

ただ、まだまだ思索中のことも多くて、会津に集まってくれた人たちと新しい試みをつくっていくだけではなく、この地域に住む人も一緒にやりたいと思えるようなワクワクするインスピレーションが必要だと思っています。その試みの1つとして「不耕起栽培」という農法で大豆を育てることを、今年から実験していきます。有機栽培における最大のネックである除草作業が不要になるというメリットがあるので、もしうまくいけば、会津全域、ひいては全国にも広めていきたいなと思っています。

Q.最近の若い方についてどう思われますか?

宇野農業以外に教育事業にも関わっていて、過去2年間は高校から、大学、大学院、新卒ぐらいの社会人を対象に「KOTOWARI」というサマースクールを南会津で主催してきました。ここに参加する若者たちは、自らの現状に違和感や危機感を持っているケースがほとんどです。例えば、就活、大学受験、学校に登校することなど、「世の中の当たり前」に対して、強い違和感を持ち始めている若者が多くなってきた印象があります。その反面、その違和感に対して、どう向き合っていけばいいのかが分からない。分からないまま、とりあえず仕事に就いてはみたものの、根本的にはその違和感を解消できずに、もがき続ける若者がたくさんいるのではないかという印象です。若者はそもそもの実体験が少なかったり、確かな自分を持てていなかったりするので、疑問や危機感に対して、ただ行き詰まってしまうことが多い。無の会に来たり、サマースクールに参加したりする若者は、そんな現状に対して自分なりの答えを見つけるための機会を求めているんだと思います。いま抱えている違和感を大切にして、一度立ち止まって自分の状態をよく見つめることの大切さは、これからも若者たちに伝えていきたいなと思っています。その一助を担う仕事として、これからの農業を創っていきたいですね。

   ありがとうございました。農業を通して革命を起こす、そんなことを予感させてくれますね。今後の宇野さんの活動を微力ながら応援したいと思います。