空でつながろう

Interview Vol.102 長浜市の自然をフィールドに子どもの預かりサービスを行い、
親も子も自分の人生を楽しめる社会の実現をめざす。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第102弾の今回は、子どもの預かりサービスを通して、子どもの成長だけではなく親が自分の時間を楽しむきっかけづくりを支援する熊谷理美さんに話を伺いました。

長浜市の自然をフィールドに子どもの預かりサービスを行い、親も子も自分の人生を楽しめる社会の実現をめざす。

熊谷理美さん

育児&家事、仕事で
悩んだ思いが原体験となり
預かりサービスを起業

現在の活動について教えて下さい。

熊谷2021年に「わけわけDeli」を開業しました。こちらは食品ロスの削減をめざしてサルベージ・パーティーのようなことを行っていて、今もひとつの市民活動として継続しています。また事業としては2024年11月に株式会社dive in LIFEを立ち上げ、「預かり自然体験dive」というサービスを行っています。具体的には子どもを預かり、長浜市の山や川、田んぼや畑などでさまざまな体験をしながら遊ぶという内容です。当初は地元の人を対象に活動していましたが、関東や関西の方が春休みや夏休みに泊りがけで来ていただく活動も2024年から始めています。また私が住んでいる西浅井地区で子どもたちがメインとなる新しいお祭りを作ろうと、地域の方々と1年がかりでお祭りを作りました。それは今後もずっと継続していく予定です。

長浜市で活動することになったきっかけを教えてください。

熊谷大学時代に親から「手に職をつけなさい」といわれ、在学中に中小企業診断士の資格を取得しました。その時に数多くの中小企業の社長のもとへ行き、コンサルの研修実習をしました。当時は、社長とはそんなに出会えない雲の上の人としか想像できなかったのですが、実際に会うと「こんな社会にするんや」と熱い思いを持っている人が多くて。私も何かやりたいことが見つかったら社長をやるのもええなあ、と思いました。でもその頃は学生起業も多くなくて、子育てが終わる40歳くらいで起業しようと決めていました。

まずは卒業して就職をしたのですが、1人目の子どもを産んだ後平日は仕事、土日は子育てと家事に追われて、復帰した月に2回倒れてしまいました。自分の体を休めるために子どもの預かりや家事の代行サービスを頼めばよかったのですが、「平日ずっと預けているのに、土日まで預けて、自分のための時間を過ごすのはよくない」という罪悪感があってできなくて。それが原体験となって、「人に預けてもいいのかな、もしかしてそう考えているお母さんもいるかも」と考えるようになりました。

また、子どもが小学校に上がるタイミングで近江八幡市から主人の出身地である長浜市に引っ越したというのもきっかけのひとつです。仕事場からすごく遠くなったのと、課題も見つかったしどうせ起業しようと思っていたから前倒しでやってもいいかと思って、ここで決断しなければ逆にやらないだろうという思いもあって起業を決めました。

起業するにあたって子どもを長時間預かるには何がいいか?と考えた時に、例えばピアノや英語を長時間やるのは子どもでも大人でも辛いけれど、自然の中ならずっと遊べると考えて。親が「もう帰るよ」っていっても「いやだ、まだ遊ぶ」とずっと魚を追いかけたり、火起こしを頑張る子どもの姿は容易に想像がつきましたね。近江八幡も十分自然はありましたが、長浜はその点ではピカイチ。ここに携わらない手はないな、と思いました。最初は2022年の農業体験からスタートし、その後預かり自然体験diveへと変わっていきました。1回の定員は15人で、これまでに累計600人ほどが体験しています。

長浜市の自然をフィールドに子どもの預かりサービスを行い、親も子も自分の人生を楽しめる社会の実現をめざす。

夏には子供達とスイカ割り。

熊谷さんにとっての地域活性を教えてください。

熊谷体験は毎回場所が違うので、子どもをずっと通わせている方からは「長浜にこんないいとこあるなんて知らんかった」といわれます。最近移住してきた方にも「子どもをどこに連れて行ったらいいかわからへん」という人がうちを利用して、「長浜に子どもを遊ばせるこんないいところがあるんや」ということを知ってもらうことで、みんながもっと地元を好きになるきっかけづくりはできているのかなと思っています。

また保育士さんはもちろんですが、体験によっては地域の年輩の方に協力してもらうこともあります。例えば流しそうめんを行うのにどこの竹をどうやって切ったらいいとか、しめ縄の編み方を教えてもらったりとか。教えてくれるおっちゃんたちはできることが当たり前でも、私たちにとってはすごい技。それを伝えるとおっちゃんやおばちゃんが喜んでくれる、それも地域活性につながっていると思います。

私は「どんな時でも、自分の人生に飛び込める社会をつくる」というのを会社のミッションに掲げています。田舎だから、子どもがいるから、介護があるからできないのではなく、この場所だからできる、私だからできるということを思える人がいればいるほど、地域は元気になると思っています。たとえ都会でも、自分は何もできないという人が多ければ活性できない。逆に西浅井は人口3500人ですが、そのうち500人がそういうムードになれば、どんどんいい影響が生まれて地域活性になると考えています。家でも親が自分のやりたいことをやって、子どもがその姿を見て「大人って楽しそう」と思えるようになれば、それが10年後、20年後の地域活性につながっていくと考えています。

長浜市の自然をフィールドに子どもの預かりサービスを行い、親も子も自分の人生を楽しめる社会の実現をめざす。

全員でカニ探し

自然の中で経験することは
子どもの成長につながるということに
親が気づくことが大切

熊谷さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

熊谷1人目の育休から復帰した時は、子どもは親が育てるのが一番いいし、手をかけてあげるほうがいいと思っていました。でも2人目の時の子育て講座で「親が何もしてあげないことが、子どもにあげられるギフト」といわれて。はじめはピンとこなかったのですが、子どもが身体能力や脳の発達に応じてできることに親が手出しをすることは成長を妨げることになると聞いて、できるだけ手を出さないようにしました。例えば靴紐をくくるのにすごく時間がかかって、それを待つほうが大変ですが、確かに本人にとっては成功体験につながり、「これもやってみよう」と思えるようになる。また子どもはいつか失敗も体験しますが、それもできるだけ早いほうが、最終的に子どもはもちろん保護者にとってもいいということにも気づきました。自然の中の体験は、安全は絶対ではありません。でも親が「ケガをするからやめなさい」ということのほとんどは大したことなくて、むしろ今通っておくべき経験です。「預かり自然体験dive」に通わせてくださる保護者もそこに気づいてくれたらいいと思いますし、子育てをしながら自分もやりたいことをやればいいと思ってくれたら嬉しいですね。それが私にとっての“EVOLUTION✕LOVE”です。

長浜市の自然をフィールドに子どもの預かりサービスを行い、親も子も自分の人生を楽しめる社会の実現をめざす。

子供達とご飯を一緒に作って食べる

10年、20年後はどうなっていたいですか?

熊谷別の場所でこの活動をやりたいといってくれる人がいるので、その育成をしつつ自然に活動が広がっていけばいいと思っています。田舎はどうしても周りの目が厳しかったりしますが、10年後、20年後は子どもを預けて自分の時間を過ごすことが当たり前な世の中になっていればいいなとも思います。ママだけではなく、地域の人に愛されて育つほうが幸せだよね、いろいろなところで遊んでいる子どもたちがいるほうが幸せだよね、という感覚で周りの人たちが見てくれるような社会になっていけたらいいと思っています。

熊谷さん、ありがとうございました!子どもは自然の中で多様な体験をしながら心身を育み、地域の人たちがその体験をサポートすることで活性化につながり、また親は子どもを預けることで自分の時間を大切にできる。子育て世代だけではなく地域の人々ともつながりながら活動を行う熊谷さんを、今後も応援させていただきます。