
Interview Vol.103
地元の素材を使った食やアウトドア事業を通して
あきる野市の自然資本の価値を高める。
EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第103弾の今回は、あきる野市で地元の素材を使った食事業やアウトドア事業を通して、地元の自然資本の価値を発信し続ける高水健さんに話を伺いました。

高水健さん
強いメッセージ性を持つコンテンツを
何本も作ることが
地域活性化につながる。
現在の活動について教えて下さい。
高水あきる野市で飲食宿泊事業や観光事業、商品企画やイベント事業を行う「株式会社do-mo」を経営しています。具体的に飲食事業としては無添加や薬膳、地産地消にこだわるレストラン、地元で穫れる鮎を使った料理を提供するカフェを運営しています。また2022年からはあきる野市で一番人気の温泉施設「秋川渓谷瀬音の湯」内のレストラン運営にも取り組んでいます。他にもバーベキューやキャンプ、サウナ、一棟貸しのタイニーハウスなどを備えたアウトドアフィールド「自然人村」、1万本のあじさいが植えられた「南沢あじさい山」の管理運営など、あきる野の自然資本を活かした事業を行っています。特にあじさい山は、もうお亡くなりになった南澤忠一さんという方が50年かけて作った小山で、8年前に忠一さんと出会って以来、二人三脚で手入れをしてきました。その間にあじさいの管理技術もしっかりと受け継ぎ、今は私たちだけで運営を行っています。
また商品企画としては鮎を使った「鮎ちょび」などの調味料や、あじさい山で育てたオリジナルのお茶「あじさい茶」の販売をしています。イベントは月に1回、武蔵五日市駅前で地元のクラフト作家、農家、パン屋さんなどが出店する「五市マルシェ」を行っています。

高水さんが手掛ける商品
(鮎ふりかけ:写真左、鮎ちょび:写真真ん中、鮎オイル:写真右)
あきる野市で活動することになったきっかけを教えてください。
高水学校を卒業して2年間会社勤めをしましたが、もともと父も事業家だったせいか企業に勤めることが感覚的にフィットしなかったことと、都会は便利ですが自分の心の置き場がなくて、地元で起業にチャレンジしたいなと考えるようになり、24歳で地元に飲食店を立ち上げました。
地元で起業したいと思ったのは、自然の中での原体験があったから。その後、あじさい山を継承して事業化に向けて模索する中で、東京にこれだけ近いエリアにこんなに豊かな自然があること自体にあらためてパワーや可能性を感じました。
今でこそ駅前には店が7〜8店舗ありますが、私が店を始めたときは1店舗しかなかったから、周りの人からは「勢いがある若者がいる」という目で見られましたね。危なっかしくもあれこれチャレンジしていく中で、本当にいろいろな人に支えてもらいました。
その中で特に地域の方の信頼を得られたのはあじさい山の運営だと思います。あじさい山は地域にとっては大事な観光名所。「ちゅういっちゃん(忠一さん)の山を誰が引き継いでいくんだ?」と、地域の中でもずっとざわついていましたね。1年間1万株のあじさいを管理して、6月のたった1ヶ月の開花シーズンに来るお客さんの入山料だけが収益という損益バランスが悪い事業でしたが、あじさいを使ってクラフトビールや多彩なグッズを作ったりと、多角的な展開に取り組みました。その努力を地域の方々が見てくださっていて、信頼が生まれて。それで今まで行政が運営していた、瀬音の湯の食堂を民間委託として僕たちに任せていただけました。地域の価値を発信していくという取り組みが認めてもらえて、いろいろな話をいただくようになってきたかなという実感はあります。
今の活動が地域活性につながっているところは?
高水地元の人間として地域の資源を活かしたあきる野の名物を作ろうと考え、食を通じて鮎の名産地であるあきる野市を知ってもらおうと、鮎のうるかで「鮎ちょび」を作ったり、鮎の旨味を感じる「鮎oil」を商品化しました。それをレストランで使って、地域の魅力を発信しています。
またあじさい山や自然人村での自然体験を通して、日常へ癒やしを持ち帰ってもらうことも、地域の価値を高めていくことだと考えています。
まちづくりの目線でいえば、地元のクラフト作家やパン屋が出店するマルシェですね。マルシェを継続することで、観光客はもちろん地元の人たちにも地域の素晴らしさを知ってもらえると思っています。
日本には北海道とか長野とか、あきる野市よりもっとスケールの大きい自然豊かな場所がたくさんあります。でもあきる野市の重要なポイントは東京エリアであること。すぐそばに人口が多い都市を背負っている自然エリアとしての役割を考えた時、この豊かな自然の価値をしっかりと都市に向けて発信していくことが大切です。今は情報社会で、今後もAIがどんどん進化していくと、血が通った癒やしに触れる機会はどんどん少なくなってしまう。でもやっぱり人間って自然にふれることでどこか帳尻を合わせるところがあって、それはとても大切なことです。だからこそしっかりとこの価値を発信していくことが私たちの使命だと思っています。
高水さんにとっての地域活性を教えてください。
高水地域活性には同じ地元の事業者同士で足並みを揃えていくことが大切だと思っています。あきる野市には「東京サマーランド」がありますが、ここはあじさい山と同じくらいの歴史を持つあじさい園を運営しています。私はあじさい山を継承する時に、東京サマーランドの社長に「連携して一緒に東京のあじさい名所としてPRしましょう」と話しました。点ではなく面で活動することは大事です。また自分たちができることにどんどんチャレンジし続けて、メッセージ性の強いコンテンツが地域の中で何本も生まれていくことが最終的には本質的な地域活性につながると思っていますし、そういう人が増えてほしいとも思っています。
人間が生きる上で大切な
自然との共生にアプローチする
取り組みに力を注ぐ。
高水さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
高水私たちは最初から自分たちの事業が、ビジネスライクではなく、地域を活性化し、地域の価値を上げていくことじゃないとやる意味がないと言い続けてきました。「政治家になりたいの?」といわれることもありましたが、政治には全然興味がない。じゃあなぜこの気持ちを大切にしているんだろう?と考えた時に、私だけではなく会社のメンバーみんなが、豊かな自然に癒やされるという感覚を大切にしているということに行き当たりました。そこで「自然資本の価値を高めていきたい」という思いがようやく言語化できたという感覚があります。本来人間が一番大切にしなければない自然との共生にアプローチしていく取り組みが一番重要で、その次にビジネスとして潮流に乗せていくことが大切。そういう目線に進化してきたこと、それが私にとっての“EVOLUTION✕LOVE”です。

南沢あじさい山にて手入れの様子
10年、20年後はどうなっていたいですか?
高水あじさい山や自然人村がある深沢エリアは今、過疎化が進んでいますが、さらにコンテンツを充実させて企業研修を誘致したり、関係企業を増やしていきたいと思っています。また自然資本の価値を高めるという同じメッセージ性を持つことに関しては、あきる野にこだわらず、どんどんチャレンジしていきたいと思っています。
高水さん、ありがとうございました!東京の都心から近いエリアに豊かな自然があるというあきる野市の価値を発信して、観光客にも地域の人々にとっても魅力的なコンテンツをさらに作っていこうと尽力し続ける高水さんの活動を、今後も応援させていただきます。