
Interview Vol.105
100年後も存在し続けて
大津市をはじめとする地域に貢献する洋菓子店に。
EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第105弾の今回は、滋賀県内で洋菓子店「パレット」を展開し、パティシエとして勤務する会社から事業継承を打診されたことで、100年続く店をめざす代表取締役社長へと就任した吉田香奈子さんに話を伺いました。

吉田香奈子さん(前列右から四番目)
豊かな食のために
「パレット」ができることを
常に模索し続ける。
現在の活動について教えてください。
吉田今年で創業38年を迎え、滋賀県内に5店舗を展開するケーキ店「パレット」の代表取締役社長をしています。2024年の5月に代表取締役を承継しましたが、まだ約1年しか経っていないので、会長にいろいろと相談しながら事業を進めているところです。
事業を承継された経緯や想いについて教えてください。
吉田会長から「社長を継いでもらえないか」といわれて、自分の中で葛藤がありました。父に相談し、「役割は自分がやりたいといってできるものじゃない。人からいわれて生まれるんや」と背中を押されて、「よし、やろう」という想いで承継しました。洋菓子店として地域の方に喜んでいただくほかにも、職場体験の受け入れや洋菓子協会とタッグを組んでお菓子教室などの活動を通して地域貢献できるのではないかという思いや、女性スタッフが結婚して子育てしながらも働ける、あるいはパートさんでも自分たちの知識や経験など強みを活かして働ける場所を作りたいという思いで今、頑張っています。
社長を承継したときにあらためて「パレット」と向き合って思ったことは「100年続く店にしたい」ということ。子どもの頃行った店に、自分の子どもを連れて行ったら思い出のケーキがまだあって、「お母さんの子どもの頃は……」と思い出話を子どもにできるという豊かな時間を作りたい。「ここにパレットがあってよかった」と思ってもらえる店にしたいと考えています。この店が地域の誇りに思えるコンテンツのひとつになって、働く人も、関わってくださる業者さんも豊かな輪を広げることができたらいいと思います。
「パレット」を100年続けるということは、100年間その地域に役立っているということであり、それは地域貢献につながると思っています。そのために今、自分がやるべきことは何かを常に考えていますね。
もともと私はお菓子づくりが好きで、また学生の頃バスケットボールもやっていたのでチームで何かを成し遂げることが好きです。社長を任されてから厨房には入っていないのですが、新しいことに挑戦させてもらえる楽しさや、自分が関わる会社で美味しいお菓子を考えて作って誰かに喜んでもらえる嬉しさを感じています。仕事内容は変わっても自分がやりたいことはずっとできていると思っています。
社長になってからの気づきは?
吉田お客様に来ていただけるのが当たり前と思っていた驕りがあることに気づきました。次にまた来てもらうためにすることを真剣に考えているか、それを現場のスタッフが実践するために私が全力を尽くせているかをもっと考えなくてはと感じています。今まではプレイングマネージャーとして、自分がやってみせることができましたが、今は社長として現場をどう構築していくか、そこが社長としての成長ポイントであり、おもしろいところでもあると思っています。

地域の小学校へ出張講座
吉田さんにとっての地域活性を教えてください。
吉田やはりここに「パレット」があってよかったと思われる存在になることですね。人と人との思いをつなげる場になること、企業同士が共創して何か新しいことをするときのフィールドになること、また地元の農家とつながってお菓子づくりに地元のものを使うことや、協力して新しいコンテンツを作り出すことが地域活性につながると思っています。
食は人間のインフラとして絶対必要なこと。その食に豊かさをさらにプラスするために、私たち「パレット」が特技を活かしてできることはないかということを常に模索し続けていきたいと思っています。

講演者として登壇する吉田さん
店の中だけではなく外でも
力を発揮し、自分の価値を高める。
それがやりがいにつながる。
吉田さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
吉田今まではパティシェとして美味しいものを作りたい、ということだけを考えていたのですが、会社の代表になってからは、社会にとって、また関わる人々にとっての店の存在意義を考えるようになり、自分の中で幸せに対する定義が広がりました。働く人が豊かになるためにはお金だけではなく何ができるのか。子どもがワクワクしたり大人が楽しいと思える体験の機会を設けるとか、笑顔を作り続けたいという思いの幅が広がったと思います。社長としていろいろなことに携わる中で、常に感謝と受容の心を大切にし、自分と関わる人たちが「人生ってめっちゃ楽しいな」と思えるような、笑顔を与えられるような存在へと自分自身が進化していきたいと考えるようになりました。また「パレット」もそういう場所に進化させることができればと思っています。社長としてはまだまだですが、それでもこれまで一生懸命やってきて、これからもっとよくなっていきたいと考えています。またそんな自分の背中を見てくれる人に「こんな生き方いいな」と思ってもらえるようになりたいとも思っています。それが私の“EVOLUTION✕LOVE”です。

スタッフとのコミュニケーション
10年、20年後はどうなっていたいと思いますか?
吉田きちんと利益を出すことは大前提ですが、「パレット」の強みは人だと思っているので、みんながそれぞれの力を店の中だけではなく外でも発揮できるようになればいいなと思っています。普段の仕事では会社から給与という形で対価を得ますが、社会から直接対価をもらって自分の価値を感じることができれば、もっと働きがいややりがいに直結すると思っています。私自身、パティシェとして店でケーキをつくるだけではなくいろいろな場に出させてもらえるようになった時に、例えばコックコートを着てお客様のところへ行き、話をするだけで、キラキラした目で見てもらえることを実感し、自分の仕事を誇りに思うようになりました。だからスタッフみんなが「自分は世の中の役に立っている」ということを、「パレット」というフィールドを使って感じることができたらいいなと考えています。みんなが店の外でも多様な人とつながり、それぞれが持つ個性をいかして共創し、自分の価値を高めながら「パレット」の価値も伝えられるようになっていたらいいと想像しています。「この人に出会えてよかった」と思ってもらえる人になり、また自分も誰かに対してそう感じる、そんな“恩送り”のような関係ができていたらいいですね。
現状で足りていないことはありますか?
吉田会社で何かやりたいと思った時に、情報共有をしながら物事を進める、いわゆる見える化や仕組み化を推進することは大切だと思っていますが、それを自分たちだけで構築するには限界があるかなと感じています。また子どもが喜ぶコンテンツや体験を作りたいと思った時に準備や集客、仕組みづくりを社内でいちから行うのはけっこう大変なので、そういうことが得意な人と協力しあって形にできたらいいと考えています。
吉田さん、ありがとうございました!パティシェから店長、統括マネージャーを経て社長となり、スタッフ1人ひとりの価値を高められるような店づくりに尽力する、そんな吉田さんの活動と想いを、今後も応援させていただきます。