
Interview Vol.106
地下コンコースの美術館や多彩なアートプロジェクトで
札幌の街をあかるくする!
長谷工グループのインキュベーション組織「UXDセンター」が行う共創プロジェクト「EVOLOVE(エボラブ)」は、2025年、日本各地の“街を明るくする”活動を開始します。
あなたにとって“明るい街”とはどんな街でしょうか?商店街に活気がある街、街灯が増え夜も安心な街、若い世代が移住してくる街、大学を卒業したら子どもたちがまた戻ってくる街、多くの観光客が遊びに来る街、季節ごとに花が咲き乱れる街。あなたの街をもっと“明るい街”に変えるために、みなさんはどんな活動をしているのでしょうか。
今回は、札幌市で500m美術館など多彩なアート活動を行いながら街をあかるくする活動に取り組む高橋喜代史さんに話を伺いました。

高橋喜代史さん(後列右から三番目)
徐々に街の人たちの
楽しみになりつつある、
500メートル美術館。
現在の活動について教えてください。
高橋札幌を拠点に、現代アートの作品を作っています。また2012年に「一般社団法人プロジェクタ」を立ち上げ、展覧会やアートプロジェクトの企画運営、公共空間や商業施設でのイベント運営、ギャラリーや公共空間などのスペース運営を行っています。
「街をあかるくする活動」について、取り組みのきっかけを教えてください。
高橋作家活動を続ける中で、NPO法人「S-AIR」に誘われて「アーティスト・イン・レジデンス」という事業に携わりました。札幌のアーティスト・イン・レジデンスは主に海外の作家を招聘して、約3ヶ月間札幌で暮らしながら、作家が興味のある人や、文化的な名所に案内して、作品制作や展覧会を行ってもらうプログラムです。3年ぐらい関わり、その後は1人で作家活動を行っていたのですが、とある会社の社長に「会社を作ってほしい」といわれて「プロジェクタ」を作りました。法人であるほうが行政の仕事を受けやすかったり助成金などにも申請しやすいからという理由です。
僕がアートを始めた頃は現代アートの市民権がなくて「現代アートって何?」という感じでした。アートって少し触れにくいものというか。だからもっと伝え方が変われば、アートを必要としてくれる人がいてもう少し広がるんじゃないかとは思っていたので、会社として企画を立てていきたいとは考えていました。
「500メートル美術館」や「シンクスクール」の活動について教えてください。
高橋500メートル美術館は札幌の大通駅とバスセンター駅をつなぐ地下コンコースにある美術館という名称のギャラリーのことで、S-AIRにいる時から企画に関わり、もう13年目になります。もともとその地下コンコースは治安があまりよくなかったところだったみたいです。当時の札幌市長が北京の視察に行った際にガラスケースがずらっと並んでいる美術施設を見学して「こういう美術スペースが札幌にもあればいい」と考えたそうで、芸術文化が好きな方で「わざわざお金を払って美術館に行く人しか美術作品を鑑賞できないのではなく、誰もが通りすがりでも鑑賞できるような場所に作りたい」と、この企画が始まりました。最初は年に一度のイベントとして他社さんが企画していたものでしたが、これは面白いということで常設化されて。以来、札幌市で活動するアーティストの発表の場として、また道外や海外のアーティスト作品を気軽に見られる場所として認知されてきました。
札幌市としてはおそらく防犯対策の意味も込めていたのでしょう。最初の年は、作品を展示している作業の後ろで放尿する酔っぱらいもいたぐらいでしたが、美術館ができてこの場所が明るくなりましたね。
シンクスクールは、札幌駅前通まちづくり株式会社の主催で、プロジェクタが共同企画しているアートとまちづくりを学ぶ学校です。アートプロジェクトやイベントは年に1回開催するけれど、それ以外の期間はどうするのか?その持続性と仲間探しについて課題を持ったまちづくり会社が、1回の打ち上げ花火的なプロジェクトではなく、ずっとみんなが関わっていけるコミュニティを作りたいと考え、「スクールがいいんじゃないか」というのが始まりです。まちづくりをメインとする企画コースと、作品制作をメインとする制作コースがあり、今年で10年目になります。
また他にも、3年に一度行われる札幌国際芸術祭の時期に便乗するかたちで、「すすきの夜のトリエンナーレ」と題して、すすきのでアートイベントをこれまでに3回行いました。それまで個人的に国内外の芸術祭を訪れる中で、「夜もやってる展覧会があったり、地元の関係者が集まる場所があればいいのに」と考えたことが発端で、すすきののような歓楽街でプロジェクトをやると面白いことができるのでは?と考えたことがきっかけです。

500メートル美術館で制作している様子
500メートル美術館ができたことでどんな変化が起きましたか。
高橋はじめの頃は展示作業をしていると、「こんなくだらないものに税金を使って」とか「もっといい作品を展示しろ」と道行く人からクレームを言われたりしていました。でも10年ぐらい経つと「次はいつからはじまるの?」とか「いつも楽しみにしているのよー」とお声がけいただくようになり、500m美術館で制作している作家に差し入れしてくれる人がいたりとずいぶん変化してきました。また2年目から500m美術館の運営サポートをしてくれる「500メーターズ」というボランティアチームを作ったのですが、今では「小さい頃から見ていました」という子たちも参加してくれるようになりましたね。13年経って少しずつですが、市民の皆さんに理解を得られてきているとは感じています。

大人も子供も参加する500m美術館のワークショップ
なぜ街を明るくするコンテンツがアートだったのでしょうか?
高橋今は物質的な価値から精神的なものや経験的な価値に重きを置くようになってきていることが大きいと思います。今はものがあふれている時代で、ものに対する執着が少なくなってきている。そういう経緯から、経済合理性とは違うベクトルでできているアートに目を向けるようになったということもあるんじゃないかと思います。
高橋さんの活動と地方活性とのつながりについて教えてください。
高橋例えばシンクスクールを卒業した生徒が地方でアートプロジェクトを始めたり、札幌だけではなく他の地域でさまざまなコンテンツが立ち上がっていることはすごく面白いと思います。僕もそこに関わらせてもらうことはあります。例えば卒業生が立ち上げた「ムロランアートプロジェクト」に参加した時、私は室蘭に観光地としてのポテンシャルがすごくあると感じたのに、地元の人たちはあまりそう思っていなそうだとか。これまで室蘭とあまり関係をもてなかった僕のような外からの視点を取り入れることで、地域が持っているポテンシャルやコンテンツを活性化させることができるんじゃないかと思っています。

500メーターズが毎月集まり企画会議をしている風景
会社としても、
1人の作家としても、
もっと関係人口を増やしたい。
高橋さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
高橋会社を作ったことが僕にとっての“EVOLUTION✕LOVE”だと感じています。作家として1人でできることと、みんなでできることは全く違います。いろいろな人を巻き込むことができたり、関わることができるのはこの会社のおかげだと思っています。
10年、20年後はどうなっていたいと思いますか?
高橋会社としても作家としても、もっともっと現代アートの関係人口を増やしたいと思っています。もう営んでいない母の実家の果樹園で自然環境から考えるアートプロジェクトを行いながら、果樹園を再生する企画ができていたらいいなと考えています。
高橋さん、ありがとうございました!さまざまなアートプロジェクトを通して防犯上の意味からも活性化の視点からも街を明るくする活動を行う高橋さんを、今後も応援させていただきます。