空でつながろう

Interview Vol.11 二風谷で残す、
北海道の原風景とアイヌ文化。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第11弾の今回は、北海道平取町二風谷(にぶたに)で、アイヌ文化の継承活動を行なっている貝澤さんにお話を伺いました。

二風谷で残す、北海道の原風景とアイヌ文化。

貝澤太一さん

アイヌという自然に抗わない生き方。

Q.今の活動に至ったキッカケを教えてください。

貝澤以前は札幌で16年ほど、研究者としてアイヌ文化の研究に携わっていました。そんな僕が研究者から実際に文化伝承をする立場に変わった理由は、アイヌ民族として、自分なりの“伝え方”をしたかったからなんです。

自然と共に生きていて「人間が素直に生きていく上でピンとくる考え方を持っている」というのが、僕が感じるアイヌ文化。実際に住居や生き方など、シンプルでありながら、暮らしを営む上で効率的な方法をいくつも持っています。さらに踊りや工芸など様々な文化のカタチがあるため、それを自分で直接伝えたいと思いました。

しかし研究者は、論文や講義といった活動がメインになります。でも研究者になってみて分かったのが、僕は勉強が嫌いだってこと。ほかにも自分の意見の発信方法が“論文”であることがピンとこなかったのも、大きいですね。

論文は世に出る前の査読の段階で、先生のフィルターが入ります。もちろん客観的な視点が必要な学術の世界では、そのフィルターが必要です。でも僕は、あくまで自分の目や感覚を通して直接アイヌ文化を伝えたいと思い、今のような活動スタイルに決めました。

Q.なぜ二風谷という場所で活動されているのでしょうか?

貝澤二風谷という土地には、地元だけあってとても愛着を持っているんです。何よりアイヌ文化が色濃く残っている土地。そして“自然には敵わない”ということを教えてくれる土地です。引き合いに出すのも申し訳ないのですが、北海道というと、富良野や十勝といった広大な一本道が続く平野をイメージする方が多いですよね。しかし北海道にはもともと、人間の背丈ほどの太さの幹の木が大量に生えていました。それをどんどん伐採して輸出していった結果、数十年足らずで切り尽くした。そうして今のイメージにつながる、“北海道=広大な大地”が生まれたのです。つまり今の北海道は、経済的に発展するように作られた、人工的な土地。一方でアイヌは狩猟民族。農業は地形に合わせてできる範囲内でやっていました。そうやって、あくまで自然と折り合いをつけていたアイヌの暮らしこそ、北海道の原風景に近いんじゃないかな。もちろん開拓した土地に比べて経済的な発展は遅れているかもしれませんが、そんな暮らしが残る二風谷という場所が、僕は大好き。だから僕の活動を通して北海道の本来の姿を取り戻し、次世代に伝えていきたいです。

二風谷で残す、北海道の原風景とアイヌ文化。

農家としても活動する貝澤さん

Q.貝澤さんの活動に対する熱い想いのポイントはどこにありますか?

貝澤客観的に見た時に、都会的な風景や広大な大地があるのは、必然であり、仕方ないことだと思います。でも今の価値観は、みんなが都会化して、みんなが便利になることが「絶対的にいいこと」になっている気がします。「不便だけど、それもいいよね」という選択肢がなくなっていることには怖さを感じますね。そしてやっぱり、北海道の原風景を次の世代につなげたいという気持ちが強いです。アイヌには、「自分たちの7代前の先祖を尊敬しよう。7代後の世代のことを考えて行動しよう」という考えがあります。100年、200年後の世代に「なんでもっと森を残してくれなかったんだ!先輩たち、しっかりしてくれよ」と文句を言われたくないんですよね。そのためにも、まずは自分が受け継いでいる70haの森がいい形で残るよう、子孫に恥ずかしくない活動を続けたいと思っています。

伝えたい文化と伝統、
「知る」こと「愛する」こと。

Q.貝澤さんにとってのEVOLUTION × LOVE(進化する愛)はなんですか?

貝澤踊り・工芸・芝居など、様々な角度から文化を発信することで、色々な繋がりができるようになりました。そうした出会いや活動を通して、個人の価値観を大切にしてほしいと思うようになりましたね。僕は、アイヌの素晴らしさを押し付ける気はありません。結果的に「やっぱり違うな」と思ってもらってもいいから、まずは知ってほしい。それも一つの縁として、次に繋がって欲しいですね。

そしてもう一つの「EVOLUTION × LOVE」は、自然への愛でしょうか。今までは森を守っていくために、植林などをしていました。でも何度試しても、植林した木ほど鹿に食べられてしまう。反面、植林していない木は食べられず、少しずつでも着実に育っている。「なんでだろう?」と考えた時に、「僕たちがやっていることは、この森の環境に合っていないのかもしれない」と気づきました。人間の都合の良い木を植林し、森をデザインしたがる。それは人間のエゴであると思います。そこで今は、「この森の復元をどう見守っていくか」ということが私の役割の一つだと認識しています。

二風谷で残す、北海道の原風景とアイヌ文化。

トドマツの葉を使った、アイヌ式の狩り小屋「クチャチセ」(狩猟用テント)作りを体験しに来られたカナダの大学生

Q.今の活動を通して、つなげたいヒト・モノはありますか?

貝澤繋げたいというよりも、多くの人に知ってもらえたらという感じです。たとえばさっきの北海道のイメージに関しても、「本当にそうかな?」と思ってもらえるような気づきを繋げていきたいですね。開拓から150年、木を切ったり土地をいじった結果、今、北海道から人がいなくなっています。みんな本州や都会に行ってしまって放棄された農地が、皮肉にもどんどん原野化している。「開拓の何が悪いの?便利になったじゃん」と思う人も多い中で、「確かに、本当に開拓が必要だったのかな?」と立ち返ってくれる人が増えるように、活動したり新しいチャレンジをしていきたいと思っています。

Q.現状、足りてないものや困っていることはありますか?

貝澤このような活動をしていて“誰かと繋がりたい”と思っている人が、札幌や都会など局所的に固まっていることでしょうか。北海道は広いし、当然、日本の田舎ももっと広い。地方で何かしらプロジェクトをやっていても、その一箇所の活性化で完結しがちだと感じます。僕の活動で言えば、アイヌ同士のつながりを通して、自分たちの文化に誇りを持ってほしい。アイヌは小さい頃から差別されることが当たり前で、自分に自信が持てない人が珍しくありません。最近では『ゴールデンカムイ』でアイヌに注目が集まりましたが、対象にならなかった地域のアイヌ民族がいたりと、アイヌの中でも目を向けられた・いないで、意識に差が生まれてしまっています。そうした意識を少しでも変えてもらうためにも、接点を増やしていきたいですよね。日本は良くも悪くも都会的なところがあります。だからやっぱり都会の人やメディアに取り上げられて、多くの人にアイヌを知ってもらうことが必要なんじゃないかな。

Q.学生〜社会人3年目くらいの若者について、感じることはありますか?

貝澤僕は大学で講義することもあるので、その年の人と関わることが多いんです。彼らと関わる中で感じるのは、「感性を活かした想像力を働かせる機会がない」ということ。今ってググれば何でも正解が出てきますよね。たとえば“縄文人”を調べれば、そのイメージがググったもので固まってしまう。「本当にネットに書いてあるものが正解か?」と考えたり、「こういうイメージもアリなんじゃないか」と想像を膨らませる余地がない。世の中の多くのものが明確に映像化されてしまっているので、“自分らしい想像”ができない。でも想像力を働かせて、「100年後、森がこうなっていたらいいよね」「開拓がなかったらどうなっていたのかな」と考えてほしいです。これは若者の課題というより、若者をそうさせてしまった大人の責任だと思っています。うん、若者のせいじゃない。個々人の感性を活かす想像をさせない世の中の課題として捉えています。

   ありがとうございました。「100年、200年先の世代に何を残すか」は、北海道だけでなく日本全体の課題。現代の豊かさや発展を見つめ直す上でも、アイヌ文化を通した貝澤さんの活動には、大きな意義があると感じました。今後の貝澤さんの活動にも注目しつつ、微力ながら応援させて頂きます。