大田雄之介さん
2020年4月ヘラルボニーに入社。新規店舗および事業開発メンバーとして名古屋拠点にて1年間活動。その後、岩手本社に異動し、コーポレート部門の立ち上げを経て、2025年1月からヘラルボニー初の旗艦店「ISAI PARK」の店長を務める。
長谷工グループのインキュベーション組織「UXDセンター」が行う共創プロジェクト「EVOLOVE(エボラブ)」は、2025年、日本各地の“街を明るくする”活動を開始します。
あなたにとって“明るい街”とはどんな街でしょうか?商店街に活気がある街、街灯が増え夜も安心な街、若い世代が移住してくる街、大学を卒業したら子どもたちがまた戻ってくる街、多くの観光客が遊びに来る街、季節ごとに花が咲き乱れる街。あなたの街をもっと“明るい街”に変えるために、みなさんはどんな活動をしているのでしょうか。
今回は、企業との共創やまちづくりへの関わりを通して、障害のイメージを変え、新たな文化の創出を目指す株式会社ヘラルボニー、ISAI PARK 店長・大田雄之介さんに話を伺いました。
2020年4月ヘラルボニーに入社。新規店舗および事業開発メンバーとして名古屋拠点にて1年間活動。その後、岩手本社に異動し、コーポレート部門の立ち上げを経て、2025年1月からヘラルボニー初の旗艦店「ISAI PARK」の店長を務める。
大田2018年に「株式会社ヘラルボニー」を設立し、日本全国や海外の福祉施設に在籍する障害のある方々が創作するアートや絵などの作品を契約させていただき、高解像度でデータ化しています。データ化した作品はIP(知的財産)として管理させていただき、法人企業に提供するライセンシングの事業や、企業とともに共創という形で共創活動などを行っています。
また2019年に自社ブランド「HERALBONY」も立ち上げました。ヘラルボニーが契約する異彩を放つ作家のアート作品をシャツやブラウスなどのアパレルやネクタイなどの雑貨に落とし込み、アートを軸にプロダクトを展開しています。また店舗では企画展を行い、その原画の展示販売もしています。
へラルボニーさんの商品
作家・藤田望人氏の作品「apples」で彩ったアートソックス
大田ヘラルボニーは、松田崇弥・文登という双子が立ち上げた会社です。そのきっかけは、彼らのお兄さんが先天性の重度の知的障害を伴う自閉症だったことによります。彼らは幼い頃から周囲の親戚や友人から「かわいそうだね」といわれ、障害者の兄弟というふうに見られていました。しかし2人からすると喜怒哀楽のある普通の“お兄さん”です。家の中ではお兄さんなのに家の外では障害者として見られる、これって何なんだろう?という疑問、すなわち障害=欠落というような、障害者と一括りにし、差別や偏見があるこの社会構造にずっと疑問を抱いていました。この原体験から、2人はいずれ障害のイメージを根本から変えていきたいと思っていたといいます。
2015年、松田崇弥が岩手県花巻市にある「るんびにい美術館」を訪れました。そこは障害のある方が創作活動をしている美術館で、その方たちの作品を展示しているのですが、そこを訪れて、障害のある作家の緻密な作品や色使いに大変感銘を受けて「これだ、この作品だったら障害のイメージを根本から変えていける」と確信をしました。見たこともないような素晴らしい才能です。アートを軸に事業を展開していこうと思い、学生時代の友人であった私にも「一緒にやろう」と声をかけてくれて、そこからヘラルボニーの事業がスタートしました。
作家・鈴木広大氏の作品「抱負」で彩ったシルクスカーフ
品川区、共創型ブランディングのはじまり
左から松田崇弥Co-CEO、森澤区長、作家・岡部志士氏、村林施設長(希望の園)
大田ヘラルボニーの本社がある盛岡市で、さまざまなアートの展開を行っています。例えばホテルの内装や、ラッピングバス・電車、ポスタープロジェクトとして街にたくさんポスターを展示しています。プロスポーツチームの特別ユニフォームにヘラルボニーのアートが起用されるなどしています。他にも、企業との共創活動としては、具体的には、建設や住宅を守る仮囲いを期間限定のミュージアムと捉え直す地域活性型のアートプロジェクト「全日本仮囲いアートプロジェクト」として、JR東日本グループと当社の共創で高輪ゲートウェイの仮囲いを、ヘラルボニー契約作家のアート作品で彩ったり、丸井グループのクレジットカード、エポスカードの券面にアートを利用していただいています。そのカードを利用いただいた金額の一部は作家や福祉施設の創作活動に活用される仕組みで、アートが社会とつながる循環を生み出しています。
また、品川区とも都市ブランド「しあわせ多彩区」を立ち上げ、区民の声をもとにアートを活用したまちづくりを推進。視覚的に多様性を表現するビジュアルを発信し、地域への誇りと愛着を育む施策となっています。今後も、アートによる地域ブランディングを通して、誰もが自分らしく生きられる街を目指し、ヘラルボニーと地域の共創が続いています。
大田まちづくりというのは大変広義的ですが、アートとまちづくりは親和性が高いので、私たちの事業も結果的にまちを明るくすることに対して相性がよいと感じています。その上で私たちが契約している作家の作品をどうしたら最大限素敵な形で社会にプレゼンテーションしていけるのかを考えて、障害のある方との接点を考えることが重要だと思っています。作家のライブペインティングを行うことがあるのですが、どういう構成にするか、どこに色を置くかということを結構ノータイムで捉えて作っていく方が多くて、お客様からも尊敬の声がよく聞かれます。また作家にもよりますが、自分の作品に対しての評価に執着がない方が多いです。自然体ででき上がった作品はこんなにも神がかったものになるのかと、シンプルに心からリスペクトできる瞬間がたくさんありますね。
ISAI PARKではプロデュースした空間は欧州や北欧のような世界観で、見ている人からも「気持ちが明るくなる」という言葉はよくいただきます。障害のある方への差別や偏見は結局、リスペクトが抜け落ちている状態が生み出すのだと思います。そのリスペクトをどうしたら作れるのかと考え、アートが一番有用だと仮説を立てて活動を行う中で、いい意味で実証されてきているという手応えを感じています。
盛岡市内を走るラッピングバスには、作家・工藤みどり氏の作品「(無題)」を起用
大田どこの街にもあるように、盛岡にも歴史ある町並みがあります。そこを維持しつつ、新しいアートとバランスよく調和させることはできているのではないかなと思います。
まだまだ時間はかかると思いますがアートを点ではなく、面でアートを展開していくことで、「盛岡ってヘラルボニーがアートですごい街を作っているところだよね」と認識されるように今まさに種を撒いているところです。それが地方活性につながるのではないかと考えています。
大田ISAI PARKは盛岡市の百貨店、パルクアベニュー・カワトクの1階にあります。当初私たちのプロダクトはハンカチとネクタイだけの展開でしたが、出店させていただくことができました。今、地方の百貨店は経営が厳しいケースもあると一般的にいわれていますが、カワトクさんはその中でも常に私たちにチャンスを与え続けてくださいました。“愛”を持ってくださっていると思いますし、もちろん私たちも「店を出すならカワトクさんだよね」と、カワトクさんに対する愛を持っています。ヘラルボニーは2人の代表松田兄弟を含め反骨心、ヒップホップの精神というのがかなり事業のキーワードになっています。盛岡の方々から愛され続けているカワトクさんと一緒に盛り上げていきたい、という気持ちがすごくありまして、そこにカワトクさんも共鳴してくださって。一緒にクラウドファンディングも行って2,300万円近くご支援もいただきました。それだけカワトクさんは盛岡の方々から愛されているのです。150年以上にわたって岩手の文化を作ってきたカワトクさんの思いを継承しながら、新しいヘラルボニー流の文化も作っていきたい。それが私の“EVOLUTION✕LOVE”です。
岩手県盛岡市の百貨店、パルクアベニュー・カワトク1階にある旗艦店
「HERALBONY ISAIPARK」
大田まずはカワトクさんを含めて、盛岡をヘラルボニーをめざして来てくださるような場所にしていきたいと思います。盛岡の観光資源のひとつになっていきたい。そのためには体験など多様なコンテンツが必要になりますが、それは今後アップデートしていきたいと思っています。まだまだ障害のある方が安心して過ごせる場所はそんなに多くないですが、ヘラルボニーが草分け的な存在といわれるような店づくりをしていきたいです。お店の半分以上のスタッフが障害のある方だったり、今までにないチャレンジを続けていきたいですね。
大田さん、ありがとうございました!障害のある方のアートを通して差別や偏見がなくなる社会をめざすヘラルボニーの活動を、今後も応援させていただきます。