空でつながろう

Interview Vol.119 歴史ある長門湯本温泉を再建。
チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

長谷工グループのインキュベーション組織「UXDセンター」が行う共創プロジェクト「EVOLOVE(エボラブ)」は、2025年、日本各地の“街を明るくする”活動を開始します。

あなたにとって“明るい街”とはどんな街でしょうか?商店街に活気がある街、街灯が増え夜も安心な街、若い世代が移住してくる街、大学を卒業したら子どもたちがまた戻ってくる街、多くの観光客が遊びに来る街、季節ごとに花が咲き乱れる街。あなたの街をもっと“明るい街”に変えるために、みなさんはどんな活動をしているのでしょうか。

今回は、山口県長門市の長門湯本温泉で、照明やイベントなど多彩な仕掛けを行いながら街をあかるくする活動を行う長門湯本温泉まち株式会社の木村隼斗さんに話を伺いました。

歴史ある長門湯本温泉を再建。チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

長門湯本温泉まち株式会社 エリアマネージャー木村隼斗さん

明かりが街に元気を与え、
具体的な変化をもたらしてくれる。

現在の活動について教えてください。

木村2020年に設立されたまちづくりの会社「長門湯本温泉まち株式会社」でエリアマネージャーをしております。毎年2月に行う「うたあかり」などのイベントを通じた魅力づくりや地域ブランディングを行いながら、温泉街を活性化させる取り組みを行っています。

歴史ある長門湯本温泉を再建。チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

長門湯本温泉街の全景

「街をあかるくする活動」について、取り組みのきっかけを教えてください。

木村もともとは経済産業省で働いていて、地方創生人材支援制度の取り組みで2015年に長門市役所へ出向し、以来、長門湯本温泉街の再生プロジェクトに関わっています。実際に地域の中に入ってみて感じたのは、閉塞感があるということ。例えばお隣の萩市はいいけど長門市はだめだとか、長門市は日本一保守的な街というようなことを言われたり。そんなことじゃ元気を出せないじゃないか、と思いましたね。誰にとっても故郷が元気であることは大事な基盤。だからこそ、この閉塞感をなんとか解消しなきゃいけないと思いました。

行政の仕事はその仕組みを作り、支援をしていくことだと考えていますので、当時から常に自分ごととして頑張ってきました。長門市役所では観光や地域の産業を担当する課を統括する部長として、総合戦略を作っていました。長門湯本温泉で多くのメンバーのチャレンジに触れ、仕組みづくりも重要だけど、現場で頑張ったら着実に前へ進めるということを大事にしたいと思い、民間の長門湯本まち株式会社に転職しました。この温泉街全体において、もっと新しい価値を生み出すためのチャレンジを生み出していけるように頑張っています。

歴史ある長門湯本温泉を再建。チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

温泉街の中心に沿って流れる音信川に浮かぶ「川床テラス」

「街をあかるくする活動」の具体例を教えてください。

木村私が長門市役所に入る前の2014年のことですが、昔からあった大きな旅館が廃業し、その建物を思い切って税金で解体して、跡地に星野リゾートを誘致しました。星野リゾートは施設としてその場所に根ざした魅力を作るというスタイルで地域との親和性を大切にしていて、そういう意味では地域活性化の第一歩目としてはとても大きな役割を担ってくださったと思います。

同時に、星野リゾートの誘致だけでなく、温泉街の再生もスタートしました。そのひとつが照明です。照明の強みは具体的な変化を起こせるということです。まずは「サンクス恩湯」というイベントを2017年に行いました。恩湯とは、600年の歴史を持つ長門湯本温泉街の公衆浴場です。再生の取組の中で、老朽化していた恩湯を再建することになりましたが、みんなが大切にしていた恩湯を、ただ取り壊すのではなく、感謝を捧げながら将来に向かって進んでいく出発点にしよう、という思いを込めて恩湯とその周辺を明るく照らすイベントを行いました。それは地域に力を与えてくれるような灯りでした。6店舗ほどが出店した小さなイベントですが、若い人たちがたくさん来てくれて、今まで人が来なかったようなところにも、ちゃんと足下の魅力を見つめ直せばそれを面白がる人が来て楽しんでくれるということを体感できましたね。新しく作るばかりではなく、今まであるものにもう1回焦点を当ててみんなで頑張れば、地域は前に進めるということ。灯りから元気をもらえるということを実感しました。

また長門湯本温泉にとっては2月が最大の閑散期なので、金子みすゞさんという地元の詩人の詩をモチーフにしたライティングイベント「うたあかり」も2019年から行っています。今年は少しバージョンアップをして、12月に「うたあかりノエル」という形でクリスマスの催しを加えようと考えています。

秋にはもみじの階段もライトアップして、階段にリクライニングシートを設置して下から紅葉を仰ぎ見てドリンクを楽しんでもらう「紅葉ごろ寝バー」も行っています。

歴史ある長門湯本温泉を再建。チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

夜の竹林の階段【SHIMOMURA YASUNORI】

「街をあかるくする活動」によって街に変化はありましたか?

木村まず観光客の旅の過ごし方が変わったと思います。それまでは通過点だったのが、ちゃんと温泉街が目的となり、早めにチェックインして温泉街を楽しんでくれる人が増えました。これまで団体旅行がメインだったので街を歩いている人はほとんどいませんでしたが、灯りの演出を目当てに女性や親子も、安心して夜道を歩いてくれる。旅の人の過ごし方の変化が街の元気の源になっています。例えば、温泉街の中心に流れる川で川遊びをする観光客につられて、なんとなく川から遠ざかっていた地元の子どもたちも再び川遊びをするようになり、にぎわいが戻った気がします。あとは共同浴場で地元の人達と一緒に温泉に入って素敵な空間を共有する。そういう意味では温泉を大切に生きている街は、変化が起きやすいのかなと思っています。

新しく再建した恩湯は600年前の入浴を彷彿とさせるような原始的なスタイルで、80年入り続けているおじいちゃんが昔ながらのお湯の香りが戻ったと喜んでくれて。灯りのイベントでも「久しぶりにあんなに賑わったね」といってくれたり、新しいホテルの若いスタッフがこの地域に関心を持っておじいちゃんたちに昔話を聞いたり、伝統芸能を教えてもらったり、そういうことも街を元気にしてくれます。

歴史ある長門湯本温泉を再建。チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

新しく再建した恩湯の外観

歴史ある長門湯本温泉を再建。チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

恩湯の浴室

木村さんにとっての地域活性を教えてください。

木村まちづくりというとどうしても暮らしている人がメインになりがちですが、地域の将来を考えた時に、やっぱり事業が堅調に続くことが大切です。街の成り立ちとして温泉街とか温泉とか旅館がなくてはならないし、そこの元気がなくなると商店街も元気がなくなってしまう。住民の声と産業の声を分けてしまうと地域活性もうまくいかないのではないかと考えています。だからこそ、温泉をもう一度見つめ直して魅力的にする活動を行うのは大切だと思います。

人気温泉地をめざして
今できることを積み上げていく。

木村さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

木村かつて行政が60年ほど恩湯の運営をしていましたが、民間の、しかも地元の若者たちが中心になって恩湯を守る会社を作り、自らリスクを取って再建している。こうしたチャレンジをみんなで応援しようという形になったというのはすごいことであり、こういう環境がこれからも続いてほしいと思っています。人口減少もあって、すぐにV字回復とはいかないでしょうが、次の世代の人も自分が好きなことにチャレンジしたいと思えて、それを応援できる環境を将来に残したいです。それが私にとってのEVOLUTION×LOVEです。

歴史ある長門湯本温泉を再建。チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

うたあかりイベント時の賑わい

歴史ある長門湯本温泉を再建。チャレンジできる環境を次世代へつないでいく。

みすゞのお庭エリア:1つ1つの「あかりのうつわ」は市内の子どもたちが作る

10年、20年後はどうなっていたいと思いますか?

木村2030年を目処に、人気温泉地ランキングトップ10をめざそうと計画しています。そのために必要な活動を積み上げている段階です。地域の歴史や文化を次の世代へつなぐために観光産業として貢献できることをやっていくことが重要だと思っています。

木村さん、ありがとうございました!公務員時代は全体の仕組みを作ることで課題解決にチャレンジし、今は第一線で活動を行いつつチャレンジしながら常に「自分ごと」としてまちづくりを行う木村さんの活動を今後も応援させていただきます。