
Interview Vol.124
北九州市黒崎地区の熊手銀天街で
多様なイベントを仕掛けながら、
行ってみたくなる楽しいまちをめざす。
EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第124弾の今回は、福岡県北九州市の黒崎・熊手銀天街でさまざまな活動を行いながら商店街を盛り上げる、田中大士さんに話を伺いました。

田中大士さん
ボランティア運営から、
仕事への仕組化を目指し
次の世代へ繋ぐ。
田中さんの現在の活動について教えてください。
田中北九州市内の駅としては、小倉駅に次いで2番目に多い黒崎というエリアにある商店街「熊手銀天街」で「人形の田中」というお店を営んでいます。また、黒崎活性化委員会の委員長を2023年まで努め、現在は熊手銀天街の理事長や黒崎の商店連合会会長、こども商店街実行委員長を務めています。熊手銀天街を盛り上げるために、これまでにシャッターアートやこども商店街、熊手夜市などのイベントを行ってきました。

黒崎・熊手銀天街の様子

黒崎・熊手銀天街 シャッターアートの一部
田中さんが行ってきた各活動のきっかけを教えてください。
田中もともと行政や企業や商店などが参画する「黒崎副都心会議」という組織があったのですが、そこで黒崎の街を今後どのようにしていくかという話になり、私が「黒崎活性化委員会」の委員長に任命されました。その頃、私の店の近くにあったスーパーが閉店して、10枚を超える大きなシャッターが下ろされたままになり、またお客様からも「黒崎ってシャッター通りだよね」といわれることが多かったことから、黒崎の街を美術館のようにをコンセプトに私が思い考えた企画でした。
熊手銀天街は夜だけ営業する店が半分くらいで、昼間は全体の 3 割しか開いていないことからシャッター通りと思われがちですが、実際空き店舗は 10 数%しかありません。でも昼間は寂しいねということになり、「街が美術館みたいな場所になれば訪れる人たちに楽しんでもらえるのではないか」と考えたことがシャッターアートのきっかけです。「どうせなら作家さんに描いてもらいたい」と制作をお願いしたところ、「一緒に絵を仕上げていきませんか?」という提案をしてくださったのです。それはきっと楽しい企画になるだろうということになり、九州国際大学の学生や企業の方々約30〜40人に絵の下地づくりを手伝ってもらい、作家さんに仕上げをしていただいて、13枚ほどのシャッターに絵を描きました。
その後、行政の方から少し予算をつけていただいたので、「街としていろいろなところでシャッターアートができたらいい」と話をいただきまして、5人のアーティストに合計 6 ヵ所でアートを描いてもらいました。またシャッターアート以外にも、熊手銀天街の理事長に初めて就任した 14 年前に「商店街に日本一大きな絵を飾ろう」と、120m もの絵をアーケードに飾ったりしたこともあります。街をもっと知ってもらおう、来て楽しんでもらおうと考え、「それならあっと驚くことがあったほうがいい」と考えて仕掛けました。
また同じく 14 年前から黒崎こども商店街を開催しています。黒崎地区は歩いていける範囲に小学校が5校あり、約2千人の小学生がいます。そのこどもたちが店に参加し、職業体験ができるイベントです。ハローワークのように職業紹介所を作ってこどもが実際に自分で仕事を選び、お金の流れも学びながら販売や買い物をします。最初は恥ずかしがっていた子もだんだん大きな声が出るようになったりします。
年に1回のイベントなので、参加できなかった場合にもチャンスがあればいいと考え、下関や、小倉でも開催することにしました。

こども商店街の様子(プチ・ボヌール)

こども商店街(小倉記念病院の職業体験として)
こうした活動によって変化はありましたか?
田中シャッターアートについては、街が明るくなってお客様から「よかった」といわれるようになりましたね。成人式や結婚の記念にシャッターの前で撮影する人の姿も見られるようになりました。
こども商店街についても、親御さんが「うちの子はできない」と考えている範囲を超えて、こどもがいろいろなことができるようになっていく姿を見ると、こういうイベントを行ってよかったと実感します。
こども商店街は現在、ボランティアの方が運営していて、商店街は店として関わっている状況です。またこれらのイベントとは別に、熊手銀天街夜市も行っていて、こちらは若手の人たちも参加してくれるようになりました。こうしたイベントを次の世代へつなぐには、出店者を集める人たちにとって利益になるようなことを考えていかなくてはならないと思います。若い世代にとって「これが仕事になる」という、脱ボランティアを考えていかなくてはならないと思っています。次の世代がチャレンジしやすい環境をつくるのがこれからのテーマですね。

こども商店街(大英産業の職業体験として)

こども商店街(筑後鉄道の職業体験)
田中さんにとっての地域活性を教えてください。
田中北九州市は人口が減少していますが、黒崎地区は人口が増えています。黒崎は昔から大手企業が集まる街として知られ、歩いていける範囲にすべてが揃っていて、小さい子どもからお年寄りまでみんなが心地よく暮らせる街なので、住みたいという人が増えるのは納得できます。だからこそ黒崎だけでイベントを行って活性化を図るのではなく、小倉など他の地域でも行いながら活性化させることが大切だと思っています。
住みやすい街にするためには、サードプレイスとしての居心地の良い場所があったほうがいいと思っています。住む、働く、以外に「出かけたい」「集まりたい」と思う場所になること。そういう街に人口が増えるのではないかと考えています。
定住しなくても、趣味や習い事を楽しめる
「サードプレイス」としての
まちづくりを行っていく。
田中さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
田中以前副会長を務めていた時に、コロナ禍だったにも関わらず行政から「予算をつけるから何かイベントを行ってください」といわれました。具体的にはパンか陶磁器のイベントをやってほしいと言われたので、パンのイベントを行ったところこれが大盛況で。次の年は予算がないといわれたのですが、補助金がないからやりませんというのはどうかと考えて会社を設立し、パンのイベントを事業として始めました。また今年、活動継続のために商店街のメンバーで会社を作りました。自主的にトップに立って何かを行うのではなく、ふとしたきっかけでやりだして、それを次の世代へ継承していこうという思いが自分の中にはあります。子ども商店街もそうですが、いろいろな方に喜んでいただいているのに 1 回だけやって終わりというのはちょっと違うと思っています。それが私にとっての EVOLUTION×LOVE ではないでしょうか。
10年、20年後はどうなっていたいと思いますか?
田中10年、20年後もずっと住みたくなる街にしていきたい。仕事もあり、子どもが遊ぶ場所がたくさんあったり、公共施設が充実している黒崎地区には、今も近隣の街から人が集まってきています。こうした強みを生かして、サードプレイスを作っていきたいですね。定住しなくても習い事だったり趣味などを楽しくできるような、そんな街にしていきたいと考えています。
田中さん、ありがとうございました!シャッターアートやこども商店街など、さまざまなイベントを仕掛けながら、みんなが訪れたくなるサードプレイスとしてのまちづくりをめざす田中さんの活動を、今後も応援させていただきます。