Interview Vol.126
銃砲店のコンテンツをまちづくりに活かして
大津市を中心に滋賀の狩猟文化を醸成する。
EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第126弾の今回は、家業の銃砲店を継ぎ、狩猟を通して大津のまちづくりを行うことを目標に活動を進めている濵﨑航平さんに話を伺いました。
濵﨑航平さん(アトツギ甲子園時の様子)
「街にひらけた鉄砲店」をめざし、
誰もが気軽に訪れられるような店に改革。
現在の活動について教えて下さい。
濵﨑今年103年目を迎える「濵﨑銃砲火薬店」の後継ぎとして鉄砲を販売しながら、「銃砲店らしくない銃砲店」をテーマに、クレーシューティングシュミレーターや射撃練習会の開催、オリジナルアパレルの販売などを行っています。
大津市で活動することになったきっかけを教えてください。
濵﨑高校まで滋賀を出たことはなかったのですが、通いで大阪の大学へ進学しました。大阪出身の友達に「滋賀って何があるの?」とよく聞かれて、地元が好きだったから腹が立って(笑)。滋賀って、ここがいいというよりは、なんか心地いいなという場所。友達に「こういういいところがある」と伝えても、「ニッチ過ぎてわからん」といわれて、どうにかしてこのよさを伝えたいなと思うようになりました。
僕は大学で映像制作を学んだので、映像で滋賀県をうまくPRすることができれば、言葉で伝わらないこともきちんと伝えられるのではないかと考えました。滋賀を盛り上げたいし、その手段として映像が一番適していると思ったわけです。滋賀の魅力を伝えるプロになりたい、それにはまず広告業界に身を投じることが必要だと考えて、東京のテレビCM制作会社に就職しました。でも激務すぎて体も心も疲れ果てて、地元に戻りました。自分には何ができるのかと考えながら1ヶ月ぐらい何もせずに過ごしていたのですが、父から「仕事を手伝ってほしい」といわれて。僕は銃砲店が一体どういう仕事をしているのかそれまで知らなかったから継ぐ気がなくて、最初は手伝うくらいならいいかという気持ちでしたね。だからお客さんが来ても説明もできない。「これではだめだ」と考えて、まず銃の免許を取りました。
免許を取ってクレー射撃を始めたら、これがものすごく楽しくて。「これを仕事にしたい」という気持ちが芽生えたんですね。でも、まちづくりもやりたいし、どうにかして銃砲店とまちづくりを両立できないかなと考えました。「そうだ、銃砲店のコンテンツをまちづくりに寄せることができたら、やりたいこと全部やれるやん」と、家業を継ぐ決意をしました。
家業を継がれて、変化はありましたか?
濵﨑まず「街にひらけた銃砲店」にしたくて、クレー射撃のシミュレーター施設を作りました。誰でも使えるように本物の銃を改造して、気軽にクレー射撃というスポーツを楽しんでもらえるようにしたんです。特に、子どもに体験させようといらっしゃる親御さんが増えました。銃というと、ニュースで報道されるようなマイナスのイメージしか持っていない方もいるので、来ていただいた方には射撃や狩猟の魅力を丁寧に説明するようにしています。また自分でデザインしたTシャツなどのアパレルも置いています。また、狩猟で仕留めたジビエの臭み消しに使える滋賀県の伝統野菜「弥平唐辛子」を使った調味料なども販売しています。ジビエは「くさい、まずい」というイメージがあるので、そこもきちんと丁寧に説明をして正しい知識を持って帰っていただけるように努力しています。実際に、コロナ禍でアウトドアにめざめて新しく狩猟を始めようという人も増えました。特に女性ハンターが増えていますね。ジビエはクセが強いというイメージが先行しているだけに、レストランで食べた時の感動はすごかったという人は多くて、マイナスがプラスに転じたという感じだと思います。狩猟やジビエに対して興味が高まってきている今だからこそ、正しい知識を広げていることが重要だと感じています。
銃砲店はもともと持っている人が買い替えに来るだけで、これから始めたいという人はなかなか入りにくい状況でしたが、こういう雰囲気にしてからはお客さんの幅が広くなって、サバゲーをやっている人なども来てくれるようになりました。今後はセレクトショップ風に滋賀県の名物も置いていきたい。ここが狩猟の魅力を発信する観光スポットのひとつになって、街が活性化すればいいと考えています。
また以前、事業継承者が集まる「アトツギラボ」や、全国各地の中小企業・小規模事業者の後継者が既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競う「アトツギ甲子園」というビジネスピッチイベントに参加し、全国大会に出場したことをきっかけにコネクションが広がりました。やりたいと思ったことが実現できるような環境は整ってきたかなと思います。
濵﨑さんにとっての地域活性を教えてください。
濵﨑地方活性というと、外から人に来てもらうというイメージが強いですが、それよりこの土地に住んでいる人が幸せになれることが重要です。住んでいる人がこの場所に誇りを持ち、充実した毎日を送れる環境を整えることが、地方活性化だと僕は思います。
そういう意味では、滋賀県は琵琶湖があって、美味しいお店がたくさんあって、山が近く、幅広いライフスタイルを楽しめる可能性のある街だと思っています。
濵﨑さんが展開するアパレルブランド
自社のクレーシューティングシュミレーター場
自分軸ではなく他人軸で
まちづくりをすることが大切。
濵﨑さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
濵﨑僕は「自分が毎日楽しく住める街」を作りたいと学生の頃から思っていました。でも「アトツギ甲子園」に出て人脈が広がり、いろいろな事業継承者に会うと、皆さん本当に愛にあふれた方ばかり。自分ごとのように相談に乗ってくれて、解決策も一緒になって考えてくれるのを見て、自分もそんな人になりたいと思うようになりました。そこからまちづくりへの思いも「自分が楽しめる街というよりは、街全体が活性化できるようなまちづくりをしたい」と思うようになりましたね。例えばまだアイデアベースですが、ピクニック事業をやってみたいと思っています。琵琶湖へ行く人たちにうちがピクニック道具(狩猟用品)をレンタルし、食べるものは商店街で揃えてもらって、訪れる人たちに「こんな商店街あったんや」とその先での出会いを楽しんでもらう、そんな動線を作っていきたいと考えています。うちで今後扱う商品も基本的には滋賀県内の人にお願いしていこうと思っています。自分軸ではなく他人軸でまちづくりをしていくこと、うちをきっかけにどんどん街を深堀りできるような環境を築くこと、それが私にとっての“EVOLUTION✕LOVE”です。
国内最大級のアウトドアイベントField Style出店に向けてのリサーチ、出展者さんとの会話の様子(濵﨑さんも2025年11月出店予定)
「アトツギラボ」を株式会社濵﨑銃砲火薬店で開催し、事業継承者や伴走者の悩みや想いを共有している様子。
10年後、20年後はどうなっていたいですか?
濵﨑滋賀県の狩猟文化が広がっていればいいなと思います。将来射撃をやってみたいという子どもが増えたり、狩猟をやってみたいという人が増えるような環境を作ることができていたらいいですね。またそういう思いをもって活動をしてくれる人が広がっていればいいとも思います。

濵﨑さん、ありがとうございました!従来の銃砲店から誰もが気軽に訪れやすい店にする努力を続け、その店をハブにまちづくりや滋賀の狩猟文化を作るべく活動に励む濵﨑さんを、今後も応援させていただきます。