空でつながろう

Interview Vol.137 「安心して失敗できるいなか暮らし」体験を
マキノ町で展開し、集落の関係人口を増やす。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第137弾の今回は、滋賀県高島市マキノ町で「いなか暮らしラボ古今集」を主催しながら、田舎暮らしをしたい人たちを応援する活動を通して地域活性化に貢献する福井朝登さんに話を伺いました。

「安心して失敗できるいなか暮らし」体験をマキノ町で展開し、集落の関係人口を増やす。

福井朝登さん

古民家をセルフリノベしながら
自分で造り出す豊かさを実感。

現在の活動について教えて下さい。

福井高島市マキノ町で「いなか暮らしラボ古今集」を運営し、田舎暮らしをしたい人たちに向けてお試し移住体験や、空き家のセルフビルド塾などを行いながら田舎暮らしに対する見えないハードルを可視化できるよう取り組んでいます。2025年からは廃校になったマキノ北小学校在原分校のセルフリノベーションプロジェクトをスタートしています。「安心して失敗できるいなか暮らし」をコンセプトに、田舎暮らしに興味がある人が移住を体験・模索できる宿泊型体験施設を、みんなで作っていくというプロジェクトです。私自身、自分の家をセルフリノベーションした経緯があるので大体のことはできますし、プロの大工に頼まなければいけないところもわかります。だからできることは自分たちでやってもらう、という形で進めています。リノベーション後は家庭科室や図工室、職員室などを使ってビジネスチャレンジができる場を提供する予定です。ここを入り口に移住者やマキノ町の関係人口を増やすきっかけになればいいと思っています。

また農業を体験してもらってできた米を買い取ってもらうという田んぼの法人オーナー制度も運営しています。農家と消費者がつながり、直接米を販売できるような販路の拡大と米のブランド化、酒づくりなどの商品開発にも着手し始めています。

「安心して失敗できるいなか暮らし」体験をマキノ町で展開し、集落の関係人口を増やす。

福井さんがリノベーション中の、廃校になったマキノ北小学校在原分校

マキノ町で活動することになったきっかけを教えてください。

福井高校卒業後、実家が大津市に引っ越すことになり、大津から京都の大学へ通っていました。卒業後、大阪の会社に就職し、その後京都の設計事務所で働いていましたが、田舎暮らしがしたくて2002年にマキノ町在原へ移住しました。大阪では5分おきに電車がくる便利な町に住んでいたのですが、ある冬の日に湯沸かし器が壊れてお風呂に入れなくなって。水のシャワーを浴びながら「ボタン1つでお湯が出るというのはすごくありがたいことなんだ」と実感しました。その時に「水道や電気が止まったら、自分は生きていけるのだろうか」と考え始めて。田舎なら山から水は流れてきているし、薪で火をおこし、とりあえず温かい風呂は入れるんちゃうか?田舎最強なんちゃう?と思うようになりました。それで田舎暮らしを決意し退職、マキノ町で茅葺き屋根の古民家を手に入れて、家の前にテントを張って寝泊まりしながら、7年かけてセルフリノベーションをしました。お金もなかったので、自分の手で造るしかなくて。貧乏と豊かさは表裏一体というか、自分で造ることができるというのは、とても豊かでおもしろいことだと実感しましたね。

家が完成した後、彼女を呼んで結婚し、子どもが生まれました。中学校の非常勤講師や田んぼで米を作りながら暮らしていましたが、その頃から集落は高齢化が進んでいて、このままいくとこの地域がどんどん衰退してしまうと危機を感じました。移住者を増やすにはどうしたらよいかと考え、4年前に「いなか暮らしラボ古今集」を立ち上げることにしました。移住者にとっても地元にとっても「お互いのことを知らない不安」が常にあります。移住の入り口として、お試し移住、田舎での暮らしを実際に体験するワークショップや古民家改修、狩猟や田んぼなどを学ぶ体験コンテンツに参加してもらい、交流を深めて移住希望者と地元住民とが互いに分かり合う機会にしてもらいたいと思います。「お試し」だからこそ「安心して失敗」できると思います。その中から本気の移住者が生まれるといいですね。

「安心して失敗できるいなか暮らし」体験をマキノ町で展開し、集落の関係人口を増やす。

ジビエワークショップの様子

「安心して失敗できるいなか暮らし」体験をマキノ町で展開し、集落の関係人口を増やす。

オーナー田んぼ稲刈りの様子

「いなか暮らしラボ古今集」を運営し始めて変化はありましたか?

福井私はよそ者なので、地域に対して「いなか暮らしラボ古今集」として地域活性化をやりたいというには時間が必要だと思っていました。でもマキノ町に移住して23年が経ち、草刈りや水路掃除などもめちゃくちゃ頑張って、町の役員を務めたりもして、ようやくほんまの住民になれたと思えるようになりました。この1年で地域の皆さんに「なんとかしないと本当にもうこの集落が消滅してしまう」と訴え続けて、「村のお金は一銭も使わないから分校の改修をさせてほしい」とか「JAに米を安く卸すのではなく、自分たちでお客さんに売りましょう」と呼びかけました。

その結果、「わしらも何かやろうかな」という方々や、自分が作った米をPRしようという農家さんも出てきて、少しずつですが変化は起こってきていると感じています。来春からあらたに田んぼにチャレンジする方も出てきました。

また、「空き家改修の教科書」という本を作ったのですが、その本を見たことがきっかけでマキノ町内の古民家を購入してセルフリノベーションを始める方、集落の土地を買って、セルフビルドに挑戦しようとする方まで出てきました。

福井さんにとっての地域活性を教えてください。

福井私は、地域活性化は観光地化することではないと思っています。観光客を受け入れても、地元に人がいないと続かない。魅力や目玉がない地域は資本を入れることも難しいです。だから結局、地域活性化とは人がそこに住むことが一番だと思います。人が住むことで「なにかやろうかな」と機運が高まること、それが地域活性化につながり、お金を生み出すのはその後の話だと感じています。また、この静かで美しい環境は人がいてこそ維持できます。

私がここで楽しく生きていたら、それを見た子どもたちは多分「こういう生き方もあるんや」と選択肢のひとつにするでしょう。だからまずはここで私たち自身が楽しく生きることを大切にしたいと思います。「帰ってきたくなる故郷」を目指しています。

「安心して失敗できるいなか暮らし」体験をマキノ町で展開し、集落の関係人口を増やす。

在原分校のリノベーション時の様子

「こういう人に来てほしい」と
「こういう場所に移住したい」の
マッチングを続けていきたい。

福井さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

福井在原分校のプロジェクトを始めてから、急激にいろいろな人の出会いが増えました。僕たちも田んぼでお米をつくらせてもらえませんかという企業の方や、リフォーム塾に来てくれる生徒さんで、自分も家を建ててみたいという方もいて、自分自身の行動でこんなにも周りの環境が変わるということを実感しています。茅葺き屋根の家を直している7年間はとにかく必死で、そういう人との付き合いはドライだったのですが、今は人と話すことが楽しいです。1人ひとりに人生ドラマがあり、お互いを必要としていることもあり、いろいろな人に出会えることが楽しみで仕方ありません。だから今は人が集まる場所には積極的に行くようにしています。今後も、いろいろなプロジェクトを通してこの集落にもっと人が訪れるようにしていきたい。それが私にとっての“EVOLUTION✕LOVE”です。

10年、20年後はどうなっていたいと考えていますか?

福井毎日楽しいので今の活動を継続していると思います。移住だけでなく、在原のお米を食べてくれる、在原に通って共に作業して汗を流す、そんな「第2の住民」が増えているといいですね。この仕組みや試みがマキノ町、高島市全体に広がることを望んでいます。なんといっても高島市は消滅可能性都市ですから(笑)

別のプロジェクトでは大学生と交流もあります。彼らがこういう生活を楽しいと感じて、社会に出てからも10年後にここへ戻ってきたり、仕事でつながったり移住してくれたら嬉しいですね。地元のおじいちゃんおばあちゃんは「変な人に移住されたらかなわん」といいますが、ワークショップに来てくれたり、草刈りを手伝ってくれたりして顔見知りになった人が移住することになったら、すんなり受け入れてくれると思います。「こういう人に来てほしい」ということと「こういう場所に住みたい」というマッチングができる時間を作り、濃い関係人口を増やしていけたらいいと思います。

福井さん、ありがとうございました!いなか暮らしを叶えるサポート活動を行いながら、在原集落をもっと活性化させようと頑張る福井さんを、今後も応援させていただきます。