空でつながろう

Interview Vol.14 職人との出会い
伊勢根付の継承

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第14弾の今回は、三重県四日市市で、伊勢根付の職人として自ら伝統文化を継承しつつ、全国の職人がつながれるコミュニティづくりに奔走する梶浦さんにお話を伺いました。

職人との出会い 伊勢根付の継承

「凛九」メンバーの皆さんと梶浦さん(写真右)

つながりと発信で、伝統工芸の命を紡ぐ。

Q.伝統産業を継承したいと思ったキッカケを教えてください。

梶浦私は根付職人になる前は、NHKでキャスターをしていました。その時に「東海の技」という、東海三県の職人を紹介するコーナーを担当していたのが転機ですね。色々な職人さんとお話する上で皆さんおっしゃっていたのは、後継者がいないということ。あまりにも皆さんから後継者不足の話を聞くので、これは仕組みに問題があるんじゃないかと思いました。

自分なりに感じたのは、発信力不足。職人って寡黙なイメージが強いですよね。そのイメージ通り、職人の世界では、「自分はこんなに素晴らしい仕事をしている」と発信することが野暮だと思われています。そのため魅力が伝わらず、後継者が減っているのが現状です。

それなら職人が「この仕事は素晴らしい」と発信できれば、興味を持ってくれる人が増え、後継者が入って未来が変わるのでは?と思ったのです。私は「東海の技」を通して、各伝統工芸に込められた想いや歴史に数多く触れました。そこで発信者を経験した自分だからこそ、この風潮に一石を投じることができるのではないかと考え、職人になることを決めました。

職人との出会い 伊勢根付の継承

緻密さと洒落が利いた伊勢根付

Q.その中で伊勢根付を選んだ理由を教えてください。

梶浦「東海の技」の中で特に印象的だったのが、伊勢根付です。根付とは、主に江戸時代に使われた留め具のこと。男性が使う煙草入れ・印籠・巾着が着物から落ちないよう、留める役割を果たしていました。

大きさは3〜4cmと小さいですが、細かな彫刻が施されています。それに洒落やとんちなどの意味が込められたものも多く、使う人と作る人の知恵比べと言える粋な遊び心が満載です。何より木や象牙で作られるので、使っていくうちに摩耗していくのです。そうして飴色になったものが「なれ」と呼ばれ、価値がつく。時を刻むほど価値が高まるというのも日本らしい魅力だと思い、自分も作り手になることを決意しました。

Q.根付を通した、地方創生への想いを教えてください。

梶浦私は大学時代に観光学部にいたので、観光を通して地方をどう盛り上げるかずっと考えていました。そこで学んだのは、その土地ならではの文化がポイントになるということ。最近、訪日客が増えてきたことからも、今後日本が観光に力を入れていくことは間違いありません。だからこそ地方の文化や伝統工芸を地域資源として残していくことが地域創生になるし、日本の生きる道だと思っています。

Q.若手職人を集めた「常若(とこわか)」や「凛九(りんく)」というグループ活動がはじまった理由や、活動への想いを教えてください。

梶浦作り手になって気づいたのは、門戸を叩く若者はいるものの、辞めていってしまう現実でした。伝統工芸は、職人と弟子との二人だけの世界。たとえば会社でも、同期とちょっと愚痴を言ってスッキリするということ、ありますよね。伝統工芸の世界は気持ちを発散する仲間がいないことが息苦しくなり、辞めていくのではと感じました。

そのため、「常若」は三重県の若手職人同士で遊んだり飲みに行ったりというつながりを作ることから始めました。異業種の職人が集まっている珍しさが注目され、展示会などのお声がけをいただくようになりました。ちょうど伊勢志摩サミットも重なり、海外のワークショップへのお誘いが特に増えたのです。需要があると手応えを感じましたね。

「凛九」は、岐阜の美濃和紙・豊橋の豊橋筆の女性職人3人との対談がキッカケです。彼女たちと話をするうちに、将来への不安や金銭的な悩みを聞きました。そこで東海三県の女性職人に声を掛けて、「凛九」を結成しました。マスコミにいた経験を活かし、東海地方の若手職人の取り組みを“知ってもらう”ことに活動の重点を置くことにしました。

職人との出会い 伊勢根付の継承

「常若」メンバーの皆さんと梶浦さん(右から3番目)

全国の職人がつながって、
助け合って、発信し合う。

Q.梶浦さんにとってのEVOLUTION × LOVEを教えてください。

梶浦「常若」や「凛九」の活動は、自分の中で大きな変化でした。本来、お金を稼ぐだけなら、自分ひとりでやった方が効率的です。しかし、みんなで活動することで、地域の伝統工芸を守ることができるという社会的意義を強く感じるようになりました。

伝統工芸を守るためには、とにかく知ってもらうこと。みんなで力を合わせて伝統工芸を守ることが、ゆくゆくは日本人が日本人たる誇りを感じられることにつながるはずです。そして少しでも、今の世の中を生きやすいと思ってくれる人が増えればいいなと、最近では考えています。

Q.現在の活動の10年後、20年後をどうイメージされていますか。

梶浦「今」をちゃんと続けていって、10年後も今のカタチを残していけることを大切にしたいです。工芸のカタチは進化していくかもしれないし、私たちの活動も変わっていくかもしれない。でも、日本人が守ってきた精神性や伝統工芸に込められている想いは、変えずに受け継ぎたい。そのために私ができることは「今」の伝統工芸を毎日、一歩一歩つなげていくことだと思います。

遠い先の未来を考えると、途方に暮れてしまいます。だからこそ毎日、今日という日を大切にしていくこと、今日と同じ明日を続けていけるように頑張っていくこと。それが受け継ぐことだと考え、毎日を過ごしています。

Q.全国の職人たちがつながることで期待していることや、何かが生まれるイメージはありますか?

梶浦「凛九」が良い例で、グループの活動が世界に目を向けた存在になっています。実際、「凛九」を伝統工芸の日本代表として世界に発信していこうという動きもあります。

日本は他の国と比べても、伝統文化がしっかり残っている国。技術力や作品に込められた想いは、世界でも高い注目を集めています。たとえば海外で根付は、浮世絵・漆・刀に並ぶ「日本四大芸術」と言われています。そのため「根付を見たいから日本に来た」「日本人の考え方を学びたい」という外国人観光客もいるほど。しかし根付を知らない日本人は少なくありません。このように、日本には伝統工芸という世界で評価されるコンテンツがあるので、それを守っていくことで、日本人のアイデンティティや未来を守っていけたらと思います。

Q.現状、困ったことや足りていないことはありますか?また、実現したいことはありますか?

梶浦お金の問題は常にありますね。たとえば「凛九」の活動は東海三県にまたがっているので、自治体や国の補助金の対象になりにくいです。それでもメンバーにお金を出させることは避けたかったので、最初はSNSで地道に協賛金をお願いしました。

今では少しずつ企業とのタイアップも増え、たとえば動画は電力関連の企業様に、パンフレットは通信関連の企業様にスポンサーになっていただきました。それでもグループ自体のスポンサーではないので、企画のたびにスポンサーを探さなければいけないのが現状です。

そのためにもやっぱり大切なのは、認知度の向上。具体的には認知度を向上させることで、マンパワーや販売場所の不足を補いたいです。

たとえばコロナの影響もあり、販売場所が足りないメンバーもいます。また、工芸品を作るための道具がなく、その道具を作る職人もいない。だから、道具作りから自分でやらないといけない。その結果、道具作りに時間がとられ、肝心の作品が作れないと困っているメンバーもいます。

だからこそ認知度が上がれば販売場所も増えるし、弟子に興味を持ってくれる人も増える。価値が上がり、価格も上げられる。職人がちゃんと生活できるようになって、ちゃんと伝統工芸が続いていく。そのような循環を作るためにも、とにかく「知ってもらう」活動を、グループで進めていかなければいけません。

Q.若者へのメッセージはありますか?

梶浦若い人から修行や取材、卒業制作のお話をいただくことは、とっても多いです。そこで感じるのは、若い方の柔軟性。皆さん多才で、教えたらすぐに要領を掴む。そして、やろうと思えば何でもできる将来を感じます。

だからこそ、興味を持ったら職人に会いに行ったり体験したり、ぜひ一歩踏み出してほしいですね。今の時代、本業と並行して伝統工芸を作るというスタイルでもいいと思っています。将来の色々な選択肢を考える一つに、伝統工芸を加えてもらえたら嬉しいですね。

   ありがとうございました!NHKのキャスターという経験を活かした発信力と求心力を武器に、伝統工芸の継承を考えている梶浦さん。「凛九」や「常若」が今後世界に羽ばたき、もっと大きな輪になっていくことを、応援したいと思います!