Interview Vol.144
心に火をつける仕事論
データで日本を支える経営者が、伝えたいこと
EVOLOVEが福岡県宗像市で開催した「キャリアフェス in むなかた」。
福岡県の高校生と大学生向けに、キャリアについて考える機会を創出しました。テーマは「若者の心に火をつける」。
「今日は、皆さんの心に“火”をつけに来ました」
そう語りかけたのは、データを軸に企業の成長を支援するKUROCO株式会社代表・齋藤健太氏。
自身のキャリアの紆余曲折を包み隠さず語りながら、「どう働き、どう生きるか」を学生たちに真正面から投げかける時間となった。
データで日本を支える、KUROCOという会社
齋藤氏が代表を務めるKUROCO株式会社は、「日本をデータで支える」というミッションを掲げる企業だ。
企業のマーケティング支援を軸に、データ分析を活用した売上向上施策の立案・実行を行う一方で、自社でもECや美容サロンなどの事業を展開している。
社員数は現在十数名規模。ベンチャー企業ならではのスピード感と裁量の大きさが特徴だ。
やりたいことがなかった学生時代
講演の後半、齋藤氏は自身の人生を振り返りながら話を進めた。
「正直に言うと、学生時代の僕は、皆さんみたいに意識が高くなかった」
推薦で大学に進学し、サークル活動とアルバイト、そして恋愛に明け暮れる日々。
将来やりたい仕事が明確にあったわけではなかったという。
ただ、一つ強調したのはアルバイト経験の価値だ。
「学生時代にやっておいた方がいいことは、英語とアルバイト、できれば接客業です。ビジネスの最後は、必ず人と人の接点でお金が生まれる。接客は、その本質を学べる場なんです」
相手が何を考えているかを想像し、先回りして動く。その感覚は、今の仕事にもつながっているという。
コンサルティング会社で知った現実
新卒で入社したのは、経営コンサルティング会社。
そこは厳しくも成長できる環境だった。
「今では考えられないかもしれませんが、当時は怒鳴られるのも当たり前。会社に泊まる日も珍しくなかった」
忙しさのあまり、長年付き合っていた恋人と別れることにもなった。それでも、仕事自体にはやりがいを感じていたという。
就職先を選んだ理由はシンプルだった。
「やりたいことがなかったからこそ、いろんな業界を見られる場所を選んだ。そしてもう一つは、トップの人間に惹かれたからです」
齋藤氏は、学生に向けてこうアドバイスする。
「会社を選ぶときは、企業名よりも“人”を見てほしい。トップが何を考え、何を語っているか。そこに共感できるかは、とても大事です」
独立、失敗、そして学び
順調に見えたキャリアは、リーマンショックをきっかけに大きく揺れる。
仕事が減り、将来像も描きにくくなった。
そんな中で、独立した先輩たちと働く機会が増え、「同じだけ働くなら、楽しいほうがいい」と考えるようになる。
誘われる形でベンチャーの立ち上げに参加するが、そこでは厳しい現実が待っていた。
「仕事はない、給料も出ない。最終的には、父にお金を借りて会社を支えました」
結果的にその会社を離れ、フリーランスとして再出発。
決して順風満帆ではなく、精神的にも追い込まれる経験もしたという。
「社会に出ると、本当にいろんな人がいます。中には、関わらないほうがいい人もいる。だからこそ、自分を守る力も大事です」
その言葉には、経験者ならではの重みがあった。
再就職、そして再び独立へ
結婚し、子どもが生まれたタイミングで、一度は経営側として再就職する。
出版社で経営に携わり、学びも多かった。
しかし最終的に選んだのは、再び自分で舵を取る道だった。
「一度、自分で意思決定する自由を知ってしまうと、もう会社員には戻れなかった」
そうして立ち上げたのが、現在のKUROCO株式会社だ。
社員は年々増え、売上・利益ともに成長を続けている。
バスに乗るか、タクシーを捕まえるか
講演の終盤、齋藤氏は“働き方のマインド”をこんな例えで語った。
「従業員マインドはバス。経営者マインドはタクシーです」
バスは、行き先もルートも決まっている。待っていればやってくる。
一方タクシーは、自分で手を挙げ、行き先を伝え、ルートも選ぶ。ただし、遠くに行けば行くほどお金(自己投資)もかかる。
「会社員でもいい。でも、バスに乗っているつもりでいるか、タクシーに乗っているつもりでいるかで、人生は大きく変わります」
誰かに決めてもらうのではなく、自分で選び、進む。
たとえ小さな一歩でも、「自分で手を挙げる」ことが大切だという。
AI時代だからこそ、人の価値を磨く
データやAIを活用する企業の代表として、齋藤氏はこうも語る。
「AIが仕事を奪うというより、人の価値が変わる時代だと思っています」
便利になるほど、最後に問われるのは「この人と一緒に仕事がしたいか」「この人から買いたいか」という部分だ。
「だからこそ、スキルだけでなく、人としての価値を磨いてほしい」
場所に縛られず働ける時代だからこそ、好きな場所で、好きな人と、社会に価値を返していく。
そんな働き方も、十分に現実的な選択肢になっている。
デジタル人材育成という“挑戦の場”
別のとある日、横浜市が主催する「女性デジタル人材育成事業」の一環として行われた、ウェブマーケティングキャリアスクールのマッチングイベント。その場に集まったのは、新しいキャリアを模索する女性たちだった。女性は結婚や子育てなどのライフイベントでキャリアが中断されることがあるため、最新のデジタルスキルを身につけ、再就職できるように横浜市が実施している企画だ。
このマッチングイベントは、国の「女性デジタル人材育成プラン」を背景に、横浜市が主催している。受講生たちはウェブマーケティングを中心に、講座や実習を通じてスキルを身につけてきた。その集大成として、趣旨に賛同する企業数社と直接出会い、互いを知る場が設けられている。
KUROCO株式会社として、齋藤氏はこの企画に参加していた。
「やりたいことがなくてもいい。今すぐ答えが出なくてもいい」
女性たちにこうメッセージを送った。
「環境に飛び込み、その中で自分ができることを一つずつ掴んでいってほしい。そうすれば、きっと道は見えてくる」
人生のハンドルを誰かに預けるのではなく、自分で握る。
その覚悟さえあれば、キャリアは何度でも描き直せる。
会場に集まった参加者たちの表情には、確かに小さな“火”が灯っていた。
それは、これから社会に出る不安と同時に、「自分にもできるかもしれない」という希望の光だった。
KUROCO株式会社
代表取締役 齋藤健太
