Interview Vol.158
福知山や地元愛を醸成するために
「かっこいい大人」に会う機会を創出。
EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第158弾の今回は、大学で教えながら、地元の中高生にも「かっこいい大人」と触れ合う機会を創出する活動を行う杉岡秀紀さんに話を伺いました。
杉岡秀紀さん(写真左:京田辺でまちづくりNPOを一緒に立ち上げた市民の方とのツーショット)
奈良で過ごした時代と
大学時代の活動が
今の取り組みの原点に。
現在の活動について教えて下さい。
杉岡福知山公立大学で地方自治や地域政策を教えながら、中学校や高校でも教育活動を行っています。また行政とまちづくりに関する事業も行っています。
今の活動を行うことになったきっかけを教えてください。
杉岡奈良県出身ですが、18歳までは家と学校の往復で、地域の方と関わることがありませんでした。だからかっこいい大人やおもしろい人とも出会っていなくて、地元愛が湧かないから地域に貢献したいとも思いませんでした。それを反面教師にしなくてはいけないという問題意識はずっと持っていました。
大学時代はゼミ活動でまちづくりに参画し始めて、大学がある京田辺市のまちなかへ調査に行ったことがありました。その時に「あんたら調査調査っていうけれど、就活になったら辞めるし、卒業しておらんくなるやろ。私らはモルモットちゃうで」って言われて。すごいショックでした。地域と学生に関係性がないという現実を突きつけられました。ただ横にいるだけじゃ交流や連携は生まれない、一歩踏み出して関わりを作っていかないと、大学の後輩たちも同じような気持ちを味わってしまうなと感じました。そこで、学生と市民をつなぐというコンセプトで2003年にNPOを立ち上げました。
今は福知山市はじめ北近畿で「かっこいい大人との出会い」をキーワードに中学校や高校に授業に行っています。かっこいい大人がいれば、地域と関わりを持ちたいという学生は増えるという問題意識からのアクションです。他にもいろいろな地域と関わっていますが、実は今やっているこのかっこいい大人と学生をつなぎたいという活動は大学生の頃から20年以上変わっていなくて、原点は奈良に住んでいた時に感じた思いや、大学時代での活動にあると思っています。
中高校向けの講義
杉岡さんが考える「かっこいい大人」について教えてください。
杉岡「もう一度会いたくなる人」ですかね。もう一度会いたいと思う人は人間力があります。今は口を開けば「このまちは人口が減って次の担い手がおらん」「まちから若者がいなくなった」といったマイナスの会話が多くなります。しかし、スポーツでも文化でも、何かひとつに熱中しているかっこいい大人と出会うと「ああこの人かっこいいな」となるわけです。ただ、こういう人とは学校と家の往復だけじゃ出会えないんですよね。そのあたりの架け橋をする人が必要で、それが私の役割だと思っています。
たとえば、最近は高校生と地元の議員が話し合う機会を多く設けています。議員には「背広を着ずにバッジを外してきてください」と頼んでいます。そうすると、顔見知りになってまちで会えば挨拶するようになる。中にはかっこいい大人もいたりします。今はそういう場を作ることに力を入れています。
以前、元テレビマンの越前屋俵太さんにお会いした時に「巻き込みビリティと巻き込まれビリティ」というおもしろい言葉を教えていただきました。ようするに巻き込む能力、巻き込まれる能力があるかどうかということ。人を巻き込むだけではなくて、「巻き込まれる能力」を持っている人も人間力が高い人かもしれません。そういう人間力を伝えたいと思っていますね。
杉岡さんの活動によって変化はありましたか?
杉岡私が務めている福知山公立大学には今1000人弱の学生がいます。「たられば」の話になりますが、当時の上司と私がこのまちに16、17年前に関わっていなかったら、もしかしたら今、大学はなかったかもしれません。以前あった私立大学は、2015年に募集停止を決めたのですが、その際、上司である元副学長が、まちから若者を消さないための支援をし、それで大学の公立化が決まり、存続へと繋がりました。もし私立大学のままだったら、このまちから大学自体がなくなり、若者が一度まちを出たら帰ってこない、そんな景色が広がっていたかもしれません。そう考えると、2009年からこのまちに関わり続けて、公立化した時期から関わることができたことは私にとっても大きな変化ですし、その意味で、少しは地域に貢献できたのかなと思っています。
大学(ゼミ)生を連れて島根にフィールドワークに入った際に地元のみなさんと。
役所が持つポテンシャルと
地元愛を引き出していきたい。
杉岡さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
杉岡アメリカのクランボルツという研究者が「仕事の8割は偶然で決まる」という有名な話をしていますが、まさに私もそうです。でも偶然は家でじっとしていてもやってこない。自分が動いたり話したりしていないと、やってこないんですよね。私の最近の関心テーマは副業・兼業です。専門が地方自治なので、日頃から自治体の方と会話する機会が多いのですが、公務員の方々は副業や兼業ができないと思い込んでいます。しかし、実は許可が取れたらできるんですよね。地方公務員は現在約280万人いるのですが、この人たちの能力を役所に閉じ込めていてはもったいないと思うのです。その能力を解放できる機会があれば、地域ももっとよくできると思っています。地域で最もお金を動かしているのも行政であることが多いですしね。今後はそういう部分で、いろいろな役所の方々の地元愛を引き出し、活動につなげるお手伝いをしたいと考えています。地域を良くしていくには、その役所が持っているポテンシャルをもっと引き出していくことが大事です。子どもから大人まで地元愛を表現できる人をもっと増やす。それが私の“EVOLUTION✕LOVE”です。
最後に、自分の地元はひとつじゃない。例えばお父さんやお母さんの生まれ故郷など、縁のある土地はたくさんあると思います。最近はこうした住民を「ふるさと住民」呼んでいますが、1人ひとりがたくさんの地域と関わっていきながら、自分の持っている可能性を解放できる。そんな日本社会になるといいなと思っています。
副業の講演会(啓蒙)やテレビ出演、万博会場でイベント登壇した際の写真
10年、20年後はどのようになっていたいですか?
杉岡今は4年先、5年先も展望するのが難しい世の中です。ただ、そのキーワードは2つあり、ひとつは人口減少です。今、日本は年間80〜90万人ぐらい人口が減少しています。これはひとつの県がまるまるなくなってしまうくらいの人数ですよね。10、20年先はもっと減ります。そうなると、地域で人口の取り合いをしても仕方ないんですよね。この問題を解決するには、ひとりの人間がひとつの街でしか住めないっていうこの常識を崩して、ひとりの人間が複数のまちと関わることをもっと大胆に許容するべきだと思います。住まないにしても訪問するとか、オンラインで関わるとか、そういう関係人口をもっと増やしていかなくてはいけないと感じています。
もうひとつはAI。このAIがもたらす進化が読めません。最近、アメリカではブルーカラービリオネアという言葉が出回り始めています。いわゆる法務や財務、経理、企画、広報などこれまで大卒の仕事とされていたホワイトカラー職がAIでもできるということになり、大卒の方の行き先がどんどんなくなっているんですよね。そうなるとエッセンシャルワークや第一次産業など、本当に人間しかできない仕事のニーズが高まり、給料が逆転するということです。10年、20年先と言わず、5年先ぐらいには、人はAIにできない仕事を探し求めて、逆に地方に戻る可能性があるのではないかと思います。そうなると、人口が集中している都市部より、自然も食も人間関係も豊かな地方や周辺の地域が見直されるような時期がきているかもしれませんね。

杉岡さん、ありがとうございました!学生や中高生、行政と関わりを持ちながら、福知山をはじめとする日本の各地域が抱える課題解決に取り組む杉岡さんを、今後も応援させていただきます。