空でつながろう

Interview Vol.159 自分が楽しいと思えている人の
集積が理想的な地域を創る。
島根県大森町でまちの賑わいを
作る場所を創出。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第159弾の今回は、滋賀県高島市での地域ブランド事業を経て、現在は島根県立大学で教鞭を取りながら企業やまちづくりのブランディング事業も行う平井俊旭さんに話を伺いました。

自分が楽しいと思えている人の集積が理想的な地域を創る。島根県大森町でまちの賑わいを作る場所を創出。

「高島の食と人」を通して
「高島にはおもしろい人がいる」
という思いを地域に醸成させる。

現在の活動について教えて下さい。

平井2014年「雨上(あめあがる)株式會社」を起業し、主にローカル企業の事業コンサルティングやデザインディレクション、行政と連携したローカルブランディングなどを行っています。また「株式会社 共立(ともだち)」の代表取締役としては、滋賀県発の発酵グルメギフトブランド「10% I am」の運営、「一般社団法人ヨリシロ」の代表理事としては、「石見銀山まちを楽しくするライブラリー」の運営も行い、島根県立大学地域政策学部地域づくりコースの准教授として島根県浜田市に住みながら、全国の仕事をしています。

高島市でブランディングを行うことになったきっかけを教えてください。

平井以前は、「Soup Stock Tokyo」(スープストックトーキョー)を運営する「Smiles」に務めていました。私が入社した当時は赤字店舗を多数抱えて経営継続が困難な状況でしたが、社長の遠山正道氏が起業時に目指したビジョンを丁寧に紐解き原点回帰した店作りを行うことで、事業の再生を裏から支えて来ました。そして「Smiles」で15年間取り組んできたことを地方で活かせないかと考え、仕事を通して知った滋賀県高島市へ2015年に移住をして、雨上株式會社を設立しました。そこで、最初に手掛けたのが、「びわ湖高島ブランド戦略推進事業」と「都市部における特産品販路開拓事業」でした。

経緯としては、滋賀県高島市に移住して2ヶ月後の2015年6月に、3つの地方創生予算を活用した事業のコンペがあり、そのうちの2つに応募し運良く採用されました。どちらも地域ブランドを意識した事業でした。地域におけるブランディングには様々な捉え方があり、一律の答えを見出すのは困難です。一方で、なぜブランディングをする必要があるのか?と考えるところから始めないと、非常に曖昧なプロジェクトになってしまいます。そしてブランディングに際しては自らその価値に気付かない限りスタート地点にすら立てません。まずは高島市に住んでいる人自身が地元の魅力に気づくことが必要だと思いました。自分が東京から高島市に移住してまず素晴らしいと感じた点は、豊かな自然環境と自分たちが食べるものを当たり前に生産や採取していることでした。ところが、地元の人たちは、そうしたことが当たり前過ぎてその暮らしに価値を見いだしていない。そこで、「びわ湖高島ブランド戦略推進事業」においては、「高島の食と人」というテーマでそれぞれの地域でおもしろい暮らしをしている人をピックアップし、地元の写真好きな方々や地域の暮らしに関心のある移住者を中心にした取材チームを編成し、オンランで情報発信をしていこうという提案をしました。この事業を通じて本当に沢山の素晴らしい方々とつながることができたことは今でも自分の大きな財産となっています。

自分が楽しいと思えている人の集積が理想的な地域を創る。島根県大森町でまちの賑わいを作る場所を創出。

高島市の産物ブランディング提案の一つ。

「びわ湖高島ブランド戦略推進事業」はどのような形で進めていったのですか?

平井高島市の役場の担当者2名の方と一緒に進めました。この2人はとても熱意のある方たちで、私と一緒に昼夜問わず、自治会や集落の会議に足を運んでくれて「地域の自然環境と密接に繋がっている、ユニークな暮らしをしている人はいませんか?」と滋賀県で最も広い高島市の隅々まで訪ね回ってくれました。ですが、保守的な地域の人たちからみれば、私は突然外からやってきたエイリアンのような存在でした。私はもちろん、役場の担当者さんも含め強く非難されることも有りました。ある時、役場の担当者さんに「わざわざ移住までしてこの地域のためにやろうとしているのに、こんなに嫌われてまでやる意味ありますかね?」と尋ねたら、「這ってでも行きましょう」と予想外の返事が返って来ました。その熱意に感動しつつ、プロジェクトに対する自分では気付かなかった上から目線のスタンスから考え直す必要があることに気付きました。

高島市は6つの地域が合併してできた市で、それぞれに個性があります。6つの地域でそれぞれにユーニークな暮らしをしている人を選び、6地域×6ストーリーで36本のストーリーを制作。1ストーリーは3章に分けて週3回オンラインブログを配信する取り組みを続けました。

また、地元の方が自分の仕事を紹介しながら地域の魅力を伝えるツアーの仕組み「サトパス」のテストツアーも12回ほど実施しました。例えば自分が育てている米の水源を辿り、新米を食べ比べる昼食をとってもらった後に、昔の脱穀機で脱穀体験をしてもらうツアーなど、地元の人しかわからないようなコンテンツをプログラム化し、ブログで発信している情報を体験までつなげる取り組みを行いました。

自分が楽しいと思えている人の集積が理想的な地域を創る。島根県大森町でまちの賑わいを作る場所を創出。

タカシマサトパスの栞と実際のツアーの様子

活動をはじめて変化はありましたか?

平井任期中には「DISCOVER高島会議」というトークイベントを市内や京都、大阪などで7回開催しました。「DISCOVER JAPAN」誌の高橋編集長にお越しいただき、客観的な見解を提示いただき、高島市の魅力に気付いてもらうことを目的としていました。最終回は市長と高橋編集長と私が登壇し3年間の振り返りを行いました。衰退をしていってしまう地域でなにか変化を起こすときは、変化をおもしろがれる人が地域のためではなく、自分のために周りを巻き込んでゆくことが重要だということを話させていただきました。私のやってきたことは、そういう人たちをたくさんピックアップして、その暮らしの魅力を関心のある人達に届けること。そしてまずは、自分達の地域の魅力や魅力的な人を知り、つながることが大切なのではないかと思っています。そうした意識を少しは醸成できたかなとは思っています。

島根県へ移住したきっかけと、「石見銀山まちを楽しくするライブラリー」について教えてください。

平井「高島の食と人」のプロジェクトを通して知り合った高島市の若手生産者を代表する1人石津大輔さんとつながり、その縁で島根県立大学の井上厚史先生と知り合いました。ちょうど大学が新たに地域政策学部を創設する時で、そこにオブザーバーとして呼ばれたのが大学教員となるきっかけになりました。

私が代表を務める一般社団法人ヨリシロが運営する「石見銀山まちを楽しくするライブラリー」は、石見銀山のある大森町の中村ブレイス株式会社という義肢装具を生産販売する企業が空き家をリフォームして町内に移住者を増やす取り組みのひとつとして始まりました。中村ブレイス社と島根県立大学の井上厚史先生が懇意にされていたことから、「この古いお屋敷を大学が使えるライブラリーとして立ち上げてほしい」という依頼を受け、雨上株式會社として取り組ませていただきました。

中村ブレイスの中村俊郎会長は「大学生がたくさん大森町に出入りすることで街に賑わいを創出したい」という思いを持っていらっしゃったので、単に図書館を作るのだけでは大学から車で1時間以上離れた所に学生が通うのは現実的では無いと考えました。そこで、学生が活用するだけでなく、むしろ一般のお客様を対象にして学生自身が施設運営する仕組みが必要だと考えました。しかし学生を雇用するだけの潤沢な予算は無いので、学生が対価を得ながら施設を管理するために施設内にカフェを設けました。また、集客のためには県外から来る観光客だけではなく、県内の家族利用を促す必要が有ると考えました。そのために、子どもが絵本を探検気分で探せるような銀山の採掘坑道を模した洞窟のような書庫や、中庭に水遊びができる浅いプールを設けました。

オープンから3年が経ちましたが、概ねイメージしていた状況を実現出来ており、クライアントである中村ブレイス社にも納得いただける施設になりました。

自分が楽しいと思えている人の集積が理想的な地域を創る。島根県大森町でまちの賑わいを作る場所を創出。

石見銀山まちを楽しくするライブラリーの外観と内観

プロジェクトを通して感じたことはありますか?

平井人口が減る中ですべての市町村をこれまで通りに維持するのは無理だと思っています。しかしまずは、「地域の人たちが楽しく暮らせていること」が最も大事なことだと気付きました。地方創生などというと、すごいことをしなければいけないような気になりますが、結局一人一人の暮らしの集積が地域を構成しているので、それを他所からいろいろ言われる筋合いは、本来は無いのです。しかし地域のインフラを維持するにはお金がかかり、現実を見渡すと課題は山積しています。この状況は役所が解決出来るレベルの問題では無いと思っています。これからはおそらく暮らしを楽しめて自ら周りを巻き込める人がたくさんいる主体的な地域は残るし、悲観してばかりいる人が集まっている地域は消滅せざるを得ないのではないかと思っています。

自分が楽しいと思えている人の集積が理想的な地域を創る。島根県大森町でまちの賑わいを作る場所を創出。

石見銀山まちを楽しくするライブラリーの様子

地域のため、何かのためではなく
自分がおもしろいと思うことをやり続ける。
その集積が地域を形成している状況が理想だと思う。

平井さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

平井私は最初に高島市でプロジェクトを始めた時に、「この地域のためにやっているんだ」と思っていましたが、それが思い上がりであるということに気付きました。もともと住んでいた方にとっては、直接利益が感じられなければそのプロジェクトの価値を感じてもらうことは困難です。私自身は地域のために中長期的に必要だと思って取り組んだのですが、理解していただけない人を翻意させることにエネルギーを使うより、「これは自分のためにやっているんだ」と割り切って楽しむことが大事だと気付きました。地域貢献とか地域再生という壮大な視点ではなく、自分の生き方として、好きでやっているというのが一番しっくりときます。そういう思いの集積が結果的に地域を作っているのですから。なぜそれが必要なのか?自分が本当に必要だと思えているか。それを基準に行動することが私の“EVOLUTION✕LOVE”ですね。

自分が楽しいと思えている人の集積が理想的な地域を創る。島根県大森町でまちの賑わいを作る場所を創出。

このプロジェクトで受賞と表彰

平井さん、ありがとうございました!与えられた環境の中でベストを尽くし、自分がおもしろい、感動すると思えることに取り組み続ける平井さんを、今後も応援させていただきます。