空でつながろう

Interview Vol.167 デザイン的思考で企業間をつなげ、
福岡県北九州市に「美食産業経済圏」を作り上げる!

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第167弾の今回は、北九州市を美食産業経済圏にするべく多彩な活動を行う八木田一世さんに話を伺いました。

デザイン的思考で企業間をつなげ、福岡県北九州市に「美食産業経済圏」を作り上げる!

八木田一世さん

地元企業が食をテーマにアライアンスすることで
さまざまなアイデアやコラボが生まれる。

現在の活動について教えて下さい。

八木田北九州市でマーケティングデザインスタジオSEE℃を運営し、ブランディングや商品開発などの企業支援を行っています。また北九州市立大学ビジネススクールでは、デザイン経営の講義も担当しています。
現在は「北九州美食産業創造塾」という活動にも関わっています。これは、個々の点として存在している飲食業や食品事業者をつなぎ、北九州の食を面として捉えていこうという取り組みです。

北九州市と市内の食関連事業者23社、そしてオブザーバー企業が参加し、私はディレクターとしてプロジェクト全体の設計に関わっています。江戸前寿司の店やクラフトビールの醸造所、地元のパン屋など、個性の強い事業者が集まっているのも特徴ですね。

北九州市は人口約90万人の都市なので、観光都市のように県外に向けて強くアピールする必要があるわけではありません。一方で、市内には700近い食品土産があると言われていますが、その多くがロングセラー商品です。そのため「決定的な新しいお土産がない」と言われることもあります。

ただ、見方を変えれば、それだけ長く愛されてきた商品が多いということでもあります。北九州には高級店やミシュラン掲載店もあり、地域に根付いた食文化とレベルの高い飲食店が共存している。食のポテンシャルはかなり高い街だと思っています。

そこで塾では、こうした状況を構造的に捉え直すために、毎月定例会を開き、マーケティングや経営について学び合っています。参加企業同士の取組事例の紹介や、専門家を招いた講義や事業者同士の情報交換、分科会での商品開発や工場見学など、実践的な取り組みを行っています。

私自身はデザイン思考をベースに、企業同士がつながるための土台づくりを担当しています。MBAのネットワークも活かし、管理会計の専門家に講義をお願いしたり、スープストックトーキョーを率いる株式会社スマイルズの野崎さんに講演してもらったりと、多様な視点から食産業を学ぶ機会を作っています。

また、こうした活動の成果を市民に向けて発信する取り組みとして、「一期一食2025」というイベントも開催しました。2025年11月に小倉北区の勝山公園で行われ、約40店舗が出店。小倉牛や関門海峡ダコ、ぬか炊き、焼うどんといった地元のソウルフードから、参加店舗による限定メニューまでが並びました。2日間で約1万6000人が来場し、北九州の食の厚みを体感してもらえるイベントになったと思います。

デザイン的思考で企業間をつなげ、福岡県北九州市に「美食産業経済圏」を作り上げる!

「一期一食」のイベント会場

デザイン的思考で企業間をつなげ、福岡県北九州市に「美食産業経済圏」を作り上げる!

「一期一食」イベント時の様子

今の活動を行うことになったきっかけを教えてください。

八木田きっかけは、行政との仕事でした。8年ほど前に、北九州市で官民連携による商品開発プロジェクトのディレクターを務めたことがあります。そのプロジェクトが終わったあと、行政側から「新しいスキームで、食の観点から北九州を企業と一緒に盛り上げる取り組みができないか」という相談を受けたことが、今回の活動の出発点です。

もともと僕は食品メーカーとの付き合いが多いのですが、メーカーの立場からすると、行政主導型の土産開発には在庫や販売のリスクが伴います。売れるかどうかわからない商品を作ることになるからです。

さらに北九州は、どちらかと言えば内需型の都市です。観光都市のように来街者だけをターゲットにした商品は、市民からあまり支持されません。一方で、この街には地元だけで商品がきちんと売れるだけの人口規模があります。だからこそ、観光向けの商品を作るよりも、まずは地元でしっかり支持されるものを育てるほうが現実的だと考えました。

実際、北九州には高級店やミシュラン掲載店も多く、食のレベルはかなり高い街です。高級店の文化と、地域に根付いた食文化が共存しているのも、この街の特徴だと思います。そうしたポテンシャルをきちんと活かせないか。そんな思いから、この取り組みを始めました。

僕の役割は、デザイン思考をベースに企業同士がつながるための土台をつくることです。今回のプロジェクトでも、企画のコンセプトを考えるのと同時に、ネーミングやロゴ、コンセプトムービーを先に作りました。そうしたビジュアルがあると、「このプロジェクトはこういう方向に進むんだ」と共有しやすくなります。みんなが目指す軸が大きくずれないようにするための仕組みでもあります。

デザイン的思考で企業間をつなげ、福岡県北九州市に「美食産業経済圏」を作り上げる!

北九州美食産業創造塾の様子

今の活動を始めて変化はありましたか?

八木田実はこの取り組みは、急いで結果を出すことを目的にしたスキームではありません。まずは企業同士をつないでおく。そうすると、彼らが自発的にイベントを企画したり、コラボ商品を作ったりと、いろいろなことが自然に生まれてくるんです。まさに僕が教鞭をとるMBAのメソッドで言うならばエフェクチュエーションと呼ばれる理論をベースにしています。

だから、いきなり大きな変化が見えるわけではありません。

ただ、異なる業種や個性の強い企業を混ぜておくと、そこから思いがけない動きが出てくる。そういう環境をつくることが、この取り組みの狙いです。

例えば昨年開催した「一期一食」というイベントでは、普段こうしたイベントには出ないような高級寿司店が焼き魚の屋台を出しました。地元の人からも「こんなのは今までなかったね」と言われましたね。こうした小さな出来事がきっかけになって、また新しい企画の話も生まれています。

もし、市内企業や行政部署が食の企画を進めようと思うと、一社ずつ企業にアプローチする必要がありました。でも今はアライアンスができているので、塾に相談をもらえれば、メンバーのネットワークから一度にさまざまな提案が出てくる。

しかも参加メンバーは、すぐに人や資金を動かせる経営者クラスの方々ばかりです。意思決定が早いので、プロジェクトもスムーズに進みます。行政としても、取り組みがいのある枠組みだと感じているのではないでしょうか。

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八木田さんの講義を受ける塾生の皆さん。

八木田さんにとっての地域活性を教えてください。

八木田北九州市は、もともと5つの市が合併してできた都市です。そのため、今でも人々の意識や生活圏には旧市の感覚が残っています。食文化も地域ごとに少しずつ違うので、「北九州の食」として一つにまとめてPRしようとすると、意外と難しい面があります。

ただ一方で、北九州には大きな強みもあります。陸・海・空の交通網がそろっていて、流通環境が非常に良いことです。全国からおいしい食材が集まりやすい土地なんですね。

だから食のポテンシャルはとても高い街だと思っています。

「おいしいものを食べたければ北九州へ行こう」

そんなふうに思ってもらえる街にしたい。そのためには、多彩な食の情報をきちんとコンテンツ化して発信していくことが大事だと考えています。それが結果として、地域の活性化にもつながっていくと思っています。

デザイン的思考で企業間をつなげ、福岡県北九州市に「美食産業経済圏」を作り上げる!

塾生のみなさんと。

デザイン思考を使い、AIではなく
人間にしかできないことを考えることが、
これからの世の中に必要とされること。

八木田さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

八木田MBAの教授になったことは、僕にとって大きな変化でした。それまで実務の中で身につけてきたことを、改めて理論として整理する必要があったからです。2021年からの3年間は、デザインとビジネスの両方のアプローチを組み合わせたアントレプレナーシップを教え、その内容をもとに『CREATIVE ENTREPRENEURSHIP〜自分らしい人生をデザインするための考え方〜』という本を出版しました。

その後、2024年からはクリエイティブな思考全般とビジネス戦略を融合したクリエイティブ思考を用いた戦略論」をベースに授業を教えています。こちらの内容も『CREATIVE STRATEGIES〜柔らかな思考を用いた、これからの時代の戦略論〜』というタイトルで昨年出版しました。

こうして教育と研究を通じて思考が整理されたことで、実務の仕事も以前より深くできるようになりました。

MBAの卒業生と一緒に仕事をする機会も増えていて、教育と実務が循環している感覚があります。これが僕にとっての「EVOLUTION×LOVE」だと思っています。

一方で、デザインの領域そのものも大きく変わり始めています。これまでデザインは職人技として扱われることが多く、思考のプロセスがブラックボックス化していました。本当はもっとマーケティングや戦略と結びつく領域だと思うのですが、そこが十分に理解されてこなかった。

ところがAIの登場によって、その構造が少しずつ崩れ始めています。デザインを単なる制作表現ではなく、「思考の在り方」「社会の捉え方」と考える流れが、地方都市でも垣間見れるようになってきました。

受け身で依頼されたものを作るだけではなく、自分たちで提案し、プロジェクトをつくっていくデザイナーも増えています。そうした変化を見ていると、ここにもまた「EVOLUTION×LOVE」が起きていると感じています。

10年後、20年後はどのようになっていたいですか?

八木田今MBAで教えているクリエイティブ思考を活かした経営戦略論では、人文学や哲学、アートを深く学ぶことを学生に勧めています。

僕が若い頃に接していた経営者の方には、文化や思想について自然に語れる人が多くいました。けれど今の40代、50代の日本の経営者には、そうした話ができる人が目に見えて減ってきているように感じています。

歴史、哲学、アートと聞くと「難しい」「苦手」という声があがります。でも結局、ビジネスというのはすべて人間の営みです。どれだけマネジメントスキルを磨いても、本人に魅力がなければ人はついてきません。

AIが登場したことで、「人間にしかできない仕事とは何か」を考える機会も増えました。これからは、その問いの解像度がさらに高くなっていくと思います。

いま僕のもとで学んでいる人たちが、そうしたことを理解しながらクリエイティブな思考を活かして活躍していく。そんな社会になればいいと思っています。

八木田さん、ありがとうございました!MBAの教授として、また1人のクリエイターとしてデザイン的思考を持つ人を育て、北九州市の未来を見つめて活動し続ける八木田さんを、今後も応援させていただきます。