Interview Vol.176
官民共創の旗手・Publink社が仕掛ける、
日本再生への設計図
「縦割り」「組織の壁」「官と民の分断」――。私たちがどこか諦めまじりに口にする日本社会の構造的な課題に、真正面から挑み、変革を起こそうとしている人がいます。株式会社Publink 代表取締役社長CEO 栫井誠一郎(かこい せいいちろう)氏です。
2026年5月、彼が仕掛けた一大カンファレンス「Publink Summit for JAPAN 2026」。そこには官僚、大企業幹部、ベンチャー経営者など、およそ1,000人が集結しました。土曜日の開催でありながら、会場は組織や立場の境界を越えた凄まじい熱狂の渦に包まれ、無数の新しい「共創」がその場で産声をあげたのです。
サミットの前夜、Publink社のもとに一通のメールが届きました。高市総理大臣からの激励です。『官民共創によって、共に、「日本列島を、強く豊かに。」』という言葉とともに寄せられたメッセージは、会場で代読され、参加者の心を熱く打ちました。
Publink 代表取締役社長CEO 栫井誠一郎氏
死んだ後も感謝される生き方って、
めちゃめちゃかっこいい――鹿児島の石碑が教えてくれた、人生の羅針盤
1,500グラム、生存率50パーセントという過酷な状況から始まった、栫井さんの人生 。「せっかく助かった命だから、その意味を最大化したい」 と語る彼の原点は、幼少期から何度も足を運んだ本籍地・鹿児島に遺された、先祖たちの石碑や銅像にあります。
生前に良いことをした人が、何十年経っても地域の人から感謝され、その記憶が石に刻まれて残り続けている光景。子ども心に「死んだ後も感謝される生き方って、めちゃめちゃかっこいい」と胸が熱くなったそうです。
とりわけ彼に大きな影響を与えたのが、二人の存在でした。
一人は、一代で年商400億円規模のグループを築き上げ、経営者としての謙虚さと器の大きさを教えてくれた祖父。そしてもう一人は、元町長であり、京セラ創業者・稲盛和夫氏の小学校時代の校長先生でもあった曾祖父です。
第二次世界大戦後、仕事を失い海外への移民を望む人々が多くいた時代、行政上のリスクを恐れて多くの首長が二の足を踏む中、曾祖父は「俺がリスクを取る」と、移民に必要な書類を発行し続けました。後年、カリフォルニアへ渡り成功を収めた人々が、感謝の気持ちを込めてカンパを集め、曾祖父のために建てたのがあの石碑でした。
「こういう生き方がしたい」――その思いは、栫井さんの人生の確固たる羅針盤となりました。
広く社会を見渡せる場所で自分の命の使い方を定めたいと、東京大学工学部を卒業後に経済産業省に入った後は、6年半で6つの部署を渡り歩きました。そこで出会ったのは、深夜まで残業しながら本気で国の未来を考えている、優秀な官僚たちの姿。
しかし同時に、構造的な限界にもぶち当たりました。省庁間の縦割り、2000年の国家公務員倫理法による官と民の分断。志を持つ個人が、所属する組織に阻まれて力を発揮しきれないのは、行政だけでなく、自治体も民間企業も同様でした。
「熱い思いを持った人たちが、部署や組織を超えてもっと出会って、未来に向けて語り合える社会を作れたら、日本はもっと良くなる」
その確信が、彼を起業へと決意させました。28歳で経産省を退職した後は、一人での起業や獣医師向けプラットフォームの共同創業を経て、民間ビジネスの感覚と経営スキルを徹底的に磨きました。そして2018年、満を持して「株式会社Publink」を設立。公と民を繋ぐ一点に、すべてを賭けたのです。
掲げたビジョンは、シンプルで、途方もなく大きいものでした。
未来でも言ってもらえる国へ」
本物は、ちゃんといた――事前審査で選抜された1,000人が、“本音”で繋がった日
栫井さんが作り上げてきた、行政や大企業、ベンチャーの強固な信頼関係のネットワーク。そのネットワークを活用して、Publink社が仕掛ける官民共創の大きな一歩となったのが、2026年5月に開催された「「Publink Summit for JAPAN 2026」です。
ベンチャー企業にとって、千人規模のイベントを入場無料で開催するのは、大きなリスクを伴います。それでも栫井さんは「やりたいことに振り切る」と決断しました。
このサミットは、従来のビジネスカンファレンスとは根本的に異なるものでした。申し込み時に「なぜ参加したいのか」を記述させる事前審査制を導入。単なる情報収集目的ではなく、本気で共創に取り組む意志を持つ人だけを招きました。
結果として、土曜日開催にもかかわらず約1,000人が集結。明確なビジョンと、泥臭い本音をぶつけあいたいと願う志ある人たちが会場を埋め尽くしました。
「私たちはこんな社会を創りたい。そのために、所属の枠を越えて力を貸してくれるパートナーを探しています」
その思いに共鳴した参加者たちが、リアルタイムにアクションを起こしていきます。飛び交ったメッセージは1,636件。そして、その場で生まれた具体的な共創リクエストは500件以上に達しました。
サミット後、地方で長年自治体と向き合ってきたある参加者は、興奮を隠しきれない様子でこう語りました。
「正直、地方の面白い人に出会えることは少ないと思っていた。でも、皆さんがピッチでプレゼンしているのを聞いて驚いた。本物って、ちゃんといるんだ。全員と仕事がしたいと思えた。あそこに来てる人のエネルギーがすごかった」
普段の仕事の延長線上では、絶対に交わることのなかった「同志」たち。その存在を可視化したことこそが、このサミット最大の成果でした。
中でも参加者の反響を集めた象徴的な仕掛けが、会場入り口に設けられた官僚スナック、その名もスナック「霞が関ふらっと」です 。受付を済ませた参加者が最初に目にするのは、現役の官僚とカジュアルに接することができる屋台風の空間。
未来の子どもたちに誇れる日本を、
世界を、この手で
インタビューの終盤、本メディアEVOLOVEのテーマである「エボリューション(進化)」と「ラブ(愛)」について栫井さんに問いかけると、一言一言を噛み締めるように語ってくれました。
「人と人が出会うって、ラブだと思うんですよね。そのラブが積み重なることで、エボリューションが起きる。みんなそれぞれビジョンが違って、得意領域も少しずつ色分けされている。それを掛け合わせた時に、本質的な進化が生まれると思います」
栫井さんが語る「ラブ」とは、単なる感傷的な言葉ではありません。組織の文化や言語の違いを越え、相手をリスペクトし、同じ未来に向かって手を取り合うという、強固な信頼関係のことです。
「愛国主義とかそういう話じゃないんです。世の中のより多くの人に喜んでもらえるために、自分の人生を使い切りたい。官民連携の共創がどんどん成長していったら、いつの間にか世界が変わっているかもしれない」
対話と信頼で、縦割りという冷たい壁を溶かしていく。その先に栫井さんが見据えるのは、未来の子どもたちが胸を張って「日本に生まれてよかった」と言える国の姿です。
次のPublink Summitは、さらに多くの「本物」たちが集まる場になるでしょう。そしてその先には、官と民の境界が溶け、人と人の出会いが新しい産業を生み出す日本の姿があるはずです。
1,500グラムという小さな命から始まった物語は、未来の子どもたちが誇らしく笑い合えるようにと日本全体を巻き込む進化の物語へと繋がっています。
