空でつながろう

Interview Vol.177 夢を、希望にして、現実にする。
世界遺産のまち・福岡県宗像市の
伊豆美沙子市長、三期目の覚悟

2026年4月の宗像市長選で三期目の当選を果たしたばかりの伊豆美沙子市長は、選挙戦を終えたばかりとは思えないエネルギーで取材に応じてくれました。世界遺産「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」を擁する福岡県宗像市。この美しいまちの未来を切り拓くリーダーに、お話を伺いました。

取材が始まると、漫画『キングダム』の話題で目を輝かせ、プロレスラーと一緒にアイスクリームを食べ合ったエピソードを嬉々として語る伊豆市長。周囲のスタッフが「この一面も伊豆市長らしいんです」と笑いながら語るほどの自由奔放な人柄を持ち合わせています。しかし、そのチャーミングな奔放さの奥には、10年という歳月をかけて一つの学校を誘致した、長年にわたる熱い想いが静かに横たわっていました。

夢を、希望にして、現実にする。世界遺産のまち・福岡県宗像市の伊豆美沙子市長、三期目の覚悟

福岡県宗像市 伊豆美沙子市長

だから私は県議を辞めて、
市長になったんです――10年越しに叶えた“夢”の軌跡

伊豆市長に三期目の抱負を尋ねると、噛み締めるように言葉を選びながら、力強く答えてくれました。

「夢を、希望にして、そして現実にしていく。それが三期目の、私の抱負なんです」

この「三段階」の哲学は、決して抽象的なスローガンではありません。伊豆市長自身が、文字通り夢を現実に変えてきた軌跡そのものです。

きっかけは、県立特別支援学校の誘致でした。当時、福岡県では県立古賀特別支援学校の通学区域内に、新たな特別支援学校を整備する計画が進められていました。候補地の一つとして福岡教育大学の敷地内も検討されていましたが、実現には自治体による用地整備などの支援が必要とされていました。しかし、当時、県議会議員だった伊豆氏は、宗像市として予算を組み、具体的な支援を進める立場にはありませんでした。

「ならば、自分が市長になろう」

その背景には、特別支援学校に通う子どもたちと保護者の切実な声がありました。特別支援学校には送迎バスがあります。しかし学校が遠方にある場合、子どもたちは長時間の通学を余儀なくされます。

「車で行ったら40分ほどですが、バスだと1時間半くらいかかります。長時間の乗車が難しいお子さんの場合は、親御さんが毎日送り迎えをしなければいけない。そうなると、仕事を続けることが難しくなる保護者もいるのです」

自身には子どもがいないからこそ、子どもを育てる人たちの「応援団」になりたい——その想いが、伊豆市長の胸の中で静かに、しかし確実に育っていきました。宗像に特別支援学校ができれば通学の負担が軽減され、保護者たちが働き続けられるようになります。子どもたちの移動負担も減らすことができます。
さらに、福岡教育大学(教員養成の単科大学)が持つ特別支援教育分野の知見との連携も期待され、少子化の中で生き残りが危ぶまれる大学にとっても、「特別支援教育に特化した大学」という尖った個性になります。「教育のまち・宗像」ならではの、すべてがつながる構想でした。

誘致から完成まで、実に10年。気の遠くなるような道のりを、伊豆市長は一歩一歩、情熱を絶やさずに踏みしめてきたのです。

夢を、希望にして、現実にする。世界遺産のまち・福岡県宗像市の伊豆美沙子市長、三期目の覚悟

城山の麓、教育大学の敷地内に開校した県立特別支援学校

AIやDXで挑む、
子どもたちの「自立」という希望

しかし、学校が開校して終わりではありません。伊豆市長は次なる現実に向き合っています。

「特別支援学校を卒業した後に、その子どもたちはどうやって生きていけばいいのか。親御さんにとっては、自分たちが亡き後にどうやって子どもたちが生き残れるかということが、最大の不安なのです」

支援を必要とする子どもたちの数は右肩上がりで増えています。学校を卒業した後、彼らがどう自立していくのか。その道筋をつけることこそが、三期目の大きなテーマです。

「自立できる仕事をどう見つけて、マッチングしていくか。市長の任期である4年間では完成できないかもしれないけれど、その確かな道筋を作りたいと思っています」

ここでカギとなるのが最先端技術です。AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の技術を使い、できない部分を補助してあげれば、彼らにとって「できる仕事」に変えてあげられるのではないか、と伊豆市長は語ります。これは働き手を増やし、地域経済への参加を促し、本人の生きがいや親御さんの安心にもつながる可能性があります。大きな社会課題への、小さくとも確かな一歩。伊豆市長の目は、学校のさらに「その先」をしっかりと見据えています。

まちの生存戦略の根幹は
「第一次産業」にあり

伊豆市長のビジョンは、福祉と教育だけにとどまりません。宗像市の生存戦略の根幹に据えているのは「第一次産業」です。

「最終的な私の目標は、第一次産業でいかにして生き残るかです。人間にとって最も大切なのは、食べることですから」

その言葉の重みは、近年の災害を乗り越えてきたからこそ、より一層増しています。2025年8月、宗像市は豪雨により大きな被害に見舞われました。田んぼや農地は個人所有のため公的な復旧の手が届きにくく、作付けができなかった農家もありました。重機だけでなく、手作業で泥をかき出す多くの人手も必要とされました。

安全で安心なまちづくりと、一次産業の基盤を守ること。災害という困難を市民とともに経験したからこそ、この二つは伊豆市長の中で決して切り離せないものになっています。

漫画『キングダム』に映る、
宗像の「互譲互助の精神」

取材の中で、特に熱がこもったのが大人気漫画『キングダム』の話題です。
好きなキャラクターを問うと、即座に「紫夏(しか)」の名前が返ってきました。

「紫夏のあの人間性、あの気持ち。彼女がいなければ、後の始皇帝となる嬴政(えいせい)はいない。まさに利他の精神の極みです」

そして、こう続けます。

「これが、宗像が大切にしてきた『互譲互助の精神』と見事に一致しているんです」

互いに助け合う「互譲互助」の精神。自分のためではなく、誰かのために行動する覚悟。伊豆市長が『キングダム』に深く惹かれる理由は、単なるエンターテインメントとしての面白さだけでなく、自分がこのまちで実現しようとしている理想の姿と重なるからでした。

県議から市長へ転身して特別支援学校の整備に取り組んだのも、食料安全保障という課題に向き合うのも、22品目にも及ぶ細かいゴミ分別を市民とともに続けていくのも、すべての根底に流れているのは同じ精神です。自分だけが良ければいいのではない。次の世代のために、いま自分が何をすべきか。

伊豆市長は「キングダムについてなら何時間でも話せる!」と自慢げに笑い、全国の首長を集めた「キングダムクイズ大会」を本気で構想し始めるほど。真面目な政策の話をしていたかと思えば、次の瞬間にはプロレスラーとのエピソードや楊端和(ようたんわ)のお面を掲げて大笑いするお茶目さを見せます。この圧倒的な人間味の振り幅こそが、多くの人を惹きつける伊豆市長の大きな魅力です。

夢を、希望にして、現実にする。世界遺産のまち・福岡県宗像市の伊豆美沙子市長、三期目の覚悟

『キングダム』についてなら何時間でも話せると熱く語る

宗像らしい観光と、
「関係人口」という未来

近隣の市との違いを尋ねると、伊豆市長の答えはとても明快でした。

「宗像は、宗像の人が楽しく穏やかに暮らしているまちなんです」

伊豆市長によると、宗像市には市外から移り住んできた人も多く暮らしているそうです。それにもかかわらずまちの一体感があるのは、移住してきた人々が宗像の穏やかさや利他の精神に惹かれ、このまちの「色」に自然と染まっていくからだといいます。

また、宗像市には世界遺産である宗像大社をはじめとする歴史・文化資源があります。伊豆市長は、こうした地域の魅力を大切に守りながら、多くの人に宗像を知ってもらうことが重要だと考えています。

だからこそ、伊豆市長が特に重視しているのが「関係人口」——移住や定住だけでなく、何度も訪れ、地域と継続的につながりを持つ人を増やしていきたいといいます。

「気軽にやって来て、美味しいものを食べて、人と語り合って、また帰っていく。そんな人たちが自然に集まる場所を作りたいですね。水揚げした直後にしか味わえない穴子の刺身を食べに来たり、稲を刈り取ったばかりの田んぼの心地よい香りの中で『おにぎり大会』を開いたり。そんな、宗像でしか味わえない体験を通じて、人と土地がつながっていければいいなと思います」

そう語る伊豆市長の声は、一段と柔らかくなりました。

「稲を刈った後の香りが、本当に素晴らしくて。私自身、田舎に住んでいますけれど、すごく癒されるんですよ」

土に触れること、食べること、そして人と人とが支え合うこと。宗像が大切にしてきたものは、どれも決して派手ではないかもしれません。しかし、伊豆市長が描く未来には、そうした日々の暮らしの豊かさを大切にしながら、人と地域とのつながりを育んでいきたいという思いが込められていました。

夢を、希望にして、現実にする。世界遺産のまち・福岡県宗像市の伊豆美沙子市長、三期目の覚悟

産地ならではの新鮮さを堪能できる、あなごの刺身

点で進めてきた施策を、
線に、面にする時が来た

取材の終盤、伊豆市長は改めて力強く口にしました。

「夢を、希望にして、現実にする」

10年かけて特別支援学校を誘致し、一次産業を守り、自動運転バスの実証運行といった新しいチャレンジも進めてきました。これまで進めてきた一つひとつの「点」の施策が、いま「線」になり、そして「面」へと広がろうとしています。

農業DX、モビリティ、団地再生、障害のある方の自立支援—— 一見するとバラバラに見えるテーマですが、その根底は「宗像市を、未来をつくる場所として切り拓いていく」という一本の強固な軸でつながっています。

夢を語る政治家はたくさんいます。しかし、伊豆市長が手にしているのは、具体的なステップを踏んだ夢の“設計図”です。解像度の高い図面があるからこそ、この先の未来を形にするために今もっとも必要としているのは、「いろいろな図面を持ち寄ってくれる、県外からの仲間たち」だと市長は語ります。

県外からたくさんの人が訪れ、宗像の豊かな食を楽しみ、未来を語り合い、やがてこのまちに関わり続ける。そんな未来を見据えたあたたかい積み重ねが、これからの宗像をつくっていきます。

宗像市の扉は、いま大きく開かれています。あなたもこの穏やかで熱いまちの仲間になって、一緒に未来の図面を描いてみませんか?

夢を、希望にして、現実にする。世界遺産のまち・福岡県宗像市の伊豆美沙子市長、三期目の覚悟

公道で行われた自動運転の実証実験の様子

夢を、希望にして、現実にする。世界遺産のまち・福岡県宗像市の伊豆美沙子市長、三期目の覚悟

伊豆美沙子(いずみさこ)福岡県宗像市長(三期目)

県議会議員を経て宗像市長に就任。特別支援教育の充実、第一次産業の振興、環境都市としての持続可能なまちづくりを推進。世界遺産「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」を擁する宗像市で、「まちづくりは人づくり」を掲げる。