空でつながろう

Interview Vol.18 三崎×東京が共鳴する、
音楽と文化。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元や地域愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元や地域愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第18弾の今回は、今年6月、神奈川県三崎市で音楽イベント「CULPOOL(カルプール)」を主催、開催した杉本 陽里子さんにお話を伺いました。

三崎×東京が共鳴する、音楽と文化。

CULPOOL MISAKIの関係者のみなさんと杉本さん(前列左から4番目)

「いつもの暮らし」に、
音楽がある風景。

Q.恵比寿で開催していたイベント「CULPOOL(カルプール)」を、神奈川県の三崎港で行なうことになったキッカケを教えてください。

杉本「CULPOOL」は音楽とカルチャーが混ざり合うパーティーとして、2015年に恵比寿LIQUIDROOMでスタートしたイベントです。当時飽和状態だったフェスや音楽イベントとは違う、音楽と空間とを一緒に届けられる新しいイベントとして誕生しました。深夜に開催することで、一般的なイベントとは違う客層、ミュージシャン、空間との融合を演出したのが特徴でした。

しかしコロナ禍でライブハウスでのイベントが当たり前ではなくなり、深夜開催という本来の特徴も、困難になってしまった。それでも音楽とイベントの可能性を模索するため、オンライン開催など、試行錯誤を重ねてきました。

そして2023年にWithコロナの時代を迎え、「音楽を伝える背景にこだわる」という本来のコンセプトを突き詰めて考えてみたのです。そして辿り着いたのは、音楽と結びついていない場所で音を響かせること。

そこで、東京都内から比較的近い三崎でイベントを行なうことにしました。三崎はもともと、自分の心を癒やす“リトリート”の地として通っていた場所でした。リトリートをしながら音楽を楽しめる場所として最適ですし、自然・昔からの文化・移住者が作った新しい文化が混じり合う場でもある。音楽とカルチャーが混ざり合う「CULPOOL」の趣旨にピッタリだと思いました。

三崎×東京が共鳴する、音楽と文化。

数カ所あるライブ会場の一つ(雑貨屋 HAPPENING)と演奏時の様子。

Q.地元の方の理解など、大変なことはありましたか?

杉本もちろんそういったトラブルやご意見については、ある程度覚悟していました。しかし今回は、三崎に根ざして「アタシ社」という出版社をご夫婦でやっているミネシンゴさんに、地域とのパイプ役になっていただけたのが大きかったですね。

たとえば近隣の方へのご挨拶や当日までの準備、さらにイベント出店者の選定などにも助言をいただきました。三崎の商店街には、古くからやっているお店もあれば、新しい移住者の方が始めたお店もある。そこで移住組の方を中心に、イベントに関わっていただくお店を紹介していただきました。

一方で地域の方も、想像以上にナチュラルに、イベントを受け入れてくれました。たとえば三根さんのお店でリハーサル中、近所のお店の方が出てこられたのです。さすがにうるさかったかな?と思って謝ったら、「すごくいいじゃないの!」とまさかのリアクション。ほかの会場でも、「ここで座って聞いていてもいい?」と近くにお住いの方が椅子を持ってきたり。三崎の生活になじむアーティストを厳選した自信はありましたが、ここまで自然に溶け込めたのは、嬉しい誤算でした。地域に新しい文化が生まれたり、人が行き来したり。イベントを通して、「地域の血流」が良くなっているのを感じますし、血流を生み出せたという点で、イベントを開催した意味があると思っています。

Q.イベントを通して感じたことはありますか?地域活性のポイントも含め教えてください。

杉本ミネさんや出店者の方には、「これで実績ができたから、今後はもう少し規模を大きくしよう」と言っていただけました。

2日間開催のうち、1日目は地元のお祭りと同じ日で、お神輿などが出ていました。そういった町の情報を事前に把握しておくことで、もっと色々コラボレーションできたかもしれないという反省もありました。また、イベント運営という点でも気づきがありました。イベントであるからには、チケットの売上や、お客さんがチケットを買ったことへの納得感は重要です。とはいえ地域の方に歓迎していただくことが大前提。だからチケットを買わないと楽しめない…というより、風通し良く、ゆるく、お客さんと地域の人、両方が楽しめる流れを作っていきたいと思います。チケット制にするのか、もしくは寄付やドネーション形式が良いのか…そういった運営を見直す視点が生まれたのも、新しい発見でした。ちなみに嬉しかったのが、三浦を拠点にする大学生が大勢、スタッフとして参加してくれたこと。「三崎でこんなにクオリティの高い音楽が楽しめるなんて思わなかった」と喜んでもらえたのが印象的でしたね。今回は新しい場所として三崎を選びましたが、今後はイベントを目当てに三崎に来てもらったり、なんなら三崎を目当てにお客さんが来てくれる…という流れを作れたらいいなと思います。それが、イベントを通じた地域貢献だと考えています。

三崎×東京が共鳴する、音楽と文化。

演奏開始を待つイベント参加者のみなさん

人も場所も、音楽も。
進化し続けることが、イベントの価値。

Q.杉本さんにとってのEVOLUTION x LOVEとは?

杉本イベントは、出演してくださるアーティストと、来ていただくお客さん、そして主催者で作り上げるもの。だからこそアーティストをブッキングをする時に、このイベントが何をしようとしているか、どんなイベントなのか、どう進化していくのかを語れることが、とても大切だと思っています。アーティストの中には何度も「CULPOOL」に出ていただいている方もいらっしゃいますが、回数を経るごとにファミリーのような存在になっています。何度も出演していただけているのも、イベントが企画・場所・全体像それぞれの点で進化しているからこそ。進化をやめないことで、アーティストが「出たい」と思える場を作り続けたいです。

それにコロナ禍で、イベントの在り方は大きく変わりました。私や「CULPOOL」にとってその変化が三崎との出会いであり、進化。今後はこの出会いをキッカケに、イベントに関わる人に新しい世界や場所を見せていきたいと考えています。

三崎×東京が共鳴する、音楽と文化。

数カ所あるライブ会場の一つ(アタシ社の蔵書室「本と屯」)と演奏時の様子。

Q.「CULPOOL」の最終的な理想形はありますか?

杉本音楽とカルチャーが混ざり合う自由な場になればと思います。今回は東京から2時間ほどの三崎での開催でしたが、今後は日本各地はもちろん、海外でも開催したいです。そして各地の空気を、東京にも持っていきたい。地方の良さを持った東京のイベントであり、東京の良さを持った地方のイベントでありたいですね。

また、自分も子供を持って分かったのですが、夏フェスのような形式になると年1回の大イベントで、休みを取ったりお金がかかったり、ちょっと大変。もちろんそれを含めてフェスの楽しさですが、「CULPOOL」の自由な空気感を、地方や東京でもう少し手軽・身近に体験できたらいいですね。

Q.EVOLOVEプロジェクトがお力になれることはありますか?

杉本今後はほかの地域でも「CULPOOL」を展開したいので、人なり場所なり、その出会いのサポートがあれば嬉しいですね。また地方を創生する・元気にするコンテンツを提供する立場として、国や地域からの助成やスタッフのサポートもほしいです。音楽に値段をつけることは難しいですが、人や地域の活性化につながる役割を果たします。その意義を開催地や行政などに分かってもらえるよう、私たち自身も企画や推進力を培っていきたい。もし、地方で私たちのようなイベントを行なっている団体や人がいれば、そことのつながりができたらいいですね。

   ありがとうございました!「音楽は、どこで鳴るかによって、感じ方や聞こえ方がまったく違う」と語る杉本さん。これから「CULPOOL」がどんな場所で開催され、どんな進化を遂げていくのか楽しみです。今後の杉本さんの活動にも注目しつつ、引き続き応援させていただきます。