空でつながろう

Interview Vol.19 伊那市から若者に届ける、
夢とお菓子。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第19弾の今回は、長野県伊那市で、洋菓子店を営みながら「夢ケーキ」などのプロジェクトを行なっている清水慎一さんにお話を伺いました。

伊那市から若者に届ける、夢とお菓子。

皆さんと清水さん(写真中央)

人生観を変えた一言
今も心に残る祖母の言葉。

Q.今の活動に至るまでの経緯を教えてください。

清水僕は『菓匠 Shimizu』の3代目として、25年前に両親から店を引き継ぎました。お店の経営理念として大切にしているのは、「菓子創りは夢創り」ということ。お菓子はお祝い・ご褒美・記念など、嬉しい時に買うことが多いですよね。だから僕たちは「お菓子の向こう側の風景を作る」という考えのもと、人に元気や幸せを感じてもらえるお菓子創りに取り組んでいます。

とはいえ最初から、今のような強い想いを持っていた訳ではありませんでした。

大学まで野球三昧だった僕は、本当は野球の監督になりたかったのです。店を継いだのも、長男だからという理由から。店を継ぐ前に10数年外で修行をしていた時に、海外で賞を取ったり有名店で働いたりと、実績もついた。そんなこともあり、「本当の夢を捨てて、実家の店を継がされた」という被害者意識と過信ばかりで、店に戻ってきました。

もちろんそんな自分が、実家でうまくいくはずがなく…。毎日のように親子喧嘩をして、板挟みになった社員さんたちが辞めていく状況を作ってしまっていました。でも当時の僕は、「みんな何で俺の言うことを聞かないんだ」という考えだけだったので、状況は悪くなるばかりでした。

Q.意識が変わったキッカケは何だったのでしょうか。

清水僕の目を覚まさせてくれたのは、亡くなった祖母でした。31歳のある日、祖母と晩ごはんを食べていた時、「お前は何のために働いているんだ?」と急に聞かれたんです。

「働くことに理由なんかないよ。働きたくないけど、働かなきゃいけないんだ」と答えた僕に祖母は一言、「お前はつまらん男だな」と。

その時は頭に来ましたね。「夢を捨てて帰ってきてやったのに、そんな言い方はなんだ。誰も俺の味方なんてしてくれない」と、反論してしまいました。そんな僕に祖母は、「“働く”という字を書いてみろ」と広告の裏紙を渡してきました。言われた通り「働(にんべんに動く)」と書くと、祖母はその文字にバツをつけた。そして「働くというのは、傍楽。“はた”を“らく”にすること。お前がやることは、一番近くにいるお父さんやお母さん、毎日一緒に働いてくれる社員さんたちを楽にしてあげることだ」と言われました。

確かにこの仕事を始めてから、自分がイヤな人間になったなと感じていました。そんな気持ちを察したように、祖母は「お前は小さい頃、いじめられている子の家に迎えに行ったり、いじめる子を止めたりしていた」と言ってくれたのです。「お前は、本当はもっと優しい子だったのに、いつの間にかつまらなくなった」という言葉にショックを受け、目が覚めました。

そして最初に取り組んだのが、両親と正面から向き合うこと。本当は顔も見たくないほどの相手ですけどね。でも、嫌なことから逃げても何も変わらないということは、野球でも学んできたこと。だから両親や社員にちゃんと謝り、話す時間を取るようにしました。そうすると、自分の中で凝り固まっていたものがどんどん溶けていく感覚がして…。ベタな言い方ですが、心を通わせ合いながら仕事をする尊さを実感しました。

ケーキで表現する、子どもたちの夢。

伊那市から若者に届ける、夢とお菓子。

全国で続く「夢ケーキ」プロジェクト

Q.清水さんの想いは、具体的にどのようなプロジェクトになったのですか?

清水今は「夢ケーキ」というプロジェクトを展開しています。これは、親子や友達同士で語り合った夢を絵にして、その絵をケーキで表現するというもの。学校や団体、個人など、様々な場所で活動を行なっています。

「夢ケーキ」を始めたキッカケは、パティシエという仕事の意味について考えたことから。僕の場合はお菓子作りがしたいという入口ではなかったからこそ、お菓子の存在意義を考えるようになりました。その結果、お菓子を通して、周りの人を笑顔にしたいと思ったのです。

もう一つのキッカケは、地元で当時中学生の生徒が親子喧嘩の末に自分の父親を…という事件が起こったこと。全国ニュースにもなったその事件を見て、不謹慎ながら、すごくその子の気持ちが分かった。そして極端な話ですが、近所で起きた事件を、なぜうちの店が防げなかったんだろうと思ったのです。お菓子を通して人を笑顔にしたいという理念を掲げているのに、なぜ事件の前日にうちの店に来てもらえなかったんだろう?と、スタッフと話し、「夢ケーキ」が生まれました。

気づけばこの活動も約20年、現在では全国に広がり、学校はもちろん孤児院や少年院など、4万人の子どもたちに「夢ケーキ」をプレゼントしてきました。

Q.自分が生まれ育った街、伊那市に貢献したいという想いはありますか?

清水実は伊那市はキャリア教育が盛んで、中学生に対してキャリアフェスというイベントを行なっています。僕もそこで登壇したことがあるのですが、講演会よりもお店での姿を見てもらうことが一番影響力があると感じています。

「夢ケーキ」の活動も全国に広まっているので、キャリア支援や今のプロジェクトを通して、地域活性につながればと思います。

伊那市から若者に届ける、夢とお菓子。

「自分の技術を次につないでいくのが、今後のミッション」という清水さん。

伊那市に留まらず
世界へ向く気持ち

Q.清水さんにとってのEVOLUTION x LOVEを教えてください。

清水地元の地域だけに留まらず、世界規模で世の中を良くしたいと思うようになりました。実はここ数年、海外のカカオ農園に定期的に通っています。うちの店もカカオを輸入して焙煎してチョコレートを作っていますが、恥ずかしながら、カカオ農園の貧困などの問題を知りませんでした。

カカオ農園に通うようになって気づいたのは、国の平和の度合いとお菓子のレベルが比例しているということ。紛争のある地域に、日本のようなケーキ屋さんはない。逆に言うと、お菓子のレベルを上げることで、その国の平和の度合いが上がっていくのでは?と思うのです。

僕は「知ったからには、自分ができることをしたい」と思うタイプ。だから貧困地域でお菓子を作る人を増やしたい。自分が培ってきた知識・技術・経験を、より多くの人に伝えて伝承していきたい。それが、菓子屋を軸に生きる人間としての最終形だと思います。

Q.EVOLOVEは共創をテーマに皆さんを繋げていきたいと考えていますが、今後、誰かと誰かをつなげたい、何かと何かをつなげたいといった思いはありますか?

清水夢が見つからない若者と、わくわくしながら働いている大人をつなげたいです。大人は子どもに対して、「大人って楽しいよ」「働くって素敵だぞ」と見せていく役割があると思っています。

僕の場合、野球選手になりたかったけど、子どもの頃に野球選手に会ったことがないんです。でも当時もし野球選手に会えていたら、もしかしたら夢がかなっていたかもしれない。「頑張れば、君の夢は叶うよ」と、子どもの夢や目標を承認してくれる。そんな存在こそ、子どもの将来に大きな影響を与えると思っています。だから僕たちは、子ども達に対して「夢は叶うよ」と言える大人でありたい。そんな大人として、子どもと繋がっていきたいと思っています。

   ありがとうございました!伊那市のお菓子屋さんからスタートし、今や世界を見据えている清水さん。「夢ケーキ」やカカオ農園などの活動が、今後国内外でどう広がっていくか、とても楽しみです。今後の清水さんの活動にも注目しつつ、引き続き応援させていただきます。