空でつながろう

Interview Vol.20 周防大島×起業で、
日本の教育を根本から変える。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第20弾の今回は、山口県周防大島町で、子どもたちへの起業家教育を通じた教育改革を行なっている大野さんにお話を伺いました。

周防大島×起業で、日本の教育を根本から変える。

プロジェクトで多くの学校・子どもと接する大野さん(右下2人目)

地域活性化は、教育からはじまる。

Q.大野さんの会社「株式会社ジブンノオト」について教えてください。

大野「100年続くふるさとをつくる」という経営理念のもと、株式会社としては現在11期目を迎えています。とはいえ活動自体の始まりは、14年前。「先生たちと地域の学校教育を変える」というボランティアからスタートしました。

活動を進めていくにつれ、「教育」が地域活性化に与える影響の大きさと重要さ、そして変革することの難しさを実感するようになりました。そこでこの活動で、収益化につながるビジネスモデルを作れないかと考え、会社を設立しました。

今では、地域が100年続くための教育をどう創り上げていくか、周防大島のみならず、官公庁・広告代理店・大学・企業などとタッグを組んで、様々なプロジェクトを行なっています。

この会社を通して生み出したいのは、次の教育の在り方です。特に、幼い頃からの起業家教育ですね。地域が衰退していくのは、稼げる仕事がないから。若者が自分の生まれ育った町で働きたい・仕事がなければ起業したいと思える土壌を作るには、やはり「自ら稼ぐ」というマインドを、小さい頃から育てていくことが重要。そういった背景から、アントレプレナーシップ教育(起業家精神育成教育)を支援する事業を行なっています。

(株)ジブンノオト詳細はこちらへ

Q.地域活性化を教育から推し進めるに至った経緯をお聞かせください。

大野私は15歳の頃にはすでに、自分で起業しようと思っていました。うちの実家は曽祖父の代から、土木建設業を営んでいます。現在90年近い歴史のある会社ですが、当時から家業を継ぎたくないと感じていました。継がないなら、自分で島にソーシャルインパクトを起こせるような会社を作ると決意し、その気持ちのまま今に至っています。

そしてもう一つ、18年前に地元である周防大島にUターンした時にちょうど、通っていた中学校が廃校になりました。その時に、とてつもない虚無感を感じました。地元の学校の生徒が減り続けて島も衰退しているのに、自分には何もできない、という虚無感。それが、地域の衰退を教育で解決しようと思った大きな理由ですね。

Q.大野さんが教育に着目したキッカケは何だったのでしょうか。

大野私は子どもの頃から分からないことを深掘り考えるタイプで、地域の衰退についても「なぜ?」を繰り返してきました。そこで見出した答えが、「一番の根幹の問題は、マインドと行動」ということ。マインドと行動を作っているのは、教育。だから教育を変えないと地域の未来は変わらないという結論に行き着きました。教育を根底から変えられるのは民間だと思ったので、教員になるという選択肢はありませんでしたね。

Q.具体的にはどのような教育をされているのでしょうか。

大野一言で言うと、キャリア教育です。キャリア教育は、自分の道をつくることと定義しています。実はキャリアとは、ラテン語で車を表す「currus(クルッス)」が語源。でもキャリアというものは、未来の自分の道を切り開いていくもの。だから子どもたちには、後ろの「できた道」より、前を向いて「これからできる道」を作っていく大切さを話しています。

ですから私はキャリア教育デザイナーとして、教育の場をどう作っていけるか、その場所づくりが仕事だと、自分の仕事を定義しています。

周防大島×起業で、日本の教育を根本から変える。

2010年にスタートした東和中学校でのキャリア教育の様子

「地元で起業」が目標になる社会へ。

Q.「キャリア教育が地域活性化につながる」ことについて、詳しくおしえてください。

大野「地元に帰ってきて起業するって、かっこいい」という社会にしたいです。今って、いい大学を出て大手企業に入ることが、成功とされますよね。でもその逆で、寂れている地元に帰って自分で事業を立ち上げて、地域を盛り上げていくことを「最高にカッコいい生き方」と思える社会を実現したいです。

もちろん移住も嬉しいのですが、地元で育った子どもたちが「帰ってきたい」と思える環境を作ることが本質だと思っています。もちろん寂れた地域で新しく事業を立ち上げることは、相当な力・能力・運すべてが必要。難しいことだからこそ、そこで成功することが一番カッコよくあってほしいし、まずは私がその理想を背中で語っていかなければいけません。

実際、周防大島は移住の町としてテレビに取り上げられたり、名産品で成功している方もいます。そうした土台が少しずつできていると、最近になって感じます。

Q.教育システムを変えてまで、地元の衰退を止めたいという想いについて、お聞かせください。

大野地元は、大好きだからこそ、大嫌いな存在。愛着があるからこそ、「自分なら、そんな地域運営はしないのに」と思うこともあるし、この衰退を歯がゆく感じる。地元が好きだから、「今の」地元に対しての大きな違和感を解消したいと思っています。

私の会社は「100年続く」と理念に書いてありますが、当たり前ですが、100年後には自分はいない。だからこそ、「地元の衰退を止めよう」と主体的に行動できる人をどう増やすか。そう考えた時に、「何かやってやろう」と思える人を育てる教育が重要だという考えに至りました。

周防大島×起業で、日本の教育を根本から変える。

10代が起業を学ぶ旅「起業留学」でフラを踊る様子

全国、世界から人が集う、
今までにない学校をつくる。

Q.大野さんにとってのEVOLUTION x LOVEを教えてください。

大野葛藤を含めて、私がどこまで「教育」を変えられるか、深く考えています。今、官公庁や大手企業などと、起業家教育やキャリア教育のプロジェクトを数多く行なっています。たとえば「起農みらい塾」という、子どもたちが農業を通じて起業に関心を持つプロジェクトなどですね。

ただそれをやり続けても、教育の根幹のシステムを変えることの難しさを感じるばかり。もちろん会社なので売上は大切ですが、今のままでは自分が目指しているところに到達できないというジレンマです。

でも、この葛藤は、次の進化へのサインだと捉えています。そしてその葛藤への解はもう出ていて、学校そのものを自分で作ってしまおうと思っています。具体的には、日本にはまだない、スタートアップ型の小学校・中学校を立ち上げたい。それが、自分にとっての進化です。地元の子はもちろん、各地から「ここで教育を受けたい」と思ってもらえる場所づくりをしたいと思っています。

今は日本各地で、教育移住をする方が増えています。ですから家族で移り住んででも、周防大島で教育を受けたいと思える学校を作りたいですね。そしてそのキーワードは、起業。小学校一年生から、起業を教育の中心に置いている学校は、国内外を見てもほとんどありません。アントレプレナーシップ教育がこれからの時代に必要だからこそ、日本・世界から子供たちが集まるレベルを目指したいです。

それと同時に、地元の子どもたちがその学校に通える仕組みも作りたいです。たとえば住民票が3年間あったら学費を無料にするといったように、地域の子どもたちが当たり前にその学校を選択できる流れが作れたらいいですね。

Q.今の若者に対して感じることはありますか?

大野これまで1万人以上の若者に会ってきました。その中で感じるのは、プログラムを提供しても地元に帰って起業する子は、ごくわずかだと感じています。
一方で、「学校をつくる」と発信したら、一緒にやりたいと声を上げてくれる子は、一定数います。だから、その子たちに「一緒にやるのを待ってるよ」と言いたい。若い子たちと一緒に仕事ができる環境を、自分がつくりたいと思っています。

もちろん、どのように参加するかは人それぞれ。でもたとえば、「教員だけど週4日は学校、週2日は副業できる」というように、既存の職業の枠を壊した、新しい職業の在り方を面白いと思える人を集めたいです。

また、課題というよりメッセージとしては、自分に蓋をしないでほしいです。自分という可能性があるのに、会社や社会に自分の人生の主導権を渡してしまっている。自分に蓋をしたまま死んでいくのは、とてももったいない。だから教育を通して、本当の意味で自分の人生を生きる人を、周防大島から生み出したいです。

   ありがとうございました!教育の根本を変えることで、地域の未来を変えるというダイナミックな発想に、感銘を受け続けた取材でした。周防大島で大野さんがどのような「新しい学校」を作るのか、今からとても楽しみです!