空でつながろう

Interview Vol.21 「放置竹林」から見えてきた、
西条市と地方の可能性。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第21弾の今回は、愛媛県西条市で、竹林整備の一環として国産メンマをつくる「メンマチョProject」を行なっている山中裕加さんにお話を伺いました。

「放置竹林」から見えてきた、西条市と地方の可能性。

写真山中さん(左から2番目)

地方創生の「本質」と固有の「資源」

Q.愛媛県西条市で活動するに至ったキッカケを教えてください。

山中これまで日本とイギリスで建築や都市開発を学び、不動産開発系の会社で企画設計を担っていました。地方に着目したキッカケは、地方創生に対する公的な力の役割に興味を持ち、「地域は誰のためにあり、誰がつくり、誰が維持するのか」という問いが生まれたから。

ちょうど個人事業主としてフレキシブルに働くスタイルになったので、自分なりの答えを見つけるため、各地を転々とする生活を始めました。

1年くらいかけて地方を巡る中で、ローカルであるがゆえに残っている面白いものや、一次産業をはじめとしたその土地に根差した固有のものの魅力に気づきました。この資源と東京のクリエイターとをつないで、その土地の魅力を再定義して発信できないか考えるようになりました。

事業を実現するための事業拠点としてご縁があったのは、地元の愛媛県でした。西条市で活動するのを決めた理由は、ローカルで起業する人を支援する取り組みがあったから。同じタイミングで同じような考えを持つ人がいる心強さと、地方創生の文脈で事業をするなら行政と関係値をつくっておきたいという狙いもありました。

Q.現在の活動について教えてください。

山中西条市に移住したのは 4年前。ここ2年は「メンマチョProject」の立ち上げと事業化をメインに活動しています。「たのしい竹林整備で、美味しい国産メンマをつくる」を掲げて、竹林整備の一環として若竹(背丈以上に伸びたタケノコ)を収穫し、それを活用した国産メンマの製造・販売を行っています。市外や県外からも放置竹林の課題にアプローチしたいとお声がけをいただいているので、今年からは他の地域でも収穫パートナーを増やしていく動きをしています。

プロジェクトのインターフェースを担っているのは、つい手に取りたくなるパッケージデザインと、「メンマチョ」というユニークな名前の覆面レスラーのキャラクターが特徴的なお土産メンマです。味は、瀬戸内らしい爽やかなレモン風味。東京でブランディングを行なう会社と商品化につなげました。これから他地域へ展開していく際も、「その土地らしさを活かしたフレーバー」をキーに、各地でメンマチョの兄弟や宿敵などが登場するご当地メンマをつくっていきます。

「放置竹林」から見えてきた、西条市と地方の可能性。

メンマチョ わたしの瀬戸内レモン

Q.西条市に対する思い入れや、移住したことによる気持ちの変化はありますか?

山中西条市には祖父母の家があって、小さい頃から何度も訪れた特別な地域。里山を駆け回った楽しい思い出があります。一方、暮らすことで地域課題を見つけることも増え、事業をやる上で良い気づきになっています。

事業を通して、他の地域と交流する中で、地方は同じような課題を抱えているところも多いと感じています。だから西条市での活動を、ほかの地域にも展開させたいと思うようになりました。またプロジェクトで移住者の雇用を生んだり、ほかの地域との事業提携によって、西条市に新しい循環やリズムが生まれるといいなとも思いますね。

「放置竹林」から見えてきた、西条市と地方の可能性。

若竹収穫のワークショップに参加されたみなさん

「まちづくり」という言葉の危うさ。

Q.山中さんにとってのEVOLUTION x LOVEとは?

山中自分がプレイヤーになることで、手掛けている仕事への見方も変わりました。東京で不動産開発の企画をしていた時は、投資と回収といった経済的要件を踏まえて、建築物や仕組みをつくっていく思考を強く持っていました。

しかし現在は、プレイヤー起点で場づくりを考える重要性を実感しています。現場を動かすプレイヤーがいて、その人達のやりたいことを実現するための空間づくり、仕組みづくりをしないといけない。その両方のベクトルを持てたことが、私にとっての大きな進化でした。

そしてもう一つ、お金を稼ぐことへの意識も変わりました。今までは美味しいものを食べて美味しいお酒を飲んで、好きな家に住めれば満足だと思っていました。しかし資本主義の中で何かを変えたり物事を動かすためには、適切に権力や立場を保持すること、そして経済的なアドバンテージも必要だな、と。「目の前の人や資源」を大切にするために、それらを包んでいけるような枠組みを保持する。そう自分の活動を再定義できたように思います。

ちなみに私は、「まちづくり」という言葉をなるべく使わないようにしています。「まちづくり」という言葉は曖昧で、目指す姿や状態の解像度が低くなりがち。

言葉だけが独り歩きして、実際には各関係者がまったく違う状態をイメージしている可能性もあるので、「移住者を来年2名増やしましょう」とか「商店街に3年以内に店を5店増やしましょう」など、具体的な目標を立て、それがプロジェクト全体の目的にどうつながるかを意識しながら進めています。

Q.10年後、20年後のビジョンはありますか?

山中小さいものが生まれやすい環境を作りたいです。学生の頃、海外の色々な国を旅していた時、私にとって面白い町と面白くない町がありました。その違いを考えた時、「小さいものが生まれやすいこと」という気づきがありました。たとえばインドなら、牛乳と紅茶の茶葉を持ってきて屋台を構えれば、その場でチャイ屋さんを始めてお金を得ることができます。実際にはルールがあるかもしれませんが、日本に比べると商売の種類・お店の形態・設備の規模感など、バラエティ豊かです。

日本は保健所をはじめ各関係機関への申請や規制などもあって、インドのチャイ屋のように気軽にチャレンジできる雰囲気ではありません。もちろんそれも安全・衛生的に重要ですが、思い立ってから実現させるまでのハードルが高いですよね。そのハードルを下げるような、0を1にしやすいコミュニティを作りたいです。

Q.誰かと誰かをつなげたい、何かと何かをつなげたいといった想いはありますか?

山中「メンマチョProject」の横展開など、ローカル同士のつながりを強くしたいですね。地方の悩みはどこも似ているのに、地域間の交流が薄いから、みんな同じようなことに悩んで、同じように苦労している。横のつながりを生むことで、ローカルが持続的に稼働できる未来をつくるというのが、長期的なイメージです。

Q.最近の若者に対して感じることはありますか?

山中とにかく外に出て、現地で色々経験することを勧めたいですね。これは若者に限らずですが、特に若いうちに色々な経験をして価値観を広げることで、その後の行動も変わると思います。私が関わる学生の中には、すでに起業しているようなパワフルな人も多いですが、やっぱりその子たちは、日本なり海外なり”外”に出て、実際に得た経験からくる課題意識や気づきがあります。

一方、今の教育カリキュラムは、地域イベントに参加したり地域の人と関わることが内申点に響いたりもする。だから、なぜそれをするのかが曖昧なまま、地域活動に参加してしまう。ワードで「地域活性化しなくてはいけない」と学習してしまっているがゆえに、逆に地域に向ける目を濁らせてしまう面もあるように感じます。

だからまずは外の世界を見るため、どこでもいいから航空券を買ってみる。そこで得た視野から、自分の住む町の在り方が見えてくると思います。

   ありがとうございました!企画からプレーヤーとなり、考え方が変わったという山中さん。「メンマチョProject」がほかの地方に展開され、地方同士がつながることで、どんな相乗効果が生まれるのか。その一端を当プロジェクトが担えるよう、今後も応援させていただきます!