空でつながろう

Interview Vol.23 人口7,000人の大崎上島町を、
日本有数の教育拠点に。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第23弾の今回は、広島県大崎上島町で、教育を通した地域の町おこしに取り組んでいる取釜宏行さんにお話を伺いました。

人口7,000人の大崎上島町を、日本有数の教育拠点に。

My Project Award 2022 広島県サミットの皆さんと取釜さん
(モニター前、右端の前から2番目)

唯一の高校がなくなる。
危機から生まれた、
学校と地域を結ぶプロジェクト。

Q.現在の活動に至った経緯と、現在の活動について教えてください。

取釜僕は広島県大崎上島町出身。大崎上島町は、人口7,000人の小さな町です。大崎上島は大学がないのでほかの地域に進学するのですが、僕は高校生の時から、30歳までには地元に戻ろうと決めていました。ですから京都の大学に進学し、卒業後、東京のベンチャー企業に就職もしましたが、東京はあくまで武者修行の場。地元で経験できないことを学んで実力をつけることで、地元に帰っても将来の選択肢に困らないようにしたいという気持ちでした。

そして予定通り、26歳の時に、大崎上島にUターン。教育には興味があったけれど、教師や公務員ではない立場から教育や地域に携わりたかったので、教育とまちづくりをつなげる地域連携型の私塾を開校することにしました。また、「島キャリ」という地域連携のカリキュラムを開発して、地域をフィールドにして島の子どもたちと活動をしていました。

Q.「まなびのみなと」の設立など、教育を軸に起業した理由は?

取釜2014年に、広島県が高校を統廃合する指針を出しました。その時に、この地域の高校も、統廃合の対象になっていて…。近隣地域への橋がない島ですので、唯一の高校がなくなることは避けたいと危機感を持ったのがキッカケで、「大崎海星高校魅力化プロジェクト」が立ち上がりました。地域唯一の高校を魅力的にして、『地元生徒が行きたい、保護者が行かせたい、全国からも来たい、先生も働きたい。』学校を地域と連携・協働してつくるプロジェクトです。

法人は、そのプロジェクトを継続していくためと、プロジェクトを起点に地域全体の活性化や子どもの教育を充実させるために仲間と共に2019年に立ち上げました。幸い、法人として当初の想定の倍以上に機能していると感じます。例えば、法人を通してプロジェクトに携わった地域おこし協力隊員のメンバーで、独立につながった人がいます。ほかにも県内の高校生の発表会を当法人が主催したり、社会人のコミュニティづくりにつながるスクールを運営したり。プロジェクトが予想以上に多方面に、広く深く成長していると実感します。

Q.取釜さんの活動の原動力を教えてください。

取釜やっぱり地元が好きだからですね。この島に生まれて、これまで、地元の人に育ててもらったという想いが強くあります。だから高校生の時点で「いつか地元に帰ろう」と思えたし、「自分の子どももここで育てたい」と思いました。現在僕には3人の子どもがいますが、子どもたちのために地域や文化を存続させたいという想いも、原動力になっています。大崎上島の人口は毎年減り続けており、15年後には約4,500人と試算されています。実際、人口減少の影響はすでに現れていて、地域の盆踊りがなくなりましたし、毎年参加していたマラソン大会もなくなりました。昔からの行事がなくなるのは寂しいし、僕は「自分たちの暮らしを良くしたい」という想いが強くあります。自分の子どもが快適に暮らすためには高校も必要だし、仲間も必要。自分たちが暮らしやすい環境をつくることが、地域や人を育てる原動力になっています。

取釜さんにとっての地域活性化はどのようなものですか?

取釜それぞれの役割を全うすることでしょうか。たとえば田舎に行くと、おばあちゃんが自分の敷地だけじゃなくて、敷地に面している道路まで草取りしている光景を目にします。ほかにも消防団の方や、高校卒業後に地元に就職する若者。地元を離れていても、ふるさと納税をしたりSNSで情報を発信したり。そうやって、自分のスタイルで地域と関わり続けることが、結果的に地域活性化につながるのではないでしょうか。何なら、毎日近所の居酒屋で飲んでいるおじさんたちも、ちゃんと自分のやり方で地域に根づいている。ぜんぶひっくるめて、広い意味での地域活性化だと捉えています。

人口7,000人の大崎上島町を、日本有数の教育拠点に。

学びの島カフェの様子

島にいても、いなくても。
関わり合うことが、地域活性化。

Q.取釜さんにとって“EVOLUTION x LOVE” とは?

取釜教育を軸にした活動を通して、高校が果たす役割の捉え方が変わったように感じます。

たとえば少し前、高校で夏祭りを開催しました。その手伝いをしてくれた子から、大崎海星高校で色々な活動を経験したことで、自分でも地域活動に積極的に参加するようになったと聞きました。今まで進路の一つでしかなかった高校が地域に大きなインパクトを与える存在になったと知り、教育と地域の解釈が自分の中で広がったと感じます。

また地域の人も、プロジェクトを通して地域への愛が進化したように思います。たとえば新しくカフェやカレー屋さんができたり、花屋さんがオープンしたり。僕の塾でも、今月から漁師さんたちが産直市をはじめました。このように大崎海星高校魅力化プロジェクトなどで刺激を受けた大人たちが立ち上がり、町に新しい循環が生まれている側面もあるようです。地域活性化というのは、移住者同士で新しいことを始め、移住者同士でコミュニティを形成してしまいがちです。しかし大崎上島町は、もともと地元に住んでいる人たちも個性的な人が多いです。だから地元の人が新しくお店を始めて、移住者がカレー屋をオープンさせて…といったように、地元の人と移住者とが刺激し合いながら、町を盛り上げているのを感じます。

人口7,000人の大崎上島町を、日本有数の教育拠点に。

SHCシンポジウム西日本

Q.活動を通じて生み出したいものや、目指したい姿はありますか?

取釜やはりこの活動の核は、人づくり。たとえば私塾はもう12年目なので、結婚した子や社会人になった子も増えてきます。そうして巣立っていった子たちが帰ってきてくれても嬉しいし、別の場所にいたとしても、地元とつながり続けてくれれば嬉しいです。今まで人づくり「される」側だった子たちが成長し、今度は地域に根ざして人づくり「する」側になる。そうした循環が生まれることで、今よりもっと地域が面白くなっていくのではないでしょうか。

Q.今の活動で足りていないことはありますか?

取釜島として選択と集中の難しさを感じることはありますね。行政としては教育にも力を入れたいし、観光も狙っていきたい。でも大崎上島町の年間観光客数は、広島県の中では、最少です。それなら僕としてはいっそ大崎上島町の掲げる「教育の島」を起点として、移住は「教育移住」、観光は「スタディツアー」に絞ればいいと思っています。全国から中・高生が集まるような、質の高い教育を提供できるよう、リソースを集中させる。学校なんてあと3つくらいあってもいいと思っています。そうすることで移住者が増えて、結果的にほかの世代にとっても暮らしやすい地域になる。しかし、舵を切ることは簡単ではありません。なぜなら大崎上島は「教育の島」であり、「造船の島」であり、「レモンの島」でもあるから。しかしそれでも、どこかで個性を出していく必要があると思っています。

Q.今の若者に対して思うことはありますか?

取釜「やりたいことをやらなきゃいけない病」になっていると感じます。法人やプロジェクトでインターンシップの受け入れをすることも多いのですが、ほとんどの子が「やりたいことが見つからない」と言う。だから、「やりたいことを仕事にするのではなくて、縁あって就いた仕事を好きになることもあるよ」と伝えています。

そのために大切なのは、自分から動くこと。違う環境に身を置くということは、自分のコンフォートゾーンを出なければいけない。もちろんストレスに感じるかもしれないけど、逆境や葛藤から、新しい価値観が生まれます。実際、ここに来る中・高生の中で面白いなと感じる子は、慣れない場所に身を置いて葛藤して、自分の価値観を見つめ直しています。

もちろん心が苦しくなるまで頑張る必要はありませんが、快適な場所から出て、少しストレッチすることで、世界は一気に広がると思いますよ。

   ありがとうございました!大崎上島町が今後、教育の島としてどのように発展していくのか楽しみです。いつか全国各地から「大崎上島町で学びたい」という若者が集まることを願って、今後も応援させていただきます!