空でつながろう

Interview Vol.25 里山というコンテンツで、
南房総と都市の循環を目指す。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第25弾の今回は、千葉県南房総市で、シェア里山や自給自足アカデミーを運営されている永森昌志さんにお話を伺いました。

里山というコンテンツで、南房総と都市の循環を目指す。

永森さん(写真中央)

娯楽も仕事も、
足りなければ作れる面白さ。

Q.南房総市に移住するに至ったキッカケを教えてください。

永森僕は東京生まれの東京育ち。働くようになってからも東京でずっと暮らしていました。そんな折にたまたまアクアラインを渡る機会が増えたことが、南房総との出会いでした。小さい頃から臨海学校や潮干狩りなどで房総半島には行っていましたが、大人になって改めて行ってみると、都心に近いのに、のどかでゆったりした空気が流れていることに驚きました。その空気感に惹かれて、東京と南房総エリアでの2拠点生活をスタートさせました。

最初の頃はまだ会社員だったので週末が中心でしたが、独立することになって、より南房総に行くことが増えてきました。そうしているうちにどんどん生活の軸足が南房総中心になり…行政からも移住関係の仕事を受けたり、移住ツアーを仕事で組むようになったりしたため、本格的に南房総市に移住することにしました。

Q.現在の活動について教えてください。

永森ひとつは、「ヤマナハウス」という里山シェア活動を行なっています。都市部の人たちが里山の暮らしを体験できるというもので、里山で衣食住をDIYするイベントを開催しています。そして「ヤマナハウス」での活動をプログラム化したものが、「ヤマナアカデミー」です。地域課題を学びながら自給自足スキルを身につける講座で、具体的には狩猟をしてジビエを味わったり、小屋を建てたり、里山料理や発酵料理を学んだりできます。今度、空き家のDIYプログラムも行なう予定です。

ほかには、今の拠点から車で20分ぐらいの原岡海岸にある原岡桟橋の空き家を改修して、貸別荘や海の家カフェを運営する活動もしています。

どのプロジェクトも、都市部からの観光や、2拠点生活や移住に至る流れを作る一助になれればと思っています。またこうして色々な場を作ることで、地方に不足しがちな娯楽を自分たちで作る楽しさを、僕自身が感じたいという狙いがあります。

里山というコンテンツで、南房総と都市の循環を目指す。

永森さんと関係者の皆様でリノベーションされた施設

Q.南房総の魅力や、地域活性化への想いをお聞かせください。

永森余白のある町だからこそ、自分が主体的になれるという想いがあります。仕事もプライベートも人もイベントなどの娯楽も、「これが足りていない」「こんなことを充実させたい」と思う余地がある。家賃など現実的な面で考えると分かりやすいですが、都市部よりも「何かやりたい」と思ったものを実現するハードルが低いと思います。自分で考えて実現できる余白があることは、ここで活動するモチベーションになりますね。

また東京から2時間程度で行き来できる距離なので、都市部の人の行き来が多いのも南房総の特長。「ヤマナハウス」もですが、都市部の人が来てくれることで都会の雰囲気が流れてくる。それでいて田舎ののどかさもあるというハイブリッドな雰囲気が面白い土地だと思います。

そんな土地で新しく生み出したコンテンツを地域の人も外部の人も利用することで、地域が活性化すればいいなと思います。具体的には、都市部ではできない狩猟だったりDIYだったり、そういった里山ならではの素材を都市的な感覚でコンテンツにすることが、活性化につながればいいですね。

里山というコンテンツで、南房総と都市の循環を目指す。

ヤマナハウスにてBBQ

見落とされがちな地域資源に、目を向ける。

Q.永森さんにとっての“EVOLUTION x LOVE”とは何でしょうか。

永森環境を整えることが、結果的に自分の暮らしやすさにつながると思うようになりました。最初は「暮らしやすい」「居心地がいい」という個人的な感覚で、南房総で暮らし始めました。

しかし移住してから10年以上経ち、地域全体の住みやすさを考えるようになりました。実際、年月を重ねるごとに空き家が増えています。本来里山は生産と消費が合体する、効率の良い場所。それなのに過疎化が進み、荒廃している場所が増えてきました。

そうした見落とされたり見捨てられたりしつつある地域資源に目を向け、コンテンツとして立ち上げていくには?と考えるようになりました。

たとえば獣害という課題をジビエという料理や工芸品で解決したり、規格外の野菜から出るフードロスを活用したり、空き家をワークスペースや貸別荘にしたり。自分たちが意識と手を加えることで、地域課題を魅力に転嫁させたいです。なぜならその活動一つひとつが環境や人の活性化につながり、自分にとっての「心地よさ」に返ってくる。だから個人の枠を超えて行動しようという意識が芽生えたのが、僕にとっての“進化する愛”だと思います。

Q.これからチャレンジしたいことは?

永森人の循環、都市と地方の循環を作りたいですね。僕は循環こそ、地域活性化だと思っています。そして循環の仕組みを作るために、ジビエ・空き家・里山といった具体的なコンテンツを作っていきたいと考えています。

たとえば「ヤマナハウス」で人気なのが、ジビエ。イノシシや鹿をさばいて食べる体験は、人気ですね。またここには、キョンという台湾発祥の小さな鹿がいます。キョンは上質な毛皮が特徴なので、毛皮で作った工芸品を都市部向けに提供していきたいです。

僕のような活動をする人がもっと増えたらいいですね。事業承継ではありませんが、循環を作る役割を継承していくことも、地域が生き残っていくためには不可欠だと考えています。ですから自分の活動を積極的に若い人に伝え、任せていくことが、次の世代になっても循環を維持し続けるために必要だと感じています。

Q.現状足りてないことや困ってることはありますか?

永森個人が遊びに来たり移住したりといった流れは増えましたが、地域と企業とのつながりが薄いと感じています。「ヤマナハウス」は、大企業の企業研修に使われることも増えてきました。「ヤマナハウス」で積極的に企業研修を受け入れるようになったのも、より多くの人が訪れることで、地方と都市部の循環を促進させたいから。日本で働く人のほとんどが会社に属している会社員で、都市部に住んでいる。それなら企業にアプローチすることで、里山と接点を持つ人を増やしたいと思っています。その点でもやはり、企業と地方との接点が足りないのが現状ですね。

Q.最近の若者に対して感じることはありますか?

永森企業研修や大学生の受け入れを通して、若者と関わることは多いです。彼らと関わる中で感じるのは、結論を出すのが早いということ。最近はネットに情報が溢れていますが、「分かったと思っても、まずはしばらくやり続ける」ことが大切だと思います。たとえば里山を理解するなら、とりあえず1年は通う。分かったと思ってもやってみることで、その先に見えるものがあるのではないでしょうか。

また、アウェイを体験してほしいですね。アウェイでは必ず、何らかの違和感を感じると思います。違和感はマイナスな感情ですが、ヒントになりやすい感情とも言えます。それは、自分が何に違和感を感じるか、どう向き合っていくかということ。違和感を通して自分を顧みることで、自分を知るヒントを見つけられると思います。

   ありがとうございました。里山と都市部の行き来を通して循環を作っていきたいという永森さん。里山というコンテンツを、今後どのように魅力的に発信していくか楽しみにしています。