空でつながろう

Interview Vol.27 世界遺産・熊野古道を、
世界とつながる学びの聖地へ。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第27弾の今回は、和歌山県田辺市に世界中から人が集まる学校を作るため、行政や住民と三位一体となって奔走している仙石恭子さんにお話を伺いました。

世界遺産・熊野古道を、世界とつながる学びの聖地へ。

2023年サマースクールの様子

古来から続く「受け入れの地」を、
学びの起点へ。

Q.世界中から人が集まる学校を設立するという壮大な計画に至った経緯を教えてください。

仙石本格的に学校を設立しようと構想し始めたのは、3年前。コロナ禍で夫婦ふたりとも在宅勤務になった時、地元の和歌山に帰ることを考え始めました。しかし和歌山は都市と比べて圧倒的に学校が少ない。息子を通わせたい学校がないことが、大きな悩みでした。

もともと和歌山のために何かしたいという想いはありました。というのも家業の関係でワインの卸を手伝っていた際、何度もイタリアを訪れていました。その中で出会ったのが、「テリトーリオ」という言葉。いわゆるテリトリーですが、「風土」「コミュニティ」という意味合いが強いですね。

小さい村で出会う協同組合は、一家族の畑も小さく兼業農家ばかり。しかし彼らはその土地の風土やコミュニティ、テリトーリオにプライドを持って、ワインを作り続けている。そんな雰囲気が和歌山のみかん畑と重なり、地元である和歌山のためになにかしたいと思うようになりました。

そうした地域への想いと地域課題を重ねて思い至ったのが、学校を作ること。まさにお告げが降ってきたような、センセーショナルなひらめきの瞬間でした。

学校の名前は、「うつほの杜(仮称)」。日本語の起源とされるヲシテ文字の中の大和言葉で、ア行の音を意味する円形の名称です。「〇=うつほ」は当時から、万物の源(みなもと)という意味合いがあるため、この学校が地域・世界とつながる源になってほしいという願いを込めて、「うつほの杜」と名付けました。

世界遺産・熊野古道を、世界とつながる学びの聖地へ。

学校構想プレゼンテーションで共有された資料

Q.和歌山市出身の仙石さんが、田辺市を選んだ理由は何だったのでしょうか。

仙石田辺市は熊野古道という、世界でたった二つしかない巡礼の道の世界遺産がある歴史と文化が詰まった場所。学校構想を実現する上でこの上ない環境がここにあります。学校構想をプレゼンしたところ、市長を筆頭に、市議会議員、地域住民の皆さまが賛同してくれました。素晴らしい自然環境の中の廃校がきれいな状態で残っていたこともポイントでしたが、自治体の協力を得て、無償で提供していただけたのには驚きました。さらに廃校整備に関わるお金の多くを補助金として提供いただけることも決まりました。

住民説明会でも同意を得て、今年の5月16日、住民・我々・田辺市で三者協定を結びました。具体的には、行政・住民から開校に向けた様々なサポートをいただけること、我々は学校を通して地域に貢献する協定書を交わしました。構想・プレゼンからここまでわずか1年。ありえないスピードで、話が具体化していきました。

世界遺産・熊野古道を、世界とつながる学びの聖地へ。

三者協定を結んだ時の様子

まさにトントン拍子ですね。そこまで行政の心を掴んだ学校構想は、どのようなものだったのでしょうか。

仙石今回、学校のコンセプトを「探究型グローカル教育」に設定しました。具体的には国際バカロレア(IB)教育を受けられる国際的な学校を、和歌山県で初めて作りたいということ、そして教育移住を促進させたいとプレゼンしました。

この教育移住が、自治体にとって大きなフックとなりました。今、日本中で教育移住をする人が増えていて、日本では長野県、海外ではバリをはじめ、教育の場が世界に広がっています。こうした日本全国で起きている教育移住の現状を説明したところ、行政も住民の皆さんも、大変興味を持っていただけました。

今後益々人口減少が起き、また廃校が増え続けていることに田辺市も大きな危機感を持っています。そこで学校を通じた地域活性化を目指したいという想いが合致し、学校設立に至りました。

ほかにも「教育のあり方」への想いには共感が集まっています。今までの学校の多くは先生と生徒だけの閉じた関係性。しかし江戸時代は色々な大人が子どもに教えたいことを教科書にしていて、800種類もの教科書が存在したとも言われています。その中から寺子屋の先生が教科書を選んで授業をしていた、そんな世の中の大人と教育が自由に介在していた時代。今回の学校の設立を通して、普通の大人たちが教育に関われる機会を作りたいと思っています。社会人・大学生・留学生など、世代を超え和歌山から世界につながる教育の場を作りたいです。さっそく今年の夏にサマーキャンプを開催し、2025年の開校に向けて動き出しています。

Q.田辺市への想いを教えてください。

仙石行政と民間との距離が近く、市長・市議会議員・県会議員というチームの連携がスムーズ。学校構想が決まってから、あっという間にプランが具体化されています。もともと田辺市は熊野古道がある町として、1000年以上前から外部の人達を多く受け入れてきた地域です。壮大で懐の深い町として、私も田辺市に受け入れていただいたと思っています。

そんな歴史的背景を踏まえて、「熊野古道を世界とつながる学びの聖地へ」という学校のコンセプトが決まりました。熊野古道は世界でも有数の聖地として、海外からの観光客が年々増えています。そうした土地だからこそ、この学校が日本のエッセンスを学べる場所になればと思います。

Q.学校をどのように地域活性化につなげたいですか?

仙石学校を人口が減っていく地域のまちのインフラにもしたいです。たとえば地域の人たちも利用できる学校食堂を作りたいですね。また台風などが多い地域なので防災拠点にしたり、宅配・買い物の課題も解決するために活用してほしいです。交通の便が悪いので、スクールバスから派生したコミュニティバスなどの交通インフラも整えていきたいですね。学童やサマースクールでは地域の公立小学校とも連携したり、大人たちも学べるチャンスを作ったり、学校が地域全体の学びの場になればと思います。

世界遺産・熊野古道を、世界とつながる学びの聖地へ。

自然豊かな環境でのフィールドワーク

学校がつなげる、
地域社会と世界と自然界。

Q.仙石さんにとってのEVOLUTION x LOVEを教えてください。

仙石息子を通わせたい学校がないという課題が、最初のキッカケでした。色々なご縁がつながって田辺市が開校の地になり、開校に向けて動く中、「和歌山」だった主語が「日本」という主語に変わっているのを感じます。

和歌山のほかの市からというより、日本全国、さらに世界から移住してくれる人が増えたらいいなと思いますし、その視点に立って「どんな環境を整備すればいいか」を考えるようになりました。今では地域住民への学びの機会の提供や生活インフラなど、どんどん視点が広がっているのが、自分にとってのEVOLUTION x LOVEだと思います。

Q.10年後20年後の構想はありますか?

仙石熊野古道のエリアを、世界とつながる学びの聖地にしたいというのが最終的なゴールです。世界中の子どもたちが出会える場所を作り、さらに日本のルーツが詰まるここでしか学ぶことができない子どもたちが世界に羽ばたいていくことで、日本や世界が良くなっていったらいいですよね。

そのためにも学校開校に向け、認知度を高めていけるような活動を進めていきたいです。

Q.若者に対して感じることはありますか?

仙石社会意識が高くて、若くして自分の興味や関心のポイントが分かっているところはスゴイですよね。あえて言うなら、情報が多すぎて、やりたいことが小さくまとまりがちかなと感じることがあります。視野が日本に終始してしまうことも。だから海外など、ほかの世界をもっと見てほしいと思います。

そういった課題も踏まえて、今回開催したサマースクールも、最終日にイタリアとオンラインで交流できるプログラムを行ないました。これからも学校を通して、地域、日本、そして世界中とつながれるよう、学校に関わる人の視野と「やりたいこと」のスケールを広げられるよう、プログラムを充実させていきたいです。

   ありがとうございました!校長先生や教員なども少しずつ決まり始め、開校に向けてどんどん話が進み始めたという仙石さん。「うつほの杜学園」が無事に開校し、グローカル教育の場として地域、そして世界とつながっていくのを、心から応援しています!