空でつながろう

Interview Vol.28 有事の際、その場が災害拠点になる
フルカスタムされた日本初のキッチンカー

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。今回は、「レスキューキッチンカー」を全国に広める活動を行なっている一般社団法人日本食育HEDカレッジ 中村詩織さんにお話を伺いました。

有事の際、その場が災害拠点になるフルカスタムされた日本初のキッチンカー

一面がホワイトボードになっており、災害伝言板となるレスキューキッチンカー

普段は、普通のキッチンカー
有事の際には、食事や簡易トイレを提供する
サポート拠点に変身

Q.現在、どのような活動をしているかお話しください。

中村「レスキューキッチンカー」を全国に広める活動をしています。レスキューキッチンカーには、2つの「レスキュー」の意味があります。

1つ目のレスキューは、廃棄される食材で弁当などを作る「食材レスキュー」。商品にならないような野菜をカレーにして販売することもありますが、もっと積極的に食材をレスキューできるように取り組んでいます。例えば、オリーブを栽培する時に不要になった葉っぱをハーブソルトに変えて、ポップコーンにします。その売り上げを農家の方に還元するのです。オリーブは、収穫できるまでに6年以上かかりますが、農家はそれまで収入がない状態が続きます。でも、葉っぱをハーブソルトにすることで売り上げを作ることができる。私たちは防災イベントなどで各地を回りますので、廃棄されてしまう規格外食材をレスキューすることもミッションの一つだと考えています。

2つ目のレスキューは、「地域レスキュー」としての機能です。有事の際に食事を提供したり、簡易トイレを設置したりすることができる災害拠点になれます。キッチンカーの特性上、すぐに調理をする材料や道具を運びながら常に街を循環していますので、もしもの時は安全な場所に停車してすぐに災害拠点にできるのです。

また、災害時に人が生き延びるための「災害知識」と、生きる上で一番必要な「食の知識」を兼ね備える、「食育防災アドバイザー」認定講座、災害時の食のリーダー「日本食育防災士」育成プログラムを運営しています。自治体や企業の防災担当の方も多いですが、遠方からわざわざ受講しに来てくださる個人の方も増えています。

Q.地域レスキューとしてのキッチンカーは、どのような機能をもっているのですか?

中村「レスキューキッチンカー」では、5つの機能を備えています。

①一面ホワイトボード

災害時は伝言板としてメッセージを残したり、マグネットでチラシを留めたりできます。

②500人分の食事

災害時に食事をすぐに提供できるよう、火を使用せずに提供できる備蓄食品として500人分以上の食糧を積載しています。

③すぐに炊き出し可能

大鍋や水、缶詰などを常に積載しているため、栄養たっぷりの食事をすぐに調理することができます。

④安心・清潔なトイレ

ライフラインが止まって一番困ると言われているトイレ問題を解決するため、約2,000回分の簡易トイレと目隠しのテントを準備しています。

⑤多機能メニュー

看板キッチンカーのメニューを書いている看板は、災害時には担架や車いすに早変わりします。ケガをした方や重たい荷物を安全な場所へ運ぶことができます。

有事の際、その場が災害拠点になるフルカスタムされた日本初のキッチンカー

Q.今の活動に至るまでに、どのようなきっかけがあったのですか?

中村最初はセラピストとして仕事をしていたのですが、色々な方の身体をケアしている中で、表面的なアプローチでは健康を維持することはできないと感じるようになりました。そこから食事に注目するようになり、栄養の勉強を始めました。食育スペシャリストの資格を取得し、企業や団体に向けて食育の講義をするように。そんな中、熊本の地震があったのです。

Q.「レスキューキッチンカー」が誕生した背景を教えてください。

中村平成28年熊本地震の際、私は鹿児島県の出身で熊本に多くの知人がいたため、「物資が足りないから誰か助けてくれないか」という連絡を受けました。慌てて鹿児島の実家へ戻り、自宅の駐車場を開放して、友人たちから集めた物資をトラックに積み、現地へ届けましたが、食糧不足や食中毒の問題を目の当たりにしました。こうした災害時の食の問題を解決すべく、「レスキューキッチンカー」のことを考えるようになりました。

避難所では、食の判断をする人がいないことで、せっかく届いた支援のお弁当やおにぎり、サンドイッチなども放置されたまま腐敗してしまうこともありました。また、赤ちゃんの離乳食やミルク不足、食べ物アレルギーや疾患をお持ちの方の食事など、食べることに困っている人が多いことがわかりました。
災害時、国や自衛隊などの支援体制が整うまで72時間以上かかると言われています。それまでの時間、暖かい食事や、気軽に使えるトイレがあることで、安心して救援を待つことができるのではないかと思っています。いざ、というとき災害支援が到着するまでの数日間、自身、家族、地域の方々と共に寄り添い生きるためのレスキューキッチンカーです。

災害時にはそのようにして救援サポートを行いますが、何もない時は食品ロス削減に貢献したメニューを移動販売して、「レスキューキッチンカー」をお披露目しながら仲間を増やしたいと思って活動しています。

有事の際、その場が災害拠点になるフルカスタムされた日本初のキッチンカー

瓦礫が落下してくることも想定した頑丈な骨組みと、ハンモックを吊ることもできる天井

持続可能な取り組みにするために

Q.中村さんにとっての“EVOLUTION x LOVE”を教えてください。

中村「レスキューキッチンカー」は、災害が発生した時に日本全国どこにでも行きます、という形はとっていません。基本的には、普通のキッチンカーとして街中で販売している時に、もしも災害が発生したとしたら、その地域の皆さんのために活動するものです。

ですからこの1台だけでは、日本全国をカバーすることができないのです。キッチンカーを運営している飲食業界の皆さんが、災害時に食事やトイレなどを提供してくれる拠点になってくれることを願っています。しかし、常日頃から、非常食や水やトイレを運びながら営業するのは、飲食店の方にとっては負担が大きいです。不要になった食材をローリングストックし続けることも、ハードルが高いです。

そのため、このような取り組みを永続的に行うためには、行政とタッグを組む必要があります。ローリングストックの食材は、年に一度の防災セミナーを開いてみんなで食べる炊き出しイベントにしたり、積載してもらう非常食は無償で提供したりするなどの、地域防災という観点からサステナブルに運用する必要があると思っています。

“地域LOVE”をずっと続けていくためには、キッチンカーを運営する皆さんの努力だけでは難しいので、自治体の防災担当者の協力が得られないかと考えています。今は、そのような自治体を増やしたいと思って啓蒙活動をしているところです。

   ありがとうございました。すでにキッチンカーをお持ちの方に「レスキューキッチンカー」について関心を持ってほしいですし、自治体の防災担当の方にも検討していただきたいですね。有事の際、救援物資が届くまでには時間がかかることが多いとのこと。そんな時に、常に街中を走っているキッチンカーがすぐに避難拠点として活躍するとしたら、心強いです。キッチンカーに非常用トイレや炊き出しの用意があると、即座にレスキューキッチンカーとして活躍できることでしょう。そのためには、防災グッズの提供、非常食として積載する食品のローリングストックなどのハードルが低いことが必要です。キッチンカーの運用をしている方、自治体の防災担当の方などがこのテーマを検討してくださることを願っております。