空でつながろう

Interview Vol.29 「三方良し」で盛り上げる、
伊香保の観光産業。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第29弾の舞台は、群馬県渋川市。全国屈指の温泉地・伊香保で「ホテル松本楼」を営みながら、地域活性化に取り組む松本光男さん・由起さんご夫妻にお話を伺いました。

湯治の町・別府市鉄輪(かんなわ)で紡ぐ、人・ビジネス・地域活性の「関係」。

松本楼のみなさん(松本さんご夫妻:上段中央)

旅館だから解決できる、
多様な地域課題。

Q.現在の活動に至るまでの経緯を教えてください。

松本ご夫妻大学卒業後にイギリスに留学したのち、25歳の時に、実家「松本楼」を継ぎました。地域活性化に注目するキッカケとなったのが、当時出会った、旅館運営のプロフェッショナルと言える方の言葉。「これからは地域で選ばれる時代になるから、その土地の皆で協力しないといけない」と言われ、地域全体を踏まえた伊香保の観光産業について考えるようになりました。

当時はまだバブル期で、社員旅行など団体中心の時代。しかし将来を見据え、女性に喜ばれるまちづくりに取り組み始めました。手始めに同年代の女将4名が集まって、「伊香保おかめ堂本舗」という会社を設立。石鹸やミストスプレーといった、女性に喜ばれるお土産を開発しました。

当時は温泉偽装問題で、伊香保温泉が非難されていた時期。ある意味注目されていたタイミングだったので、課題を徹底的に改善しました。たとえば伊香保は階段が有名で、風情もあります。しかしどんな人でも楽しめるようにバリアフリーを取り入れたり、階段を登った時の消費カロリーをパネルにしたり、風水の先生を呼んでパワースポットを教えてもらったり。女性の視点で、伊香保の魅力を発信し続けました。

Q.現在はどんな取り組みをしていますか?

松本ご夫妻今は旅館の運営のほか、自治体や企業と組んで、伊香保の活性化に向けた取り組みを行なっています。また、廃業した旅館を買い取ったり空き家を借りて、新しいコンセプトのお宿に生まれ変わらせています。ほかにも一棟まるごとペットと泊まれるお宿にしたり、最近ではパン屋さんもオープンさせました。せっかくなら景観を守りつつ、温泉地・伊香保でいられる場所にしたい。ほかの地域からも「廃業した旅館を買ってほしい」というお声がけをいただきますが、私の活動は伊香保ありき。近々、自治体や銀行と協力して、大規模なまちづくりプロジェクトもスタートします。今後も旅館を通して、伊香保の発展に貢献していきたいです。

Q.地域活性化への想いを教えてください。

松本ご夫妻旅館という業態ゆえ、働いてくれる従業員の人たちが気持ちよく暮らせる町にしたいというのが、地域活性化に取り組む原動力ですね。たとえば今、伊香保の学校は人口減少が激しく、全校生徒30名、新入生も1名という状態。子どもを学校に通わせるために引越しを選ぶ人も少なくありません。だから伊香保で働きながら安心して子育てができるようにするためにも、学校設立に向けた活動にも携わっています。特徴ある学校を作ることで、地域の人はもちろん移住者を増やし、教育レベルを上げたいですね。

ほかにも沖縄に社員旅行に行ったり、決算賞与を出したり、尊敬する旅館の社長に講演をしてもらったり。地域の清掃活動や募金活動に社員が参加する時には、食事をごちそうしました。ES(エンプロイーサティスファクション:従業員満足)がなければ、CS(カスタマーサティスファクション:顧客満足)はないと思っています。

Q.伊香保温泉とはどのような存在でしょうか。

松本ご夫妻伊香保温泉は、文人・徳冨蘆花ゆかりの地。市内には記念館もあるほど、縁の深い方です。彼が遺した「風光明媚な温泉地はどこにでもあるけど、伊香保温泉は人情がすばらしい」という言葉がすべてだと思っています。

実際に私も、困っている人をほっとけないタイプ。雨や雪の日に伊香保を歩いている人がいたら、「車に乗ってください」って、つい声をかけてしまう。チェックアウトの時に「別の旅館にもう一泊する」と聞いたら、その旅館まで荷物をお運びする。ほかの女将たちと話していても、それが普通です。“おせっかい”を通して、お客様が少しでも地元の人と触れ合う仕掛けづくりができたらと思っています。

Q.松本さんにとって地域活性化とは何でしょうか。

松本ご夫妻三方良しであることですね。旅館・お客様・地域、すべてが幸せであることが大切です。最近考えているのは、働く可能性を広げること。パートで働かざるを得ないシングルマザーの人や社会生活を送るのが困難な人、障害を持つ人など、働きたいけど世の中の「働き方」の枠では難しい人に対して、働ける場所・方法を探してあげたいです。そうすることで、人手不足が解消されるし、雇用も生まれるし、経済も回りますよね。現在、松本楼では、ペットと泊まれるホテルの清掃を、障害者の施設の方にお願いしています。ワンちゃんの細い毛を地道に掃除するのが得意な方が多く、とても助かっています。

ほかにも食品ロスへの取り組みとしてゴミを活用して発電する方法を考えたり、旅館で被災者を受け入れる協定を渋川市と結んだり。新しい取り組みをする時には伊香保の全旅館に声を掛けることで、地域全体の活性化を目指しています。

地域活性化を通して社会問題を解決できるし、旅館という業態は色々な可能性に挑戦できる。改めて、旅館って面白い仕事だと思いますよ。

湯治の町・別府市鉄輪(かんなわ)で紡ぐ、人・ビジネス・地域活性の「関係」。

社員みんなで行なった、伊香保クリーン大作戦

「おもてなし」を大切にしたいからこそ、効率化を。

Q.松本ご夫妻にとっての"EVOLUTIONxLOVE"を教えてください

松本ご夫妻「大切にするもの」の本質を見極めるようになりました。そのキッカケは、やはりコロナですね。非接触が当たり前になったことで「この業務って本当に人間がすべきこと?」と考えるようになりました。

実際に今、チェックアウトは機械ですし、料理のオーダーもスマホから。掃除もお掃除ロボットがやってくれます。一見、味気ないと思われるかもしれませんが、無駄なところの人件費・拘束時間をカットすることで、従業員がお客様と会話する時間を増やすことができましたし、無駄な残業もカットできました。

松本楼には、定期的に来ていただくお客様も多くいらっしゃいます。初めての赤ちゃん連れ旅行で来ていただいた方が、七五三で来てくれたり、成人して来てくれたり。一緒に成長を喜び合える“写真館”のような存在でありたい。だからこそ社員に長く働いてもらい、お客様との時間を増やすためにも、機械にできることは機械に任せる。そんな、旅館の本質をより深く考えるようになったのが、私にとってのEvolution x Loveです。

湯治の町・別府市鉄輪(かんなわ)で紡ぐ、人・ビジネス・地域活性の「関係」。

従業員と一緒に、石段街年末募金活動

Q.今後、新しい可能性について考えていることはありますか?

松本ご夫妻今後、さらにインバウンドが増えていくと思います。外国人観光客が求めているのは、日本らしさ。畳や日本文化に触れられる旅館の価値はさらに増えていくと思っています。だから旅館は、日本文化を体現できる存在でありたい。たとえば地産地消だったり芸者さんだったり、今後、日本文化はもっと花開いていくのではないでしょうか。

それを踏まえて今後は、伝統文化とのつながりを深くしていきたいです。後継者のなり手が少なかったり認知度が低かったりしている伝統文化に対して体験コンテンツを増やしていくことで、そうした課題を解決したいです。

Q.最近の若者に対して感じることはありますか?

松本ご夫妻もっと失敗してもいいと思っています。たとえば以前、松本楼で働いていた子が「保育士になりたい」と退職しましたが、「やっぱり違っていました」と戻ってきました。ほかにも外車のディーラーで働きたいと転職した子がパートで戻ってきたり…。私はそれでいいと思います。

失敗してもいいから挑戦して、ダメだったら戻ってくればいい。叶えたい夢があるなら、最終的に転職・退職することになっても、チャレンジを諦めないでほしい。若いのに「私には無理だから」「難しそうだから」と挑戦しないのはもったいないです。この前も退職した社員の子が遊びに来た時に、「困ったら相談しに来るんだよ」と言ったら、「辞めた社員にも声を掛けてくれる会社、ほかにないですよ」と言われました。松本楼の社員であるかに関係なく、夢を叶える手伝いをしてあげたい。だから安心して大きい夢を掲げて、なんでも相談してほしいです。

   松本ご夫妻、ありがとうございました!旅館の枠組みを超えるパワフルな発想で、伊香保全体を盛り上げている松本ご夫妻。今後、伊香保が世界でどう注目されていくか、これからも応援させていただきます!