空でつながろう

Interview Vol.32 京都から発信する、
「インバウンド×日本文化」の可能性

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第32弾の今回は、京都府京都市で、インバウンド(訪日外国人)向けの旅行手配事業を通して、日本と海外をつないでいる、「株式会社みたて」代表取締役の庄司 英生(しょうじ ひでお)さんにお話を伺いました。

京都から発信する、「インバウンド×日本文化」の可能性

「株式会社みたて」のメンバー(写真中央前列:庄司さん)

目指すは、
日本文化の魅力の逆輸入

Q.京都で起業することになった経緯を教えてください。

庄司東京での会社員生活を経て、起業を決意したのが40歳の時。当時から、起業するならインバウンドに関わる仕事をしたいと思っていたので、日本におけるインバウンドの中心と言える京都を選びました。「株式会社みたて」の事業は3つ。主にヨーロッパ・オーストラリアなどの旅行者に対して、日本滞在中の手配を一括して行なう「ランドオペレーター」と呼ばれる事業。2つ目が、自治体や行政からの依頼を受けて、その地域にインバウンドを誘客する訪日旅行PR事業。そして3つ目が、「米作りから始める日本酒づくり」のような、日本酒の企画・販売事業です。

Q.インバウンドに関わる事業をやりたいと思った理由を教えてください。

庄司日本は観光資源が豊富で、インバウンドにとって高い価値となりうる、工芸品・文化がたくさんあります。しかし欧米豪の旅行産業にとって、日本はとてもニッチ。そのためマーケットに乗りにくく、結果的に日本だけでその文化を支えることができず、文化が廃れてしまう。そんな課題を感じていました。それなら自分が直接、海外に対してその魅力を伝えようというのが、事業の原動力です。

実際、インバウンド事業をスタートした時、イギリスに渡って現地の旅行会社に日本の良さを直接アピールしたことがありました。その時にどこに行っても良い反応をいただいたことで、双方をつなぐ事業に手応えを感じることができました。

Q.インバウンドを通した地域活性化について、どのようにお考えですか?

庄司インバウンドと地域活性の関係性については、2つの要素があると思っています。1つ目は、ダイレクトに外貨が地域に落ちること。日本はこれから人口が減っていくので、税収を増やしていくことは難しいですよね。それならばインバウンドに力を入れて外貨を獲得することが、地域が生き残る方法の一つだと言えます。特に今は円安。外国人観光客の単価も増えているので、インバウンドが地域にもたらす影響は大きいです。

そしてもう一つ。僕はこちらの方が面白いしやりがいがあると思っているのですが、自分たちの文化を見直せるということ。日本は素晴らしい地域・文化がたくさんあるのに、日本人自身がその魅力に気づいていないし、アピールすることも少ないですよね。しかし海外の旅行者の方が旅行を通して日本文化を評価してくれることで、自分たちの文化に誇りが持てることがあると思います。実際、茶道はその中にある芸術性・文化性・精神性が高く評価されています。外国人の目線を通して、そうした魅力に日本人自身が気づくことで、次の世代につなげていけると考えています。

京都から発信する、「インバウンド×日本文化」の可能性

京都で約200年ぶりに復活した「祝い提灯行列」に仲間と参加

Q.京都でインバウンドビジネスを行なう意義について、教えてください。

庄司意外にも京都は財政破綻危険度が上位の地域。地価が高騰しすぎるあまり住民が減り、コロナ禍では税収が激減してかなりの苦境に立っていました。また多くの伝統文化が根付く土地ですが、家業を続けていくための将来性、家族や従業員を養っていくための売上に不安を感じる若者も多い。僕も最近、「実家の家業を子供に継がせたいけれど、家族や従業員を養うのが難しいから自分の代で廃業しようか迷っている」と相談を受けました。

海外需要は大きいのに、需要と出会えないために将来が見通せないのも、伝統が根付く京都ゆえの課題。だからこそ、文化の担い手に希望をもたらすインバウンドビジネスは、意義深いと思っています。

Q.庄司さんにとって、文化継承を担う使命感のようなものはありますか?

庄司京都は特に文化を継承しようという熱が高いと思います。たとえば僕は仕事に関係なく、地域のお祭りに参加しています。それは江戸時代の後期に消滅したお祭りを復活させたいという地元の熱意で生き返ったもの。伝統を続けていくだけでなく、なくなった文化を復活させる機会が多いのも、京都の特徴と言えます。

そうした地域性もあり、当社では「カラフルな日本をつくる」ことを会社のミッションにしています。僕が生まれた当時は、第二次ベビーブーム。経済大国として「勝ち組 or 負け組」「都会 or 田舎」のような二元論で語られることが当たり前でした。

しかしこれから、僕の子供の世代の日本が、昔のように経済大国として札束で世界と勝負するのは、ちょっと厳しい。それなら「昔のような勢いは無いものの、確固たる地位を持ち、引き続き世界から評価されている国」であるスペインやイギリスのように、文化的に個性を発揮している国を目指したい。二元論ではない、多様な文化が混ざり合う日本を次の世代に残していくのが、僕の使命です。

人が集うことで広がり、
変容する世界。

Q.庄司さんにとっての”EVOLUTION x LOVE”を教えてください。

庄司「会社の意義」の変化ですね。起業した時は、自分のビジネスが成功するためにという軸で、すべての行動計画を考えていました。しかし地域の人と関わる中で、全国各地に広がる日本文化の多様性に惹かれていきました。それまでは「日本文化と言えば京都」と思っていましたが、京都は古来から都として、全国の文化が混ざり合う地域。まさに日本の文化の集合体です。だから金銭面での成功ももちろんですが、ビジネスを通して日本全国の文化の多様性を世界に発信し、日本全体が海外から評価されることを目指さなければと思うようになりました。

また、仲間が増えることによる世界の広がりにも気づけました。当社が企画した日本酒がフランスで賞を受賞した時、当社で働きたいと申し出てくれたフランス人がいました。もし彼が仲間になったら、一気にフランス圏にマーケットが広がります。ですから今は彼と一緒に、必死になってフランスマーケットを開拓しています。

仲間が増えることで初めて描けるイメージがあるし、自分一人より大きな絵を描ける。仲間が、僕の発した言葉を予想外の方向で解釈することで、広がっていく世界もある。集まった力の大きさが、エボリューションの大きさに比例していくと考えています。

京都から発信する、「インバウンド×日本文化」の可能性

イギリス人パートナー(庄司さんの右隣)と共に、日本の地域文化を海外に発信

Q.現状の活動で足りていないことはありますか?

庄司会社としては、組織として成熟させていくために試行錯誤している段階です。たとえば定例ミーティングの方法や、会社の方針の伝え方・共通認識の持ち方など。会社として、ビジネスのオペレーションをもっと洗練させていきたいですね。

また、京都内で旅行の手配をしてくれるオペレーターさんも必要です。ほかにも商品・コンテンツとして海外に売り込める日本文化の担い手とは、ぜひ出会いたいです。地方の文化の担い手・海外旅行者・当社それぞれにとってメリットが大きいと思うので、日本文化をを発信してくれる方とのつながりを深めたいです。

Q.最近の若者に対して感じることはありますか?

庄司国内で言われているほど、日本は終わってないと言いたいですね。SNSでは日本の将来に悲観的ですが、GDPは引き続き世界でも上位をキープしているし、文化的にも海外からの評価は非常に高い。今後も世界において存在感を発揮できる国と言えます。だから国内の論調だけを見ず、「日本」を正しく把握してほしいですね。

また、スキルを身につけてほしいです。やりたいことがあっても、スキルがないとそれを仕事にすることはできません。僕は前職で、「Will(やりたいこと)、Can(できること)、 Must(やるべきこと=求められていること)」という指標を学びました。ちなみにスキルとは、語学力や技術だけではありません。営業の本質はモノを売ることではなく、人の心を動かすこと。そうやってスキルを突き詰めていくことで、僕のように40歳でまったく別の分野で起業することもできる。日本に悲観することなく、スキルを身につけることで道が拓けると思いますよ。

   ありがとうございました!海外からの観光客が増え、インバウンド需要が注目されている今日このごろ。庄司さんを中心とした「株式会社みたて」が、どのように京都や日本の文化を海外に発信していくか、楽しみにしています。