空でつながろう

Interview Vol.36 香川の新たな観光スタイル
UDON HOUSE。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第36弾の今回は、香川県三豊市で、讃岐うどん作り体験をしながら古民家に宿泊できる「UDON HOUSE」を運営されている原田佳南子(はらだ かなこ)さんにお話を伺いました。

香川の新たな観光スタイル UDON HOUSE。

UDON HOUSE前にてスタッフの皆様と原田さん(写真左)

「ならば自分が…」から始まった、香川での起業。

Q.三豊市で活動することになったキッカケを教えてください。

原田三豊市が活動拠点になったのは、色々なめぐり合わせから。新卒で楽天に入り、9年間、楽天トラベルで観光に関わる仕事をしていました。後半の4年間は地域振興事業部で、毎週のように日本中へ出張する日々でした。しかし仕事を通して「行政からお金をもらって町をPRするだけでは、なかなか町は変わらないのでは」と疑問を感じるようになりました。

また各地の人と関わる中で、地域に入り込んで新しい事業を進めていく若い力が枯渇している印象も受けました。
しかし、少ないけれど地方を盛り上げる活動をする同年代に出会ったことがきっかけで、「一度きりの人生なら本気でチャレンジをしたい」「自らが地域に飛び込んで、事業をしたい」と思うようになりました。三豊市と出会ったのは、ちょうどその頃でした。香川県は誰もが知るうどんの町。うどんを作って古民家に泊まる「UDON HOUSE」をスタートすることになった時、立ち上げに関わってきた自分が主体者になろうと移住を決めました。

Q.三豊市への想いをお聞かせください。

原田2016年に初めて三豊市を訪れた時、まだ知られていない観光資源が多いことに驚きました。海水浴場である父母ヶ浜(ちちぶがはま)にもほとんど人が訪れていなかった頃にオープンを決めた、「UDON HOUSE」。いざ私たちが運営することになったら、たくさんの人が協力を申し出てくれて…。「UDON HOUSE」の立ち上げを通して、三豊市の人の魅力を感じることができました。何より協力してくれる方の多くが、同世代。新しい土地で新しいことを始める上で、同世代の協力者が多いのは、心強いことだと思います。

香川の新たな観光スタイル UDON HOUSE。

まちでチャレンジする人材を増やす三豊ローカルスタートアップクラスの様子

Q.三豊市の人に対して、どのように感じていますか?

原田地域の事業者仲間というよりは、同じようにリスクを背負って同じ世界を目指して戦っている戦友のような存在です。会社員だった時や東京に住んでいた時にはなかったこの関係性は、私の財産ですね。

また活動を通して、地域活性化の考え方が覆される瞬間もたくさんありました。これまでは人口が減少して廃れていく地域を、都市や企業が助けてあげるというスタンスが無意識のうちにありましたが、それは大間違い。主語が「会社」になりがちな都会の会社員と比べ、地方で暮らす人の方が、よっぽど物事を自分ごととして捉えていると痛感しました。

足りないものがあれば作れるというのが、地方の面白いところ。そして町に不足を感じた時にアクションを起こせる人が集まっているのが、三豊市だと思います。

「UDON HOUSE」を走りとして様々なプロジェクトが生まれている結果、ほかの地域からも「三豊市が盛り上がっている」と言わるようになりました。実際、2016年には5,000人しかいなかった市内の父母ヶ浜(ちちぶがはま)の観光客が去年は51万人と、伸び率は約100倍。

「三豊市ばかり盛り上がって」と言われることもありますが、地域活性化は行政区ではなく、それぞれの活動の集合によって実現するものだと感じています。

移住して見つけた、
自分で歩む、自分の人生。

Q.原田さんにとっての”EVOLUTION x LOVE”を教えてください。

原田私の中のターニングポイントはやはり、会社を辞めた時です。会社員の時は、常に何かに文句を言いながら働いていました。でもある時、その文句は突き詰めれば自分へのクレームなのかなと気づきました。嫌なら辞めればいいのに、辞めずに続けているのは自分の選択。その自分の選択に文句を言いながら一生過ごすのはカッコ悪いですよね。自分の人生の主役を自分にしてあげるために、今の道を歩むことを決めました。

また前職時代に営業先の宿泊施設の方に言われた言葉も、この道に進むキッカケになりました。「宿泊施設はキャパシティが限られているので、どんなに原田さんに頑張ってもらっても他の販路との取り合いにしかならず、宿全体の売上はあまり変わらない」と言われて、大きな衝撃を受けました。営業することで自分の会社の売上は上がるのに、目の前のお客様の売上を伸ばすのは限界があるという視点に、初めて気づきましたね。

その宿、ひいては地域の売上を伸ばすためにできることは、やはりエリア全体に人の流入を増やすこと。それなら行政に働きかけようと、行政と関わるチームに異動しました。

そして現在、地方での起業を通して感じるのは、一期一会の出会いが地域を作っているということです。その瞬間の出会いの積み重ねがカタチになっているので、たとえば今、同じことを同じ三豊でやろうとしても、結果や形態は違うものになっていると思います。そうした一期一会のご縁をカタチにすることで、地域を良いものにしていきたいと思うようになったのが、私にとっての”EVOLUTION x LOVE”ですね。

香川の新たな観光スタイル UDON HOUSE。

地元を中心に11社で立ち上げた宿「URASHIMA VILLAGE」のメンバー

Q.10年後や20年後のビジョン、あるいは人、モノをつなげることで生まれる新しい可能性を教えてください。

原田これまでほぼ1年に1つずつ、新しいプロジェクトを生み出してきました。その結果、町全体が大きく進化していて、「3ヶ月来ないと町の景色が変わる」と言われるほどになりました。

そうした変化の中で感じるのは、地域の課題解決のために…というより、そこに住んでいる自分たちが「欲しい日常」を手に入れるためにプロジェクトが始まり、結果的に地域課題の解決につながっているということ。

行政に頼らず、目の前の人が幸せに暮らしていくために行動するのは、簡単なようで難しいです。しかし大変であっても、「自分たちの幸せは自分たちで手に入れる」という考えに勝る価値はないと思います。さらに、幸せの基準は人それぞれ。違う基準を持つ人たちが作った「幸せな日常」が点在している未来が、この地域に根付くといいですね。

Q.最近の若者に対して感じることはありますか?

原田私達の時代よりもさらに不確実性が加速していると感じています。たとえばプロジェクトを進める時。以前は一つのビジョンに向けて皆で走っていくイメージでしたが、今はそのビジョンすら途中で揺らぐほど、世の中のスピードが変わっています。

そんな難しい時代に加えてSNSでは、自分が何者かを早めに定義づけした者勝ちという流れになっています。そのためどんな小さなタイトルでも獲ることに固執する人や、夢を追わなければいけないと焦る人が多いと感じますね。

でも今は、人生100年時代。この先まだまだ長いので、焦らずじっくり歩んでほしいと思います。もちろん、やりたいことを見つけられたらいいとは思います。しかし「やりたいこと」を見つけるのはとても大変。今、やりたいことを実現している人も、実はここに至るまで、もがき苦しんでいた…ということは珍しくありません。

その打開策は、やっぱり行動すること。一歩踏み出した先に道が拓けることは、自分や周りを見ても実感します。だから目の前にチャンスがあれば波に乗ったほうがいいし、面白くないからすぐに辞めるのも、もったいない。とにかく行動して酸いも甘いも知ることで、「やりたいこと」と出会えるのではないでしょうか。

   ありがとうございました!ご自身にとって新しい土地だからこそ、イチから人間関係や事業を築いていらっしゃる原田さん。「UDON HOUSE」から新しい流れが地域に生まれ、観光客が増えている三豊市が今後さらに発展していくことを、今後も応援させていただきます。