空でつながろう

Interview Vol.39 庄内藩の歴史が残る鶴岡市・松ヶ岡が紡ぐ、
新しい未来。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元や地域愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。今回は、山形県鶴岡市松ヶ岡地区を中心に地域産業・歴史を活かした活動をされている、大和匡輔(やまと きょうすけ)さん、長谷川夕香(はせがわ ゆか)さん、川島旭(かわしま あきら)さん、西 紅映(にし くれは)さんにお話を伺いました。

庄内藩の歴史が残る鶴岡市・松ヶ岡が紡ぐ、新しい未来。

写真左から川島さん、大和さん、長谷川さん、西さん

協業で生み出す、
松ヶ岡の新たな魅力。

Q.現在の活動内容と、きっかけを教えてください。

大和私は30年前に、家業を継ぐために戻ってきたUターン組です。実家が営んでいた絹織物の染色やプリント業を引き継ぎました。鶴岡市、特にこの松ヶ岡地区はシルクの町なのです。また、庄内藩として現在も当主がいる、歴史ある町です。しかし中国産シルクや安価な合繊繊維に押され、シルク産業は衰退の一途を辿っています。その現実に直面した時、地場産業や歴史といったアイデンティティを次の世代に継承するため、イベントやブランディングに力を入れるようになりました。「kibiso」や「侍絹(サムライシルク)」といったブランドを立ち上げたのも、その想いからですね。現在はシルクの魅力をより多角的に発信するため、川島さん、西さん、長谷川さんと協業して、様々な取り組みをしています。

西私はANAの客室乗務員ですが、コロナをキッカケにフライトが激減。そこで2021年よりANAの営業部門であり地域創生業務を担う「ANAあきんど株式会社」庄内支店で、CAの業務と兼業することになりました。松ヶ岡は歴史と新しい活動が融合している地域です。一度来たら良さがわかる魅力的な地域なのに知名度が低いことに課題を感じ、地域の皆様と一緒に活動をスタートしました。

現在は、ワイナリーでワインのPRをしたり、客室乗務員としてスカーフの巻き方講座をしたり、「サムライシルクナイト」というナイトイベントの実行委員などを行なっています。

長谷川私はこの地域で長年、ウェディングプランナーとして活動してきました。そのおかげで地域の方とのつながりが深く、なにかしようと思った時、色々な人に協力を仰ぐことができました。ワイナリーもその一つ。松ヶ岡は魅力的な町で日本遺産もあるのに、なかなか観光客が来ないのです。さらに言うと、地元の人も松ヶ岡の魅力に気づいていませんでした。そこで西さんとの出会いもあり、地域の魅力を地元の人に伝えていく活動を始めました。

川島松ヶ岡は、明治維新を機に庄内藩士が開墾した歴史ある場所ですが、2017年に桑(養蚕)から柿に変わった畑にワイン用ブドウを植え始め、2020年にワイナリーとして初醸造、2021年に初出荷を遂げました。西さんとの出会いもちょうどその頃で、西さんが松ヶ岡に来るタイミングと重なり、ワインのPRや活動を一緒に行なうようになりました。現在も西さんにも一緒に参加してもらいながらワインを造り上げているので、本当に人とのつながり、「テロワール=ワインを構成する環境」の中でワインを作っていますね。

庄内藩の歴史が残る鶴岡市・松ヶ岡が紡ぐ、新しい未来。

サムライシルクナイトイベントにて長谷川さん(写真左)と西さん(写真右

Q.皆さんで活動されている意義や活動への想いをお聞かせください。

西地元の皆さんが培ってきた歴史を、外部の目線でPRしていくのが、私の役目だと思っています。そんな私が心がけているのは、地元の人の納得感です。プロジェクトを進めていく上で、地元の方の了承は必須。また、地域資源を活かすことも重要です。ですから以前行なった「サムライシルクナイト」も、ただ歴史的建造物をライトアップするだけでなく、歴史を学べるツアーも企画しました。またライトアップに使用したランタンも、地元のワインで染めたシルクを使いました。闇雲に人を集めるのではなく、新しく来た人に歴史を伝えていく活動を心がけています。

大和「歴史的建造物とシルク」「シルクとワイン」といった協業や、4人での活動が新しい取り組みの幅を広げていることを感じます。特に大きな変化としては、地元の人に松ヶ岡の魅力を再発見してもらえるようになったと思いますね。

長谷川実際、松ヶ岡の方たちから「松ヶ岡を知ってくれる人がずいぶん増えたよ」と言われることが増えてきました。これまで「ここには何もない」と思っていた地元の方に松ヶ岡が注目されていることを感じていただけて、皆で活動したからこその意義を感じています。またライトアップなどを通して若い人が増えたのは、私自身も感じている変化です。

Q.みなさんにとって、松ヶ岡はどんなエリア・存在でしょうか。

大和やはり私のアイデンティティであり、子どもたちにとってもアイデンティティであってほしいですね。地方では、「自分たちの町は何もない」と言ってしまいがち。でもそれでは、自分たちの町には何もないという考えのまま、都市に出て行ってしまいます。だから自分たちの活動を通して、松ヶ岡が世界に誇る「本物」であるシルクや、紡がれてきた歴史にアイデンティティを感じてほしい。松ヶ岡を「本物の価値を知れる場所」であると伝えていくことで、子どもたちが地元の歴史をベースにした「未来」を描ける場所にしていきたいです。

西松ヶ岡は私の第二の故郷となりました。庄内エリアは母の出身地でもありますが、自分が主体的に地域の人と関わり、事を起こしていく仲間に入れたのが松ヶ岡。もう一つ、自分のホームが出来たような感じがします。

特に客室乗務員はチームで働くとは言え、ここでの活動のように、長期間、周りの人と一つの目標に向かって進んでいく経験は、本当に貴重でした。今後も「地元の人たちに納得していただけるカタチで、認知度を高めていく」というポリシーをブレさせずに、活動していきたいです。

庄内藩の歴史が残る鶴岡市・松ヶ岡が紡ぐ、新しい未来。

サムライシルクナイトイベントの様子

Q.地域創生について、どうお考えですか?

川島松ヶ岡に根付く徂徠学(そらいがく)の「みんなでやる」というスタンスが、活動の基本です。シルクだけでもダメだし、ワインだけでもダメ。それぞれが協力しあって、先人たちの遺産を受け継いでいくことが地域活性化だと思っています。

大和これまではショッピングモールを作るなど、東京の真似をすることが地方活性化とされてきました。しかし最近の鶴岡市や松ヶ岡地区は、東京にないものを作ろうとしています。もちろん若い人が都市に憧れるのは当たり前。どちらかと言うと地元の価値をしっかり発信して「芸能人の◎◎さんが、私たちの地元を取り上げてくれた」「最近地元が話題になっている」というムーブメントを作ることで、若者に自分たちの地域の魅力に気づける仕組みを作りたいです。

庄内藩の歴史が残る鶴岡市・松ヶ岡が紡ぐ、新しい未来。

ワイン提供する川島さんと打ち合わせをする西さん

松ヶ岡の「上質」「本物」を、
世界のスタンダードに。

Q.皆さんにとってのEVOLUTION x LOVEを教えてください。

大和松ヶ岡は世界有数のシルクの産地でしたが、海外の安価なシルクの台頭や需要の低下により、産業が衰退しつつあります。しかし現在の活動を機に、地元の人や子どもたちに「本物を伝える」意義をより感じるようになりました。実際、「本物」であるヨーロッパのラグジュアリーブランドは、高収益を記録し続けています。日本もそこに追いつけるよう、イノベーションを大切にしなければいけない。これまでのシルク技術をメディカルや新技術の開発に活かすなど、付加価値を増やしたいと思うようになりました。

庄内藩の歴史が残る鶴岡市・松ヶ岡が紡ぐ、新しい未来。

しな織りについて説明をされている大和さん(写真右)

Q.20年後、30年後のイメージや、なりたい姿はありますか。

川島松ヶ岡は歴史が深く、「上質で本物」という価値を伝えていく場所。ですから20年後、30年後も、上質で良いものが残っていくと思っています。そしてサステナブルが世界的に注目されていることからも、松ヶ岡の価値観が世の中のスタンダードになっていくのではないでしょうか。もちろん地域としては交流人口が増えることも大切ですが、そうした本質が残り続けてほしいです。

大和コンクリートは60年で老朽化します。しかし松ヶ岡に残る建物は150年、瓦や柱は400年と言われています。東日本大震災の時も、瓦一枚落ちませんでした。そうした価値を時代に合わせながら残していきたいと思っています。しかし、地方はデザインやクリエイティブな視点に弱い。またマーケットもありません。そのためにもトリエンナーレやビエンナーレのようにクリエイターが作品を発表できる機会や、お年寄りと子どもがゴザを引いてお弁当を食べながらおしゃべりするといった、多様な交流が生まれる場所があればと思います。

   ありがとうございました!それぞれの立場から、松ヶ岡の歴史や地域資源の魅力を発信されている皆さん。松ヶ岡が紡いできた歴史が今後、どのような新しい出会いや変化を遂げ、新しい歴史として残っていくか、これからも応援させていただきます。