空でつながろう

Interview Vol.40 地域の人にこそ伝えたい、
栃木市の歴史と文化。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第40弾の今回は、栃木県栃木市で、「パーラートチギ」の運営などを通して、地域の魅力を発信している大波龍郷(おおなみ たつさと)さんにお話を伺いました。

地域の人にこそ伝えたい、栃木市の歴史と文化。

山間部の畑で高校生や若者と一緒にホウキモロコシの収穫作業をされる大波さん(写真右)

高校時代から惹かれ続ける、栃木市の魅力。

Q.現在の活動について教えてください。

大波「合同会社山々と星々」では、パーラートチギというカフェを運営しています。また「NPO法人ハイジ」では、市民活動やボランティアを支援する市民活動センターの運営を、市からの委託を受けて行なっています。

「パーラートチギ」は飲食や物販、ワークショップなどを通して、地産地消を行なっている空間。市民活動センターは、市民の主体的な活動をサポートすることで地域の支え合いや社会活動を支援しています。経済と社会の両面から栃木市をより良い街にしたいという想いのもと、活動しています。

実は生まれは隣の小山市。ですが父親の仕事の関係で、大阪を経て高校時代に栃木に戻ってきました。当時感じていた栃木市の歴史ある町並みや生活文化に心惹かれて、大学は建築学科へ進学。建築を通して歴史や生活文化を学ぶゼミに入り、それらを現代のまちづくりにどう活かすかを研究していました。

江戸・東京との舟運によって街の商業が栄え、山車を曳く祭りが生まれたのが栃木市。そして街の周囲にある山や里の産物が、商業の発展を支えてきました。山・里・街と都市とのつながりから生まれた美しい地域文化を残していきたいという想いが、現在の活動に至りました。

地域の人にこそ伝えたい、栃木市の歴史と文化。

パーラートチギにて、樽職人を囲んで若い農業者や女性杜氏らと談笑

Q.栃木市や活動への想いをお聞かせください。

大波昔の町並みや山車のような文化を残す上で、資金はもちろん高齢化など「人」の面でも課題があります。その問題を解決する一つとして、地域の人に地域の魅力を知ってもらうことは重要。たとえば地元の食材を使った料理を提供したり、地域に根づいた生活道具を販売したり。実際に食べたり使ったりといったところを入口にして、地域の中から生まれるもので喜んだり、幸せを感じられる術(すべ)を増やしたいです。

お店では、地産の素材で作った鍋敷きや箒、木樽などの生活道具を販売しています。また完成品を販売するだけでなく、ワークショップをひらいています。

今の世の中は便利なもので、情報やサービスを「選ぶ」毎日です。その中で、作り手や土地への敬意や感謝という気持ちが薄れていますし、伝統工芸は高価という印象が強くなっているように思います。

そのためワークショップで直に素材に触れてもらい、自分の手で作ったものを愛用してもらうことで、素材を育む土地と職人さんの技術に親しんでほしいと思っています。たとえば味噌づくりでは、希望者に木樽をお貸ししています。すると木樽の扱い方がわかり、買い求めてくださる方が増えました。自分で手作りすることを楽しむ方が増えれば、資源の活用にもつながるとも感じています。

地域の人にこそ伝えたい、栃木市の歴史と文化。

過去に行われたワークショップ

Q.大波さんにとって、栃木市はどのような存在ですか?

大波小山市で生まれ、色々な街で暮らしましたが、栃木市はやっぱり心惹かれる場所。現在の活動に至るまでに多くの人にお世話になったので、その方たちに恩返しをする意味でも栃木市に住み続けたいし、できることをカタチにしたい。栃木市は街の魅力はもちろん、山や里、渡良瀬遊水地の湿地など豊かな環境と生態系があるので、これからもより深く知っていきたいし、伝えていきたいです。

Q.地方活性化について、大波さんの考えをお聞かせください。

大波お店には、栃木市外の方や、埼玉・東京などから足を運んでくださる方が多くいらっしゃいます。一方で、Instagramのフォロワーを見ると、市内の方はまだ2割ほど。今後はもっと市内や近隣の方の認知度を上げていかなければいけません。地域に住む一人ひとりが、共に生きることや、地域の中から生まれるもので喜んだり、幸せを分かち合えることが地域活性化だと考えています。

地域の人にこそ伝えたい、栃木市の歴史と文化。

木樽をつくり、味噌をつくる栃木農業高校の授業風景

普段の暮らしに溶け込む、栃木の文化。

Q.大波さんにとってのEVOLUTION x LOVEを教えてください。

大波根っこの部分はそのままですが、取り組むべきことや考え方は毎年変わっています。たとえば栃木市で活動を始めた当初は、街に増えてきた空き家を活用することを考えていたので、僕も街に住んでいました。しかし最近では、栃木市の山間部に拠点を移し、畑で作物を育てたり、高齢化によって収穫できない果物を収穫したりといったことに時間をあてたいと思うようになりました。山や里から生まれる資源や産物を街におろして届けていきたいという意識の変化です。

お店でも、干し柿を吊るしていたらお客様から「素敵ですね」と声を掛けられます。また干し柿に使っている縄を自分たちの手で綯(な)い、地域の方に育ててもらった稲藁を使っていると伝えると「これならビニール紐を買わなくていいから、環境に優しいですね」と言ってもらえたり。環境に配慮した世の中だからこそ、昔ながらの生活や地域資源に目を向けてもらう機会が増えているように感じます。

実は栃木市は、2015年と2019年に大雨による浸水や災害を経験した地域。気候変動の中で災害が増えているにも関わらず、高齢化によって山の手入れをする人が減っています。山の手入れをする人がいないと、結果的に山の保水性といった役割が希薄になり、水害が増えてしまう。そうした意味でも、地域の人にこそ、地域の魅力や課題に目を向けてもらいたい。だからまずは自分が山間部に拠点を移そうと思うようになったのが、僕にとってのEVOLUTION x LOVEです。

Q.今後のビジョンはありますか?

大波供給できる量に限りがあるので、闇雲に量を増やすことは難しいと思います。とはいえこの地域に縁がある方や、気に入ってくださる方とはつながり続けたいですね。たとえば、東京の方に、地元の野菜や加工品を送れるような関係性を築けたら嬉しいです。

また活動を通して職人さんと会うことも多く、彼らの活動を発信していきたいです。たとえば箒職人はいるけれど、外国産の箒や掃除機の普及によって原料の草を生産する人がいなくなってしまったり、気候変動で質や価格が変わってしまったという話を聞きます。そうした伝統産業を復活させるため、原料となる草を地域の中で栽培する体制を作る大切さを感じています。

職人の高齢化と技術伝承が急務である一方で、若い人の中には、より自然で地域性のあるものを求める方が増えているのは希望です。人との出会いや活動を通して、改めて自分自身が山間部に拠点を構え、自然に触れてもらえるコンテンツを提供したいですね。

Q.現状、活動で足りていないことや困っていることはありますか?

大波栃木市は人口16万人で、その中で高校生は6000人。8つの高校と1つの特別支援学校があります。彼らとの話を通して、高校生の次のキャリアを作るための地域資源が、今の栃木市には足りないと感じています。高校卒業後の進路や、県外に出たあとの活動機会を提供したり、若者の受け皿を増やすためにも、若者と地域の人とのつながりがあればいいですね。

Q.最近の若者について感じることはありますか?

大波高校生や中学生と話した時に、やさしい子が多いと感じました。学校でSDGsを学んでいることもあり、環境や社会に対しての意識や感性も素敵だと思います。その上で、情報やサービスで溢れる世の中で、「何を選ぶか」に意識を奪われているようにも思います。もちろん選ぶことも大切ですが、同じくらい、自分で何かを生み出す経験も重ねてほしい。一人ひとりがその地域の主体で、つくり手であると伝えたいです。

   大波さんありがとうございます。地域の魅力や資源を生活の中に取り入れ、地元を近くに感じてもらいたいという大波さん。今後は山間部に居を移したいということで、新しい拠点を構えた大波さんが、どのように地域の魅力と地域住民とをつなぐか、これからも応援させていただきます。