空でつながろう

Interview Vol.46 結城で「結ぶ」、
地域と若者。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第46弾の今回は、茨城県結城市で「結いプロジェクト」などを通して町の新陳代謝を促進している飯野勝智さんにお話を伺いました。

結城で「結ぶ」、地域と若者。

イベント時の皆様と飯野さん(写真前列左から3番目)

生まれ育った町と人を、
もう一度結びたい。

現在の活動について教えてください。

飯野活動がスタートしたのは2010年。「結いプロジェクト」という、結城市内でマルシェやイベントを行なう活動を始めました。主なイベントは「結い市」で、最初は30組ほどが出店する小さなマルシェを市内の神社で開催していました。活動を続けるごとに少しずつ規模が大きくなり、最終的には旧市街である街全体を使ったイベントとして、2日間、100組ほどの出展者という規模になりました。出展者も飲食店だけでなく、アーティストやクラフト作家など、バリエーションに富んでいました。

結城市は結城紬や醸造業が盛んな町。ですからイベントでは市内に残る酒蔵・町家・味噌蔵などの古い建物を出展者に活用してもらったり、古い町並みを見て回れるような仕掛けを作りました。そうした試行錯誤を重ねながら、「結い市」などのイベントは10年目を迎えています。

結城市で活動されるに至ったキッカケを教えてください。

飯野僕は結城市出身で、実家は市内で左官屋をしていました。幼い頃から古い建物に携わってきたこともあり、大学では建築を専攻しました。

卒業後は引き続き結城市で暮らしながら設計事務所で働いていましたが、ある日、「仕事」ではなく「個人」として、生まれ育った町との関わりが少ないと気づきました。当時は忙しくて、市内の自宅へは寝に帰るだけ。そうしている間に、小さい頃に遊んでいた場所や本屋、ゲームセンターや商店街がなくなっていることに気づき、愕然としました。

そこで結城市の名前に入っている「結ぶ」という文字になぞらえ、「地域で新しいコミュニティや関係性を構築したい」という想いを込めて「結いプロジェクト」を始めたのが原点です。

結城で「結ぶ」、地域と若者。

マップを手にスタンプラリーを楽しむ子供たち

活動を通して、町の人との関わりは変化しましたか?

飯野そうですね。最初はイベントを通して市内の空き家が解消されればと思っていましたが、「イベントには貸せるけど、テナントとして貸し出すことはできない」とおっしゃる家主さんが多かったのは、想定外のハードルでした。しかし10年かけて関係性を築くことで、家主さんや行政、商工会議所のメンバーなどと協力しながら地域課題を解決する関係性ができました。家主の方が場所を貸してくれたり、僕たちが活動しやすい施策を行政の人が考えてくれたり、やりたいことを実現しやすくなりました。

たとえばコワーキングスペース「Coworking & Café yuinowa」は、当初、イベント以外では貸せないと言われていました。しかしイベントで関わったり、僕自身も建築士として雨漏りや建物の相談に乗ったりしたことで関係性が生まれ、場所を貸してくれることになりました。自分たちにとって「当たり前」「古い」と思っていた建物が生まれ変わり、新しく来た人に好きになってもらうことで、今まで住んでいた人たちも「自分の生まれ育った場所がみんなのために使われていて、感動した」と喜んでくれる。さらには「この場所も活用できるんじゃないか」と僕たちの活動に協力してくれる。そんな関係性を、10年以上かけて重ねてきたと感じています。

今後、こんな活動をしたいといったビジョンはありますか?

飯野結城市を新しい可能性を感じられる町にしたいです。たとえば去年、一棟貸しの宿「TEN」をオープンさせ、様々なイベントを開催しています。またyuinowaのチャレンジキッチンは結城市内で出店したい人がお試し営業で町に馴染みつつ、物件が出たら誘致することで、新しい人と地域の人とをつなぐ役割を果たしています。

結城市は結城紬や醸造業で栄えた、歴史と文化のある町。もちろん古いものは残しつつ、若い人が新しいチャレンジをする受け皿になりたいと思っています。新しい人には結城市の文化や良さを理解してもらい、地域には循環を促す。そんな活動を続けていきたいです。

大切なのは、住んでいて楽しい町であること。もちろん宿や観光といった楽しさも大切ですが、住んでいる人がふらっと立ち寄れる本屋さん、飲食店、居酒屋など、日常を楽しめる空間を増やしていきたいです。

結城で「結ぶ」、地域と若者。

歴史的な見世蔵を活用したイベントの様子

飯野さんにとっての地域活性化を教えてください。

飯野地域の人と足並みを揃えながら、新しいチャレンジができる場所であることでしょうか。結城市もほかの地方に漏れず、高齢化が進んでいます。地元に残る若者もいますが、やっぱり家業を継ぐために残っているくらい。東京に近いため、都内に進学してそのまま就職するのが当たり前になっています。そのため商店町の店に聞いても、自分の代で終わりにするという人ばかり。それなら結城の町が好きで、結城で何かしたい人が入ってくることで、町全体の跡継ぎを増やしたいと思っています。結城は歴史ある商人の町なので、自分たちの歴史に誇りを持つ方が多いです。そうした土地への理解を新しい人に促しつつ新しいことにチャレンジできる土壌を作ることで、町の循環を促したいです。

若者にバトンを繋げられる、
仕組みづくりと環境づくり。

飯野さんにとっての”EVOLUTION x LOVE”とはなんでしょうか。

飯野「人が来る」ことについての意識が変わりました。最初はイベントが盛り上がれば結城が注目されてお店が増えるとシンプルに考えていました。しかし実際は、高齢化や建物の保存、信頼関係の構築など、町の根本的な課題を突きつけられました。そうした課題を一つひとつ解決した先に、町の活性化があると気付かされました。

そしてもう一つ、自分の建築家としてのスタンスも変化しました。正直、建築家としては、雑誌に載るような仕事のやりがいは大きいですよね。しかし活動を通して、自分のスキルを地元に還元できる喜びを感じるようになりました。見栄えも大切ですが、その人が結城で実現したいことをサポートできるデザインです。ですから今の僕の職業は、町医者スタイルの建築家。僕のところに来た人の悩みを一つひとつ解決するために自分のスキルを活かしたいですね。

結城で「結ぶ」、地域と若者。

活動10周年イベントでの集合写真

今後10年後、20年後のビジョンはありますか?

飯野若い世代とこの町をつなげたいです。今回「TEN」の女将さんとして、地元出身の20代の女性が仲間に入ってくれました。彼女は「この町が好きだから、この町を残せるようなことをしたい」と言ってくれて。

若い人が結城に可能性を感じなければ、誰も残ってくれませんよね。だから自分の経験を通して、若い子が結城で成功体験が積めるよう応援する立場になりたいです。今の立場になって考えると、僕が若い時に活動していた時、きっと裏で色々な大人が動いて守ってくれていたと思います。もちろん若い人と感性との違いを感じることもありますが、これからは自分が若い人の活動を応援する立場になるフェーズに入っていると実感します。

現状の活動で足りていないことや困っていることはありますか。

飯野継続して地域とつながれる場でしょうか。この前、宿のスタッフが自分でイベントを立ち上げた時、同年代の20代の子がたくさん応援に来てくれたことに驚きました。それまでは町の世代交代をすることに難しさを感じていましたが、継続的に新しいチャレンジができる場をつくれば、世代交代は難しくないはず。しかし結城には大学など、若者が居続ける場がありません。県内の大学のゼミとの連携もありますが、やはり長期的なつながりを持ち続けることは難しい。やっぱり大学など、地域と若者がつながり続ける場の必要性を感じています。

最近の若者に対して感じることはありますか。

飯野若いスタッフのつながりで、周りの若者もイベントや結城に興味を持ってくれるようになったと思っています。

その上で大人が、若者が結城にいたくなる仕組みを整える必要があると思います。結城に居続けることを「仕方なく」ではなく、「結城なら面白いことができそう」と捉えてほしい。そのためには教育はもちろん、働く場所や子育て環境、チャレンジしやすい雰囲気を作ることで、若者に選択肢を増やしてあげたいです。地域内で関わる人が増えれば、地域に愛着を持って「ここにいたい」と思える。そんな未来を、若者と一緒に作っていきます。

   飯野さん、ありがとうございました。地域への意識の変化や世代交代への想いなどが、今後、結城の若者とどうつながっていくのか、今後も応援させていただきます。