空でつながろう

Interview Vol.47 焼津の魚とサウナで、
「命が整う」体験を。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第47弾の今回は、静岡県焼津市で、本来捨てられる魚の骨を美味しく加工した「さかなボーン」の製造や、サウナ事業を手掛ける鈴木恒孝(すずき つねたか)さんにお話を伺いました。

焼津の魚とサウナで、「命が整う」体験を。


鈴木さんとみなさん(写真左)

亡き息子の言葉から生まれた、
「さかなボーン」。

現在の活動について教えてください。

鈴木今は「さかなボーン」という、地元のスモーク技術を使った魚の骨の加工食品を作っています。自社製品もありますが、今は全国から寄せられる水産加工会社さんの依頼を受けて、「さかなボーン」を作ることが多いです。

静岡県の下田でキンメダイを加工している会社や、山形で鯉の養殖をしている会社、鰻やチョウザメなど、種類は様々。以前展示会に出店した時には、ノルウェーで国単位でサーモンを加工している大手企業からも声をかけられました。全国の同業者から「魚を骨まで大切にしたい」と依頼を受けるのは嬉しいですね。

そして最近では、焼津を魚と温泉の町にするため、行政や信用金庫と一緒にプロジェクトを進めています。その一環として、サウナなど温浴事業の開業に向けて動いていますね。

「さかなボーン」が生まれるキッカケを教えてください。

鈴木キッカケは、小学校1年生の時に病気で亡くなった長男の言葉でした。彼は亡くなる前、「お父さん、魚の命を大切にしてね」という言葉を残してくれました。

魚の本当に美味しい部分は、実は骨の周り。骨自体もカルシウムやコラーゲンが豊富で、栄養満点。しかし加工会社が下ろした骨まで活用するのは、手間もかかるしノウハウもない。使い道も、出汁を取るくらいしか浸透していません。

「骨は捨てるのが当たり前」という考えだった僕が息子の言葉を胸に抱きながら仕事をしていたある日、長時間の立ち仕事で腰を下ろした時、ちょうど骨を捨てるアラ箱が目に入りました。その時、なぜかそのアラ箱が光って見えて…。「この骨まで加工して食べるのが、魚の命を大切にすることかもしれない」と思い、鰻の骨をスナックに加工している会社に声をかけてみました。鰻の骨とは別の機械でいぶしてみたら大成功。結果的に、焼津の鰹節の伝統技法である「手火山式(てびやましき)」という焙乾(ばいかん)技術を使い、「さかなボーン」が生まれました。「さかなボーン」が生まれるまで、嘘のような本当の話で、完成品はわずか3日で出来上がりました。息子の言葉に導かれて始めたことが、焼津の伝統技法を継承し、焼津のお土産品の一つとして地域活性化に貢献する、という嬉しい繋がりになりました。

焼津の魚とサウナで、「命が整う」体験を。

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温浴事業など、地域に根ざした事業についても教えてください。

鈴木コロナが流行した年くらいに、サウナにハマり始めました。「整う」感覚が心地よくて、北海道でサウナを運営している友人のところにも訪問し、話を聞いて、サウナ開業へのイメージを膨らませていました。

ちょうどその頃、焼津の温泉をもっと観光に活用したいという地域の担当者から声がかかり、「焼津ポーターズ」というプロジェクトに参加することになりました。ここは、漁具を入れていた60年ほど前の大型倉庫をリノベーションして、コワーキングスペースやフードコートを入れた複合施設。「さかなボーン」の販促のため、一緒に東京に行った担当者を筆頭に、焼津市や観光協会の仲間たちで、事業を進めています。

鈴木さんの活動の原動力はなんでしょうか。

鈴木やっぱり14年前に亡くなった息子ですね。小学1年生の息子が病気で亡くなった時、1,000人もの人がお悔やみに来てくれたんです。まだ幼くて、いわゆる社会的な功績がない子どもでも、こんなにたくさんの人が来てくれたと胸がいっぱいになりました。さらに息子のことがメディアに取り上げられたりマンガになったり。人の価値は命の長さではなくどう生きたか、なのだと、生き様を見せられた感覚がありました。

ですから僕も一生を終えた時、家業の大小以上に、息子から「お父さん頑張ったね」と言われる生き方をしたいと思って、活動に取り組んでいます。

焼津の魚とサウナで、「命が整う」体験を。

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焼津に対しての想いをお聞かせください。

鈴木焼津は人懐こくて温かい人ばかり。漁師町だから言葉遣いは乱暴だけど、懐に入ると、みんなが受け入れてくれる。僕は高校は静岡県の三島市、大学は関西にいましたが、外に出ると改めて、焼津の良さと課題を実感します。風光明媚で魚が美味しく、人もいい。でも発信力・PRが弱いと感じています。それをひっくるめて、大好きな町です。

鈴木さんにとっての地域活性化を教えてください。

鈴木地域の人が、生き生きと楽しく、日々活動しているか…でしょうか。そして地域の魅力を体験しに来てもらうという姿勢が、地域活性化につながると思っています。魅力を「売り」に行くと、どうしても弱くなってしまう。そこにある自然や魚といった地域資源を体験しに来てもらい、本場で消費してもらうというスタンスでいたいですね。

東京に行くと、新しいランドマークには必ず緑がちりばめられています。都会の人にとって、緑は遠い存在。また最近では、モノ以上に体験への消費に価値を置く人が増えています。色々なモノが溢れて裕福な時代になっていますが、だからこそ、体験で得られる価値を、地方から提供したい。今後は手火山式体験や自然に触れるツアーなども企画することで、地域を盛り上げていきたいです。

食べて・命の洗濯をして、
いただける「ありがとう」を楽しみに。

鈴木さんにとっての”EVOLUTION x LOVE”を教えてください。

鈴木やっぱり一番近い人を大切にすること、家族への愛を改めて感じます。たとえば自分が楽しいと思っていることを、まずは家族にも好きになってもらえるよう、仕事に取り組んでいます。実際、去年社会人になった娘が、僕たちの仕事に興味を持って、飲食業の仕事を始めました。またサウナ事業の舵取りも、僕の活動を見た友人が「面白そう」と仲間に入ってくれました。自分が楽しそうに仕事をして、しっかり家族を愛する。そうすることで、家族や友人が協力してくれる。僕にとって一番大切なのが家族で、会社や地域はその次。親の背中を見て、子どもが親の仕事に興味を持ってくれることが、地域への連鎖につながっていくと考えるようになりました。

そしてもう一つ、ここ数年で「ありがとうの距離」への意識が変わりました。魚屋というのは、販売してからお客様の口に入るまで、タイムラグがあります。しかしコロナをキッカケに飲食事業に力を入れた時、その場で「美味しいね」「ありがとう」とすぐ反応をいただける嬉しさを実感しました。

そんな新鮮な嬉しさを感じていた時に、温浴事業のスペシャリストの方と話す機会がありました。温浴事業の魅力を伺った時、「一日の疲れや汚れを落として、スッキリしてもらうのが温浴。そのお手伝いができるのは最高」という言葉に大きな感銘を受けました。焼津で美味しい魚を食べて、サウナで日頃の疲れを癒やし、まさに命の洗濯をしたお客様からいただける「ありがとう」はどれほど嬉しいのか、今から楽しみです。

最近の若者に対して感じることはありますか?

鈴木僕たちの若い頃はもっと幼稚だったので、今の若者はスキルも高くて磨かれていると感じます。一方で素の自分と会社にいる自分が違う、二面性を持つ人が多いとも感じています。仕事とプライベートの切り分けは大切ですが、2つの顔を両立させるのは、ちょっと疲れるのではないでしょうか。仕事と趣味を大きく切り離していない人は、やっぱり何をしていても楽しそうだし、生き方もラク。双方の自分を切り分けすぎず、ラクに生きていける方法を探していけたらいいですよね。そのためにも焼津で美味しい魚を食べてサウナでリフレッシュして肩の力を抜いてもらえたら嬉しいです。

   鈴木さん、ありがとうございました。息子さんの言葉から「さかなボーン」を生み出されたエピソードは、まさに天啓。「さかなボーン」とサウナを通して焼津がさらに、来た人を癒やすリトリートの地になれるよう、今後も応援させていただきます。