空でつながろう

Interview Vol.50 滋賀から全国へ。
柔らかい心で作る、持続可能な地域経済。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第50弾の今回は、滋賀県で高い知名度を誇る「野洲のおっさん」の活動を行なっている西川興(にしかわこう)さんにお話を伺いました。

滋賀から全国へ。柔らかい心で作る、持続可能な地域経済。


西川興さん

地元愛を生み出す、
「プッ」と笑える仕掛けづくり。

現在の活動について教えてください。

西川僕は「株式会社まちおこし」という会社で、滋賀県をSDGsの里にすることを目指して活動しています。具体的には滋賀の代名詞である琵琶湖を通して、県民のみなさんが滋賀を好きになってもらいたい。そのため、水という重要な地域資源と県民とのつながりをSDGsの柱にしていこうと考えています。

たとえば滋賀県民に一番知っていただいているのは、「野洲のおっさん」というキャラクターでの活動ですね。バーコードヘアをしたカイツブリのおじさんのキャラクターが、琵琶湖をゴミ拾いしながら一周しています。

ほかには地産地消のおにぎり食堂をはじめ、子ども食堂や無料の学習塾の運営のほか、県民から「滋賀あるある」を募って歌を作ったり、一連の活動をメディアと組んで発信したりしています。

滋賀から全国へ。柔らかい心で作る、持続可能な地域経済。


子供塾の様子

活動への想いをお聞かせください。

西川「野洲のおっさんびわ湖一周ゴミ拾い行脚」は多くの地元企業にスポンサーになっていただき、現在14周目。いつしか子供からお年寄りまでみんなが集まって、一緒にゴミを拾ってくれます。今や認知度は、県内で90%以上。最近ではなぜか安産祈願として「野洲のおっさん」にお腹をなでてもらうことが、滋賀県民のブームになりつつあります。こうした活動を通して、県民みんなが自然にゴミを拾うようになったり、琵琶湖や滋賀への郷土愛を持ってもらうことを目指しています。

そして「滋賀をSDGsの里にする」という目標については、5年前からトヨタモビリティ滋賀さんと協業で「野洲のおっさんおにぎり食堂」を展開しています。これは「SDGs店舗」として、全国に展開させたいビジネスモデル。土地や建物といった初期投資を企業に担っていただき、その後の運営は我々が担うというものです。おかげさまで我々は、月々の固定費をかけずに店舗を運営できます。

その利益は、主に3つに振り分けています。1つ目は地産地消にこだわった原価率の高い商品、2つ目は地域課題を解決する店舗、3つ目は子ども食堂・無料学習塾の運営です。特に子ども食堂は「行列のできるこども食堂」を目指し、五平餅は予約が入るくらい人気。さらに学習塾も個人の課題に合わせた最新型のパソコン学習システムを導入しています。

ほかにも人件費を地域の相場より高く設定して従業員満足度を上げたり、地元の商店街の賑わいづくりに貢献したり。協業企業・地域・当社みんなにメリットがある「三方よし」のビジネスモデルを、全国に展開していきたいです。

滋賀から全国へ。柔らかい心で作る、持続可能な地域経済。


野洲のおっさんおにぎり食堂スタッフの皆様

活動で大切にしている考え方などはありますか。

西川僕は出身が滋賀県。就職は大阪でしたが、結婚を機に滋賀に戻って「株式会社まちおこし」を始めました。会社として大切にしている理念は、「世界を柔らかくする」というもの。ゴミ拾いにしても、「おっさんのカイツブリ(水鳥で滋賀県の県鳥)」がゴミ拾いをしたら面白いじゃないですか。

僕の事業はブランドマネジメント。企業に対してブランディングをする上でも、その企業が「柔らかく」なってもらうことを大切にしています。商品を売るのも人材を集めるのも社内コミュニケーションも、「プッ」と笑えると肩の力が抜けますよね。そんな柔らかいコミュニケーションを作り出すことを目指して、活動しています。

地方活性化をどのように考えていらっしゃいますか。

西川最近ではインバウンドが増えてきたこともあり、外貨を稼ぐことが地域活性化と言われることも多いと思います。しかし僕としては、足るを知ることが大切だと思っています。自分の地域に何があるかを知り、その資源を通して、県民が自分の地域に誇りを持てる仕組みを作ることが、地域活性化ではないでしょうか。

その一つとして、「淡海人(あみんちゅ)」という言葉を作りました。これは沖縄の「海人(うみんちゅ)」をもじった言葉。「淡海人として、7月1日の琵琶湖の日には、みんなで掃除をするよね」といった、地元に誇りを持てるキーワードになればと思っています。

滋賀から全国へ。柔らかい心で作る、持続可能な地域経済。


カイツブリのおじさんのキャラクター「野洲のおっさん」びわ湖一周行脚

全国各地に、地産地消の経済圏を。

西川さんにとっての”EVOLUTION x LOVE”を教えてください。

西川SDGs店舗などの仕組みを、ほかの地域にも広げていきたいと思うようになりました。県民性や地域資源はそれぞれですが、地域の中で持続可能な経済圏を作る仕組みは共有できると感じています。

先ほどご紹介した「野洲のおっさんおにぎり食堂」がまさにそう。地元企業のスポンサーのもと、お店というメディア・コミュニティを生み出す。そこで地域の人が働いて、食べて、集まって、地産地消して、経済圏を作っていくことで、地域課題を解決できると考えています。

特に今はおにぎりブームで、各地のレアなおにぎりを求めて足を運ぶ人が増えています。実際、僕の店も県外のお客様が半数以上。そうしたつながりを他の地域とも一緒に作り出したいし、持続可能な経済圏を各地で展開できるようにお手伝いしたい。そう思うようになったのが、僕にとっての”EVOLUTION x LOVE”ですね。

現在の活動で足りないものはありますか?

西川正直、地域でクリエイティブを展開することの限界は感じます。やはり県内でどれだけ良いことをしても、全国に注目されなければブレイクスルーできない面があります。滋賀発信のコンテンツが全国で注目を集めることができたらスポンサーもつきやすくなるし、活動の幅も広がるはず。ですから今後は、各地方で頑張っているクリエイターと連携してSNSでコンテンツを作るなど、点と点がつながりあって、面白いものを発信していけたらと思っています。

最近の若者に対して感じることはありますか?

西川最近の若者は、発想や文化が成熟しているし才能もあるし、希望と信頼しかありません。だから世の中の僕ら世代の言うことは、あまり気にしなくていいと思いますよ。

特に最近は海外に出て活躍しろという風潮ですが、「自分も行かないと」と焦る必要はありません。やはり「足るを知る」というのは大切なことで、ちゃんと地元に目を向ければ、面白いものはたくさんある。その小さな資源を輝かせたり磨くことで、地域の人に喜んでもらえるチャンスはいっぱいあります。「日本終わった」とケチをつけることは、誰にでもできる。僕の会社では「やわらか・にっこり・へんてこりん」というスタイルを大切にしています。どうか柔らかい感性を大切に、今の日本を思いっきりいじってほしいなと期待しています。

   西川さん、ありがとうございました!今の世の中に必要なのは「柔らかさ」という言葉にハッとした、今回のインタビュー。「野洲のおっさん」をはじめ、地域独自の経済圏を作るという取り組みが全国に広がるよう、今後も応援させていただきます。