空でつながろう

Interview Vol.51 化石発掘で見出す、
天草市御所浦島の新たな地域産業。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第51弾の今回の舞台は、熊本県天草市に属する離島「御所浦」。化石を通して観光産業を立ち上げる活動を行なっている鍬崎 智広(くわさき ともひろ)さんにお話を伺いました。

化石発掘で見出す、天草市御所浦島の新たな地域産業。


東京での御所浦イベント時に皆さんと鍬崎さん(写真左上)

化石発掘の楽しさと、
凪いだ海の心地よさを、島外へ。

現在の活動について教えてください。

鍬崎地域おこし協力隊として、御所浦の観光産業の立ち上げや空き家問題解決を担っています。ほかにも市や県の会議に参加して島の声を届けたり、地域のまちづくり団体として若手同士の交流を担ったり。横浦島という離島でのキャンプイベントを企画運営など、地域に関わる様々な活動をしています。

御所浦は2006年に他2市7町と合併し天草市になった、熊本県でも珍しい有人離島。漁業や柑橘栽培といった一次産業の町でしたが、1997年に恐竜の化石が見つかり、観光産業に目を向け始めた地域でもあります。

その一つとして、まさに2024年3月20日、「御所浦恐竜の島博物館」がリニューアルオープンしました。化石と言えば福井県ですが、御所浦は、子どもでも見つけやすい化石が特徴。砂岩の中に二枚貝や巻貝、アンモナイトといったビジュアルがイメージしやすい化石がたくさん埋まっていて、慣れれば10秒で見つかると言われるほど。観光地として高いポテンシャルを秘めています。そんな新たな観光資源を産業にするため、同じタイミングで移住してきた学芸員の仲間と一緒に、「株式会社 白亜紀」も設立しました。株式会社白亜紀では、この地域を化石を見るだけでなく体験できる島としてPRしていこうと思っています。

化石発掘で見出す、天草市御所浦島の新たな地域産業。


化石採取

御所浦で活動することになったキッカケを教えてください。

鍬崎僕の地元は熊本県菊池市。そんな僕がここに来たキッカケは、御所浦での地域おこし協力隊の広告を見たからです。僕は建築系の専門学校を卒業後、建築設計事務所で働いていました。独立に必要な資格と実務経験を積み、いざ独立開業しようとしていた時期にその広告を見て、あくまで副業として興味を持ったのです。

偶然にも僕が通っていた通信制の高校の本校舎が御所浦にあり、知っている先生がいたのも、移住の後押しとなりましたね。

活動をする上で大切にしていることはありますか?

鍬崎御所浦の良さを、内外の人に知ってもらいたい気持ちが強いです。御所浦の人口は2,300名ほどですが、毎年100名ほど人口が減っているのが現状。高齢者も多いし、進学と同時に島を出て戻ってこない人がほとんどです。僕は御所浦に来て初めて、その魅力を知りました。ここが好きでこれからも御所浦にいたいから、地元の若者に「御所浦でもちゃんと仕事をして生活していける」と伝えられるよう、頑張っています。

そのためにできることは、まずは僕たちが楽しむこと。今は僕を含め、学芸員の友人と専門学校時代の友人、3人の移住者がいます。同い年の男性3人が楽しそうに過ごしていたらその3人が4人、5人…と増えていくことをイメージしながら活動しています。

鍬崎さんにとって、地方活性化とは何でしょうか。

鍬崎みんな難しいこと言いますが本質はもっとシンプルで、そこに住む人々が楽しいと思える環境づくりです。おそらく多くの地域の一番の課題は、少子高齢化に伴う人口減少。しかし現実問題、過疎地域が人口を増やすことは難しいと感じています。まずは難しく考えすぎず、そこに住む人がどれだけ楽しんでいるか、地域の人同士のつながりや関係交流人口をいかに作っているかというシンプルな点に尽きると思っています。

たとえば御所浦の島民は難しく考えるよりも、心のままにストレートに物事を表現する方が得意です。また、島民の半数が65歳以上という現状に対して諦めている人も多いですが、地域の若者と飲みながら話してみると、面白い人がたくさんいます。そんな島民性やキーパーソンを足がかりに島の魅力を発信していければ、地域が活性化すると感じています。移住者だからこそ、島の面白さを外に伝える翻訳者になりたいですね。

化石発掘で見出す、天草市御所浦島の新たな地域産業。


同い年コンビ(専門学校の友人も移住)

「あなたがいてくれるだけで助かる」という価値。

鍬崎さんにとっての”EVOLUTION x LOVE”とは何でしょうか。

鍬崎僕自身としては、御所浦が自己実現の場になりました。当初、本業は建築で、まちおこしの活動は副業でした。しかしイベントのチラシを作ったり、空き家を宿にする改修計画を作ったり、その宿のロゴをデザインしたり、化石のトレーディングカードのようなグッズを作ったり。オールマイティーに島に関わることで、必要とされている手応えや責任感を感じています。島の外にいたら設計の仕事しかしていなかったけれど、御所浦に来て、僕が本来目指していた「設計に限らない、様々なクリエイティブ」を実現できました。僕自身も自己実現できて、そのマルチなスキルを頼りにしてくれる島民の気持ちに応えたい。それが僕にとっての”EVOLUTION x LOVE”ではないかと思います。

また、その手応えは僕以外も感じているようで、最近、毎月のように島に来てくれる美大の学生がいます。その学生たちが「ここは若いというだけで、必要としてくれる人がいる。優秀な人でもあっという間に淘汰される東京ではありえない」と話してくれたことがずっと心に残っています。スキル一辺倒ではない「いてくれるだけで助かる」心地よさを伝えていくことで、若者や島外の方と御所浦をつなげたいですね。新しい博物館もオープンしますし、島外の人や文化に触れるキッカケが増えことで島民もきっと、御所浦の今は見えてない魅力に気づくことに期待しています。

10年後、20年後のビジョンはありますか?

鍬崎僕のように御所浦に定住してくれる若者が増えたらと思います。僕はあと1年、地域おこし協力隊の活動ができます。その後は経済的にも自立できるような仕組みを作っていかなくてはいけません。その一つとして考えているのが、二拠点生活。御所浦に定住してくれる若者に活動の軸を任せる(実際に移住者であり同い年の学芸員と専門学校の友人の2名が同じ意思をもって御所浦にいてくれている)ことで、僕は外部との橋渡し役になれるし、建築士として外との循環も実現できる。同じ方向に向かって進んでくれる人を増やす取り組みを続けていきたいです。

化石発掘で見出す、天草市御所浦島の新たな地域産業。


天草若者イベント

現在の活動に足りないものはありますか?

鍬崎やはり人材は不足しています。今、色々な依頼をいただいてありがたい反面、パンクしている状況でもあります。とはいえ日本全国が人材不足なので、離島で求人を出しても厳しいのは分かっています。さらにここでの仕事は、夏休みのガイドや収穫期の手伝いなど、あくまでスポット的に人がほしい場合がほとんど。通年で雇用を生み出す難しさがあるのが正直なところです。だからこそ「人と人」として島の魅力を伝えて、ここに住んで活動することの面白さを伝えていかないと、人は増えない。求人広告ではなく、心から口説いていく重要性を痛感しています。

最近の若者に対して感じることはありますか?

鍬崎この島には20〜30代の若者は少ないです。そのため同世代と関わる機会が足りないのが、大きな課題だと思っています。実際、離島を含めた天草市の若者を集めるイベントを開催したら、思った以上に喜んでもらえました。それくらい、市内で若者同士のつながりが求められていると感じています。

彼らと話していて感じるのは、何がしたいか分からないという方が多いこと。僕は今、自由に活動させてもらっていますが、実はほかにも、天草のために頑張ろうと活動する若者がたくさんいるんです。彼らをつなぐことで、この地域に希望を生み出せると思っています。

それを踏まえて伝えたいことは、もっとシンプルに生きてもいいということ。今の若い人は頭が良いから、色々考えてしまいがち。それも大切ですが、一旦、考えるよりも楽しく暮らすことに重きをおくことで、結果的に良い方向につながると思っています。実際、ロジックに縛られて息苦しさを感じている方も多いはず。まずはシンプルに生きることで、その息苦しさから抜け出してほしい。だからまずは、この凪いだ海を見ながら釣りや化石採集しに来てほしいですね。

   鍬崎さん、ありがとうございました!湖のように凪いだ海はまさに「ゆりかごの海」という言葉が印象的でした。化石を通した新しい観光資源を通して、御所浦がどのような地域の循環を作り上げていくのか、今後も応援させていただきます。