空でつながろう

Interview Vol.53 アジフライの聖地、よさこい、
地域資源とコンテンツで盛り上げる松浦の街

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第53弾の今回は、長崎県松浦市で、市職員をとして勤めながらよさこいのイベントや活動を行なっている山口哲広(やまぐち てつひろ)さんにお話を伺いました。

アジフライの聖地、よさこい、地域資源とコンテンツで盛り上げる松浦の街


よさこいイベントにてメンバーの皆さんと山口さん(写真右)

育ててくれた大人たちへの恩返しと
先人たちの声を代弁する役割と継承

現在の活動について教えてください。

山口仕事としては松浦市の文化財課で、郷土の歴史を地元の人や子どもたちに伝える講座を企画したり、郷土愛を育めるような取り組みをしています。プライベートでは1999年から、よさこいに取り組んでいます。松浦市の文化協会に所属していて、日舞やフラダンスなどのコミュニティと一緒に活動したり、幼稚園や小学校で出前講座をしたり。あとは九州をはじめ国内、過去には海外への遠征も行なっています。実は隣に位置する佐世保市は、九州の中でもよさこいが盛んな地域。大規模なイベントが開催されているものの、なかなか現地に足を運べない子どもや高齢者向けに、2009年から地域でよさこいイベントも開催しています。

よさこいを始めたキッカケは、地域の人の活動を見たことから。国内はもちろん海外の祭で出会った人たちに刺激を受け、「よさこいを通して、人の役に立ちたい」と思い、ライフワークとなりました。彼らとは今でもSNSでやりとりしたりイベントに参加し合ったり、つながりが続いています。

アジフライの聖地、よさこい、地域資源とコンテンツで盛り上げる松浦の街


よさこいイベント参加者で記念撮影

山口さんにとって、松浦市はどのような存在ですか?

山口出身地ということもあり、松浦市は自分のアイデンティティを形成した場所。ですから、子どもの頃から育ててもらった人・地域への恩返しという意味合いが強いですね。僕が子どもの頃は、人様の庭の池で勝手に遊んだり、農家さんの牛小屋に忍び込んだり、今では怒られてしまうような遊びばかりしていました。しかし地域の人は、みんな優しくおおらかに受け入れてくれて…。もちろんすでに亡くなっている方も多いですが、「あの時お世話になった人に喜んでもらえることがしたい」というのが行動の根っこになっていますね。

山口さんにとっての地域活性を教えてください。

山口人口が減っていくからこそ、捉え方を変えることが大切だと思っています。人口減少はネガティブに捉えがちですが、逆に、自分たちが気づいていない魅力を見つけるチャンスだと思っています。たとえば自分の親や祖父母の時代の農作物や文化などは、やっぱりその土地や風土に合ったものになっています。全国で同じようなものを手に入れられる時代だからこそ、その土地独自のものを見直すことで、伸びしろを見いだせると感じています。

また行政としては、2021年から市内全域で光回線が開通可能になりました。地域のインフラ格差を是正するなど、できることを増やしていくことで、地域活性化につなげていきたいです。

アジフライの聖地、よさこい、地域資源とコンテンツで盛り上げる松浦の街


文化協会にて参加者の皆様に説明する山口さん

具体的に地域を盛り上げている事例などはありますか。

山口実は松浦市は、アジの水揚げが日本一。そこで現在の市長が就任した時、「松浦市をアジフライの聖地にしよう」という取り組みが始まりました。実際、松浦で揚がったばかりのアジは、身も厚くて新鮮そのもの。お刺身にできるようなアジをすぐに加工するので、サクサクふわふわで、これまでのアジフライの概念が変わるほど。首都圏の飲食店に卸したり、全国ネットのバラエティで紹介されたり、着実に知名度が上がっています。

今も「松浦市はコンビニの数より、アジフライを食べられる店の方が多い」という売り文句を掲げて、お店ごとにソースや食べ方を工夫するなど、街全体でアジフライの聖地を盛り上げています。

一方よさこいでは、チームごとの特色を伝えられるようなイベントを行なっています。よさこいのチームは、お笑い要素が強かったり、とにかくカッコよかったり、大人数だったり、チームごとに特徴があります。バラエティに富んだ演技を見てもらうことで、意外性を持ってよさこいに興味を持ってもらいたいですね。

次世代に郷土愛を伝え、
仕組みを作る。

山口さんにとっての”EVOLUTION x LOVE”を教えてください。

山口子どもを持って初めて、親の想いに気づけた気がします。特に感じるのは、子を思う気持ちだけじゃなく、次の世代を育てていきたいということ。若い時は、仕事もよさこいも、プレーヤーとして一番目立つ存在でいたい気持ちが強かったです。もちろんそれもモチベーションとして大切ですが、自分がいなくても活動が続く仕組みづくりや、想いを伝承させる大切さを感じるようになりました。職場も異動があるので、自分がいなくても物事が回っていく仕組みづくりを意識しています。

ほかにも、将来、子どもが僕のことを思い出してくれるような活動がしたいとも考えています。僕自身この年になって、「昔、父親がこんなことをしていたな」「こんな地域活動に取り組んでいたな」と思い出すことが増えてきました。

よさこいだったり地域活動だったり、休日に取り組んでいる農業だったり…。子どもが大きくなってから「そういえば昔、父親と田植えをしたな」「一緒によさこいを踊ったな」といった記憶の片隅に残るような存在になりたいと思うようになったのが、僕にとっての”EVOLUTION x LOVE”ですね。

アジフライの聖地、よさこい、地域資源とコンテンツで盛り上げる松浦の街


地域の方と消防団の活動

将来のビジョンはありますか。

山口僕は今、51歳。10年後は61歳なので、まだ現役で仕事をしていると思います。同時に子どもや若者と一緒に活動しながら、地域が継続していけるような仕組みを作っていきたいです。20年後、30年後を見据え、仕組みを作りながら若い人にどんどん実践を任していけるようになりたいですね。

去年くらいから、個人的に民泊を受け入れるようになりました。松浦市は修学旅行生が田舎暮らしを体験するグリーンツーリズムが盛んな地域。地域内でも民泊をしている人や、学生向けの活動を行なっている人が多いです。20年以上、グリーンツーリズムの受け入れをしている方たちが高齢化する中で、引き続き活動していくために、民泊に取り組み始めました。

すると子ども達も地域外の人とのつながりができたし、地域の人が気づいていない魅力を見つけてくれたり、新しい価値観に触れる機会が増えました。今後も民泊やグリーンツーリズムを通じて、新しい視点を取り入れていきたいです。

現状の活動で足りていないことはありますか。

山口やはりマンパワーは不足しています。それを解消するためにも、一度松浦市を出た人が戻ってきたくなる仕組み・魅力を作りたいです。僕たちの若い頃は地域の魅力に気づかずに外に出て「ここには何もない」と地元に帰らないことが当たり前でした。しかし先ほどのアジフライの聖地宣言や文化財課での仕事を通して、地元の魅力に数多く触れることができました。この魅力を若いうちに知っていたら、地元の見え方も変わっていたのではないでしょうか。今後は起業支援など地元への起爆剤となるような取り組みを応援することが、マンパワー不足の解消につながると考えています。

現在の若者に対して感じることはありますか?

山口色々な場所に飛び込む勇気を持ってほしいですね。「隣の芝生は青い」のように、自分の育った地域の良さは、なかなか気づくことができません。

一歩が踏み出せないなら他の人の力を借りてもいいから外の世界に触れることで、地元の歴史・文化・魅力に気づけるのではないでしょうか。今の若い人は能力が高く、たくさんの情報を持っています。その能力を活かして地元を見直すことで、新しい魅力に気づいてほしいと考えています。

   ありがとうございました!市職員としての業務はもちろん、よさこいや民泊など、幅広い活動を行なっている山口さん。山口さんの活動が若い世代へとつながっていくよう、今後も応援させていただきます。