空でつながろう

Interview Vol.58 「歴史的偉人」がテーマの踊りやスポーツで
「佐賀」を元気に。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第58弾の今回は、踊りやスポーツの普及を通して佐賀の魅力を県内外に伝えることに力を注ぐ佐賀県庁職員でもある打越隆敏さんにお話を伺いました。

「歴史的偉人」がテーマの踊りやスポーツで「佐賀」を元気に。

佐賀東高校出身で元Jリーガーの赤崎周平さんと打越さん(写真左)と佐賀県庁にて。

「個人」、「県職員」双方の立場で
発信し続ける佐賀の魅力

現在の活動について教えて下さい。

打越20年以上続けている踊りのメンバーとともに、「さが維新おどり」の普及活動を行っています。「さが維新おどり」とは、幕末維新期に活躍した佐賀の偉人をテーマにした踊りで、その誕生のきっかけは、明治維新から150年となる2018年に行われた「肥前さが幕末維新博覧会」です。「佐賀には何もないと謙遜する人が多い。佐賀には光る原石がいくつもあるけれど、佐賀県民はそれを当たり前のことだと思い込んでいて、価値あるものだと思っていない。」という県知事の言葉のもと、佐賀県の歴史的な偉人たちに光を当て、その志を未来につないでいこうというコンセプトで開催されたイベントで、当時は博覧会事務局の広報担当として運営に関わりました。
その後、「博覧会は1年で終わってしまうので、佐賀の偉人の志を現在、そして未来へと繋いでいくために祭りを興そう。祭りには踊りが必要だ」という県知事の発案で踊りを作ることになり、踊りチームのメンバーと一緒に「さが維新おどり」を作りました。

「さが維新おどり」は、毎年10月に開催させている「さが維新まつり」で披露されるほか、小学校の運動会や、学校の文化祭などで踊ってもらったりしています。私も仲間と一緒に子どもたちに踊りを教えに行く活動を続けています。
子どもたちにとっては、歴史上の人物や出来事は遠い昔のことですが、踊りを通じて、「今の日本があるのは、佐賀のすごい人たちが活躍したからなんだな」と、佐賀を誇りに思ってもらいたい。さが維新踊りがそのフックのひとつになればいいと考えています。

仕事は現在、文化部局から、今年10月に佐賀県で開催される「国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会」(愛称:SAGA2024)の開催準備部局に変わりました。佐賀県では、世界に挑戦するトップアスリートの育成と、県民がスポーツの「する」「育てる」「観る」「支える」「稼ぐ」のいずれかに関わってスポーツ分野の裾野を広げることを目標とした「佐賀スポーツピラミッド(SSP)構想」に取り組んでいます。トップで活躍した選手たちが今度は指導者になって地域の子どもたちを育てていく。またアスリートたちの活躍が佐賀の力につながり、地域を支えるという構想です。
今回の「国民スポーツ大会全国障害者スポーツ大会」に関する取り組みもこの一環として位置づけられ、日々準備活動を行うかたわら、休日を中心に「さが維新おどり」の普及活動を行っています。

「歴史的偉人」がテーマの踊りやスポーツで「佐賀」を元気に。

2023年10月開催の第6回さが維新まつり

打越さんが踊りを始めたきっかけを教えてください。

打越社会人になりたての頃、短期間の海外研修に参加し、その後、OB・OGとともに児童養護施設の子ども達とレクレーションを行うような活動を行っていました。その時のメンバーで佐賀市内のお祭りに踊りで参加したことがきっかけです。踊りは、今や全国に広がった高知発祥の「よさこい」で、佐賀でも青年会議所の方々が長崎県佐世保市のよさこい祭りを見に行ったことがきっかけで23年前に始まりました。街中が会場となり、活気あふれる踊りで地域の方とお客さんと一緒になって、地元を盛り上げていくことに新しさを感じました。最初は2年限定の活動だったのですが、「もっと続けたい!」という思いで、踊りのチームを立ち上げてもう21年続いていますね。

地元の佐賀で仕事をすることになった経緯を教えてください。

打越福岡の大学に通っていた頃、友達から「佐賀県?ああ、通り過ぎたことある」「佐賀って福岡のどこだっけ?」といじられることがよくあって。何不自由なく育ててもらった大切なふるさとが、一歩外に出るとこんな見方をされているのかと実感しましたね。この4年間があったからこそ、佐賀県をもっとよくしたい、佐賀県をもっと知ってもらうような仕事をしたいと考えて県庁に就職しました。

打越さんにとって佐賀とはどのような存在ですか?

打越佐賀県は九州各県からのアクセスもいいので、何か新しいことをしようとする時にちょうどいい場所と規模感だと思います。企業誘致の際も「佐賀県を実証実験の場にしませんか」と売り込みますし、実際にネットの企画やアニメとコラボすることも多いですね。「佐賀県がまたなんか変なことをやり始めたぞ」というようなことが許容される風土です。ニッチなことや、ちょっととんがったことができる、懐の深い場所だと思っています。

打越さんにとっての地域活性を教えてください。

打越私は学生の頃からずっとサッカーを続けていて、今も職場のチームで親子ほど年が違う若い人たちと一緒に楽しんでいます。仕事でもスポーツに携わる日々の中で、プロスポーツというコンテンツが地域を活性化させる核となり得ることを間近に見てきました。
佐賀県にはJ1に所属するサッカーチーム「サガン鳥栖」やB1リーグ所属のバスケチーム「佐賀バルーナーズ」があり、バレーボールは女子V1リーグのチーム「久光スプリングス」という、トップカテゴリーの3チームが揃っています。
こうしたプロスポーツは、当初はコアなサポーターをターゲットにしていますが、私は1人のコアなファンが試合観戦に20回通うより、10人が2回試合を見に行くように、もっと裾野を広げていくことが大切だと思っています。佐賀県が取り組んでいる「SSP構想」では、スポーツを「する」だけではなく「観る」楽しさ、チームを地域で「支える」活動、スポーツを通して地域で子どもたちを「育てる」活動をしていくことで地域が活性化されると思うのです。
プロスポーツとビジネス分野のマッチングも大切ですね。最近ではこれらのプロスポーツチームが地元企業とのコラボ商品開発も始め、選手がCMに出たりもしています。こうしたことも地域活性につながると考えています。

また、地域活性化という観点では、県内に人が増えていくシステムを作ることも大切です。佐賀県は実証実験の場に適していると話しましたが、実証実験した後に人が残らないのではなく、ちゃんとその人たちが住んで食べていけるようなシステムを作り出すことが重要かなと。そのため県では転入者の方々に対して、先に移り住んだ人たちが相談役となるサポーター制度を設けています。例えば農業で活躍している人たちが苦労した点やよかった点を伝え、農業を志す人たちをサポートする。外から移り住んできたからこそわかる点は必ずあります。こうした活動が、ここへ転入する人たちの不安の解消につながっていると思います。

「歴史的偉人」がテーマの踊りやスポーツで「佐賀」を元気に。

さが維新おどりの中学校への出前講座。3年生が文化祭で踊ってくれました。

子どもたちが大人になった時、
誇りを持って戻れる場所へ。

打越さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

打越自分のような大学時代に「佐賀出身をいじられた」ような経験をする若者が少なくなってほしいと思います。若い人が胸を張って「佐賀県出身」といえる場所になること、まわりから「佐賀ってクールだよね」「おもしろいよね、いいとこじゃん」といわれるような県になるよう、仕事を通じて形にしていく。それが私の“EVOLUTION✕LOVE”です。
そのために歴史はとても重要だと感じますね。例えば鎌倉や京都など、歴史ある町に住む人が持っている地元への誇りって強いと思うのですよ。足元がしっかりとしているというか。佐賀もこの先、「歴史もスポーツも、なんでもある街」としてしっかりと足元を固めていけば、今の子どもたちが大人になった時に自然と誇りを持てる街になると思う。若い人たちが佐賀を飛び出して他の地域で成功しても、「佐賀に戻って自分の仕事を後世に伝えていきたい」とか、「次のステップに進む時は佐賀で」と思う人たちが増えることが、将来的な目標です。

「歴史的偉人」がテーマの踊りやスポーツで「佐賀」を元気に。

2023年10月開催の鹿児島国体のオープニングプログラムより

今の活動に対して現状足りていないと感じることはありますか?

打越都市部に比べると、地方はプロモーションにかかる労力が圧倒的に高く、情報発信をするにしても大阪や東京まで届かない。民間企業の方々もそれは感じているのではないかと思います。県庁としてもここ数年は佐賀県の魅力を全国へはもちろん、県民の皆さんにもしっかりと伝えることに重きを置き、情報発信に尽力しています。おかげで、佐賀県の魅力が徐々に広まってきていると感じています。

最近の若者に対して感じることはありますか?

打越踊りを通じて学生さんと交流する機会がありますが、一人ひとりと話をするとそれぞれに熱意やアイデアがある子たちばかり。しかしそれがある一定の規模になると途端に個性が埋没してしまいます。バブルが終わり、日本が元気をなくした時代に生まれてきた子どもたちは知らないうちに時代の閉塞感を感じ、積極的になることはマイナスだと思っている感じがしますね。これから先は、集団の中でも1人ひとりのいいところを発揮できる能力が求められるようになります。こんな先が見えない世の中でも、アイデアや情熱を相手に伝えることがもう少しうまくできるようになれば、必ず誰かに届き、つながっていく。それがきっと、未来を開く材料になると思います。

打越さん、ありがとうございました!「若い人が胸を張って佐賀県出身といえる場所になること」という言葉に、打越さんの想いのすべてが込められていると感じました。「クールでおもしろい佐賀」の魅力発信を、今後も応援させていただきます。