空でつながろう

Interview Vol.63 長崎県平戸ブランドの洋菓子づくりや企業支援で
平戸の街を未来へ残していきたい。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第63弾の今回は、美しい自然と歴史が共存する島、平戸を未来へ残すために、平戸の過去と現在をつないだお菓子づくりや地域企業の支援を行う小値賀布美華さんにお話を伺いました。

長崎県平戸ブランドの洋菓子づくりや企業支援で平戸の街を未来へ残していきたい。

小値賀布美華さん

自分の生きる道は自分で拓くことを、
子どもたちに教えたいと考えて起業。

現在の活動について教えて下さい。

小値賀塩生キャラメル専門店「firando」を経営し、塩生キャラメルとプリンを販売しています。塩生キャラメルの「MANGETSU」はポルトガルから平戸に伝来した西洋菓子のキャラメロを再現したもので、満月の夜にだけ汲み上げてつくる作る平戸海の塩を使用しています。こうしたスイーツ製造販売以外に、ローカルビジネスのブランディングやマーケティング、販路拡大を支援する「小値賀地域ブランド製作所」を立ち上げ、地域の企業を対象としたセミナーなども行っています。

長崎県平戸ブランドの洋菓子づくりや企業支援で平戸の街を未来へ残していきたい。

店舗スタッフの皆さんと懇親会

起業したきっかけを教えてください。

小値賀平戸市で結婚して子どもが生まれてから「このまま、“肩書き=母親”として生きていっていいんだろうか」と思うようになりました。平戸市は遣唐使、遣隋使の時代から諸外国に開かれていた港町で環境的にも優れた場所でありながら、今人口は2万8000人で2045年には1万5000人になると言われ、消滅可能性自治体とも言われています。そんな平戸で子どもたちがこれから先生きていくのは、あまりにも難解だなと思いました。かっこいい母親になろうと思ったわけではなく、どんな環境であっても「自分の力で人生は切り開ける」っていう姿を見せることが母親の責任だと思い、起業しようと思いました。いろんなやり方があると思いますが、資本主義の世の中で自分の生きる道を自分で作るにはお金が必要なので、起業がわかりやすいと考えましたね。

また、これだけネットでモノを買い、ネットでプロモーションやブランディングをするという現代において、平戸にはデジタルを扱える人がほとんどいなくて、地域が取り残されてしまっています。せっかく起業するのであれば、地域課題を解決する方法も、一緒に選びたいと思いました。

私は一部商品を産直市場で販売しているのですが、70、80歳になる、高齢のおじいちゃんおばあちゃんが市場の掃除当番で掃除をしに来るのを見た時に、なんともいえない気持ちになりました。これまで何十年も平戸を守ってきた高齢者の方達が、若者の少ないこの街を、まだずっと守り続けていると思うと胸にこたえます。だからこそ、私たちが何かやらなきゃいけないと思っています。

長崎県平戸ブランドの洋菓子づくりや企業支援で平戸の街を未来へ残していきたい。

地域の企業や、起業したい人向けのセミナーを開催。

スイーツ市場を選んだ経緯を教えてください。

小値賀皆さんが考えるよりかなり調査をしました(笑)。なぜなら、850万円ぐらいの設備投資がかかるからです。専業主婦の私にとって参入障壁は決して低くありませんでした。かつネット通販のノウハウを教えてくれる人もいなかった。でも失敗するわけにはいかなかったので、補助金500万円と中小企業診断士への相談が月2回無料という平戸市の創業支援制度を利用しました。足りない資金は家族から借りました。

中小企業診断士の方には平戸市の流入人口や消費額、経済水準などについて徹底的にデータを集めてもらいました。その上で、スイーツならリピートされるし、平戸の地産品を使うこともできる。“健康”という切り口で差別化を図っていくと決めました。ギフトならば気に入ってもらえたら毎年使ってもらえますし、誕生日ケーキにいたっては、全人口に対して毎年お誕生日があるので、需要が存在し続けます。なので、まず平戸の素材を使ったタルトとプリンの専門店「心優-CotoyuSweets-」を設立しました。ただ、ネットの市場は価格競争と広告費勝負になってくるのです。ひとつの柱としては良いけれど、平戸のことを考えたら、もうひとつの販売戦略が必要でした。考えた挙げ句、「赤福」や「白い恋人」のような地域のおみやげというポジションを取らなくてはいけないと至りました。おみやげのブランドを立ち上げる、これこそが息長く売れ続け、平戸が未来へ残っていくために私ができること。それで今の「firando」ができました。

「firando」という店名や、店のコンセプトはどのように決めたのですか?

小値賀平戸市は日本で初めてポルトガル、イギリス、オランダと国際貿易が行われた場所で、かつては「西の都=firando」と呼ばれ、南蛮貿易で栄えていました。そのfirandoを店名にしたのは、平戸そのものをブランドとして広く知られて欲しいと思ったからです。人口が減ることには抗えないのですが、ひとつのプロダクトに落とし込むことで多少なりとも何とかできないかな、と考えたのが出発点であり、着地点でもあります。

店のブランドコンセプトは「未来への復刻」です。16世紀にポルトガルからキャラメロという砂糖菓子が伝来しました。この当時の西洋菓子を、今の平戸で復刻したらどんなお菓子になるだろうと考え、地元の搾りたての生乳や平戸海の塩、満月という平戸の美しい自然の価値をストーリーにし、商品にしました。将来、平戸という自治体がもしなくなっても、平戸という名前は残ってほしい。このコンセプトに平戸の過去・未来・現在をすべて詰めて、未来へとつなげていきたいという思いを込めました。

長崎県平戸ブランドの洋菓子づくりや企業支援で平戸の街を未来へ残していきたい。

平戸産の素材を使った「MANGETSU」。

平戸の未来を思い描いて、
何としてでもやるという熱い気持ちが大切。

地域活性についてどのように考えていますか。

小値賀難しいですが、結局どれだけ自分が地域活性に向き合えるか、没頭できるか、達成したいと思うかがすべてだと考えています。手段はなんであれ、思いがあってやり続けていれば何かしら見えてくる、それしかないと思います。私もスキルはまったくなかったのですが、多少なりとも雇用を生んだり、メディアの注目をいただけたり、同じように地域で頑張ろうとしている方のサポートをさせていただいたりすることができているのは、単純にこの地域が好きで、なんとかこの地域のために自分の人生を使いたいという思いがあったからです。結局それだけなんだろうなと思っています。

やっぱり、中心になる部分の熱量がないと、誰も何かやろうとはしない。中央にいる人間が、地域の未来を描いて、何としてもこれをやるぞってやり続けていくことが必要ですね。それがなければ、こんな難解なことは誰もしないですよね。そういう意味では、地域の中であらゆることを何でもやるっていう熱が大切だと思っています。

長崎県平戸ブランドの洋菓子づくりや企業支援で平戸の街を未来へ残していきたい。

小値賀さんが未来へ残したいと話す、豊かな自然に囲まれた平戸市。

今後について、どのような目標を立てていますか?

小値賀一朝一夕でこの会社が大企業になるかと言うとそうではないので、徐々に事業を大きくしていくしかないと思っています。今、計画を立てているのは、平戸の新卒者が働きたいと思えたり、平戸を出た人がまた戻ることができる会社に成長させること。5年後、6年後になるのかわかりませんが、そこを目標にしています。また、ブランド事業においては、平戸のことをもっと広くPRしていけるように、中国など外国への販路も拡大したいです。満月になぞらえたブランドストーリーも、海外の方への訴求になると思います。

ありがとうございました!小値賀さんの平戸への熱い思いが伝わるインタビューとなりました。平戸を未来へ残すため、仕事や企業支援に奮闘する小値賀さんを今後も応援しています。