空でつながろう

Interview Vol.68 守山市や野洲市での空き家対策活動を礎に
“居心地のいい滋賀県”を未来へ継承

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第68弾の今回は、空き家の利活用や空き家対策を通して地域活性に貢献し続ける「一般社団法人古民家再生協会滋賀南」の谷口陽介さんにお話を伺いました。

守山市や野洲市での空き家対策活動を礎に“居心地のいい滋賀県”を未来へ継承

古民家再生に関わる皆さんと谷口さん(前列写真右)

地元の人と新しい人をつなぐ
「地域の緩和剤」をめざして活動

現在の活動について教えて下さい。

谷口全国で展開する「一般社団法人古民家再生協会滋賀南」として、守山市や野洲市を中心に古民家の利活用や空き家対策に関する活動を行っています。空き家を売りたい、貸したい、片付けをしたいというさまざまな問題を地域の課題として捉え、まずは自治会や町内会へ個別説明を行い、地域における空き家所有者や単身高齢者などの情報を集約。相談会や現地調査、個別相談を行った上で、管理活用のサポートを行い、空き家バンクに登録して活用を促進させるまでが私たちの仕事です。こうした事業を進めるにあたって私たちがどんな活動を行っているかを地域の皆さんに認知していくことを大切に、協力してもらえることはないか何度も説明を行ったり、地域の行事にも参加をして理解を深めてもらえるよう努力しています。

守山市で活動することになったきっかけを教えてください。

谷口守山市で生まれ、25歳で地元を出て、大手アパレル企業に就職しました。全国へ転勤があり、店長になって半年や1年おきに転勤をしていましたが、30歳を前に父が倒れてしまいました。90歳半ばの祖父も介護が必要で、母の肩に2人の介護がのしかかってしまったため、私も離職して地元へ戻ってきました。

滋賀県の南部は今、すごい勢いで人口が増え、田んぼなども宅地になってどんどん開発されています。僕の実家も例外ではなく、不動産屋さんに相談した際に、「空き家事業をやっているから、手伝わないか」と言われたのです。

実際にうちは土地だけではなく古い家も所有していたので、売却や活用に関して騙されたくはないから、不動産や権利関係について深く調べました。そのうち「この勉強をこの1回で終わらせたら、学習コストが高すぎないか?」と思うようになりましたね。同じようなことで困っている人もいるし、この経験を通して自分が何かアドバイスできることがあるのではないか、と思いました。そのタイミングで不動産屋さんに声をかけられたので、事業に参画することにしました。

空き家事業を続けているモチベーションはなんでしょうか。

谷口今の仕事を始めて、僕のアドバイスで空き家問題が解決した時にお客さんが「ありがとう」と泣いて喜んでくれたことがあって。一緒に仕事をしている相方もお客さんと一緒になって涙を流しているのを見て、「この仕事、すごいんやな」と思いました。それが今も原動力となっています。

また最初は空き家所有者の問題を解決してあげることが仕事だと捉えていましたが、実際に空き家を見に行くと、隣のおばあちゃんも1人で住んでいて、「火事になったら怖い、動物が入り込んできたらどうしよう」というような問題を抱えていることがわかり、それから半径500mぐらいの近所に話を聞いて回りました。その結果、空き家の問題は地域の問題ということが浮上し、その人たちが将来的に困らないようにしてあげたいと思うようになりましたね。でもやっぱりここは田舎で保守的な人が多く、新しく入ってくる人を「よそもん」と見てしまいます。空き家の所有者や空き家のある地域だけではなく、住む、あるいは事業で空き家を活用したい人が安心して移住できるようにする、いわゆる地域の緩和剤になるのが僕らの仕事だと思っています。

守山市や野洲市での空き家対策活動を礎に“居心地のいい滋賀県”を未来へ継承

地域のみなさんへ説明する谷口さん

谷口さんにとっての地域活性を教えてください。

谷口空き家がうまく利活用され、地域のコンテンツになることに無限の可能性を感じています。それによっておそらく地域は救われますが、一方で空き家の利活用を止めているのも地域、すなわち自治会のおじいちゃん、おばあちゃんやそこに住み続けている人たちです。僕たちがこうした人たちに対して向き合っていくことで、1軒でも空き家が活用され、新しい人が入りやすくなることができればいいと思っています。それが地域の資源になって、その地域にしかできない盛り上がり方が見つかると考えています。

僕は大学を卒業してからバックパッカーとして海外を回り、いろいろな人に出会いました。恐ろしい日本人もいれば、優しい外国人もいて、国は関係ないなって実感しましたね。今、守山市や野洲市にも日本人だけじゃなくて空き家を活用したいという外国人が訪ねてきますが、やっぱり地域の人たちは保守的です。でもこのまま地域の日本人だけを受け入れていては、立ち行かなくなってしまう。この地域に入ってくる人に対して線引きをしなければ、もっと地域は面白くなるし、新しい可能性を生み出します。地域の人たちをそういう考え方に変えていくことは大切ですし、新しく入ってくる人たちも家賃払えば「はい、終わり」ではなくて、地域の川掃除や草刈りなどの行事に参加して、先住民に教えを請いながらなじんでいくことが重要です。こうしたアフターサポートも行って、コミュニケーションエラーが起きる可能性を減らすのも僕たちの大事な仕事であり、それが地域活性につながると考えています。

守山市や野洲市での空き家対策活動を礎に“居心地のいい滋賀県”を未来へ継承

リノベーションしている空き家にて

空き家問題を点ではなく面で捉え
過疎地域も継続できる対策を考える

谷口さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

谷口滋賀県は居心地がいい場所。事実、人も増えてきているし、何にでも挑戦できる環境も整っています。ここで、僕より下の世代の人たちが興味や愛を持てるような可能性や選択肢を広げていきたいです。僕には娘がいますが、娘が滋賀県の中でできることを見つけてくれたら嬉しいです。次の世代に自分が何をしてあげられるのか、さらに娘たちがその下の世代に対して何かをしてあげられるような、その場所の継承することが1つ。

2つ目は、空き家を1軒改修して喫茶店にしました、というのもいいのですが、滋賀県には現状10,000軒を超える空き家があり、今後も年間80軒の空き家が増えていきます。月に8、9軒の空き家問題を解決していかなくてはならないとなった時は、点じゃなくて面で捉えて考えていくことが必要です。そのためには、地域の問題として個人はもちろんまちづくりの団体や社会福祉協議会などの協力も必要です。こういう人たちをもっと増やしていくことが重要だと感じているのですが、それが僕にとっての“EVOLUTION✕LOVE”ではないかと思います。

守山市や野洲市での空き家対策活動を礎に“居心地のいい滋賀県”を未来へ継承

空き家バンクについての説明会にて

10年後、20年後はどうなっていたいですか?

谷口今、僕たちは空き家の問題を地域の問題として、地域の情報を集約している最中です。それはデータを集めてDX化するとかいう話ではなく、自治会ともっとコミュニケーションを取り合い、移住者コミュニティで「うちの地域はこうや」と情報交換ができるようにしていきたいという思いで進めています。また、自治会の中には古い体制のままで進めているところがあって、新しい人が入りづらい要因のひとつになっているので、その地域ならではのよさをもっと多くの人に知ってもらい、その中でできることを続けていけるような自治会の仕組みづくりを作っていきたいです。実際に、外の考え方や若い世代の考え方としてある自治会に話したら「そういうもんか」と思ってくれる人が多かったですね。言ったら理解をしてくれるし、改善をしてくれる。むしろこういう声を聞く機会がなかっただけで、「空き家の事業をやろうとしてくれている人が言っているんやったらそうなのかもしれん」と聞く耳を持ってくれる人がけっこういるので、この可能性を伸ばして変えていきたいとも思っています。

あとは、過疎化が進む地域も、将来的に生活が継続できる場所であってほしいと思いますね。例えば滋賀県の場合、JR線沿いは栄えているのですが、山の方へ行くと急激に過疎化が進んでいる。こうした過疎地区同士が繋がって、人が行き来できるような環境を作ることができればいいと思っています。過疎地区にも人がちゃんと訪れて、お金を落としてご飯を食べて帰るという、そのサイクルを20年後、30年後も継続できるようにしていけたらいいと思っています。

谷口さん、ありがとうございました!空き家の利活用だけではなく、空き家の問題を地域の問題として捉え、人と人との繋がりを大切にしながら多面的に活動を続ける谷口さんを、今後も応援させていただきます。