空でつながろう

Interview Vol.77 釜石市のプレイヤーとして地元内外の関係人口を増やし
地域全体の人材育成に尽力。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第77弾の今回は、釜石を中心に地域外から人を呼び込み、地域の人々とのつながりづくりや、地域で活躍するための支援を行うことで活性化の一助を担う「株式会社パソナ東北創生」の代表取締役、戸塚絵梨子さんに話を伺いました。

多様な働き方や生き方をする
「クリエイティブリブス」を提案。

釜石市のプレイヤーとして地元内外の関係人口を増やし地域全体の人材育成に尽力。

戸塚絵梨子さん(写真後列左から一人目)

現在の活動について教えて下さい。

戸塚「株式会社パソナ東北創生」の代表取締役として、岩手県釜石市をフィールドに、釜石にどうやって人を呼び込むか、地域でいきいきと働く人を増やせるか、ということを中心に活動をしています。はじめは首都圏の企業研修やラーニングワーケーションなどを釜石でコーディネートすることを行っていましたが、それが少しずつ広がり、大学生のインターンシップ事業、中長期型の滞在プログラム作成など、地域の取り組みや地域の企業と個人や団体をうまくマッチングさせることで、釜石市や岩手に外から人を呼び込む事業を行っています。こうした活動を5年くらい続けていく中で、新しく入ってきてくれた方たちがうまく活躍していけるように、採用後の人材育成や採用戦略、働き方についても支援しています。

釜石で活動することになったきっかけを教えてください。

戸塚大学を卒業後、「株式会社パソナ」に入社し、営業部門に勤務していました。東日本大震災後の2012年にボランティア休職制度を利用し、1年間釜石市内の社団法人の職員として働きました。最初は、東京から被災地を継続的に支援するにはまず現地に行かなくてはならないと思い、1年間の期限付きで釜石に暮らそうという発想でしたが、住んでいるうちに自分にとって釜石がとても魅力的な場所になり、東京に帰っても関係性を繋いでいけたらいいなという思いになりましたね。

その後も、釜石はまだボランティアを必要としていることや、個人的に会いたい人がたくさんいることもあって、月に1度くらいの割合でボランティアツアーを企画しました。こうしたことを行っていくうちに、釜石では復興が進み、ボランティアが関われる余地がどんどん減っていることと反比例するように現地でのプレイヤーが必要とされていることを知り、釜石で何かやっていきたいという気持ちが強くなってきました。ちょうどその頃、パソナが被災地での復興支援事業を国や県から受託していたこともあり、ボランティア休職を取っていた私を含め、こうした取り組みを行っている社員7〜8人が集められて、パソナとして今後やっていくべき事業提案をするための会議を月に1度の割合で行うようになりました。徐々に事業計画や提案書がまとまっていく中で、「じゃあこれ、誰がやるの?」となって。私以外のメンバーはそれぞれ本業として現地で復興支援の仕事をしていたため、事業計画を実行することができなかったんですよね。釜石でも、こうしたらよくなるという考えがまとまっても結局やる人がいないから進まないという現実を見聞きしてきていたのと、タイミング的に私はボランティア休職から復職し、復興の現場ではない部門で仕事をしていたので、やるなら私しかいないと思い、「じゃあ私行ってきます」と手を挙げました。

これを引き受ければ自分が主体となってやることになるから、本当に釜石で活動をしたいのか?と何度も自問自答しました。最終的には、チャレンジしなかったたら絶対に後悔するし、釜石にプレイヤーとして関われるチャンスでもあったので、勢いで飛び込みました。

釜石市のプレイヤーとして地元内外の関係人口を増やし地域全体の人材育成に尽力。

秋刀魚のイベントにて

実際に釜石で活動して感じたことは?

戸塚私自身は東京で生まれ育ち、会社員になるという画一的な生き方しか知りませんでしたが、釜石で一次産業の生産者や企業の経営者とお会いする中で、いろいろな働き方や生き方があることを知りました。企業の社長も地域の消防団に所属し、お祭りで屋台を頑張っていたり、家に帰れば誰かのパパ。都会で生きる人もそういう一面を持っていると思いますが、仕事の面しか見られなかったですね。でも釜石に来て、企業人、家庭人、地域の一員としてさまざまな形で地域づくりに貢献している生き方はすごく素敵だと実感しました。自分たちもそういう生き方や働き方を作っていきたい。と思い、「クリエイティブリブス(Creative Lives※造語)」という言葉を合言葉に、地元の企業と協力してさまざまなプロジェクトを作っています。

戸塚さんにとっての地域活性を教えてください。

戸塚地域に住んでいる方たちが幸せに働き、生きることだと思います。そのために、地域外から来た人に前向きな変化を起こし、地域の人にとっても生きがいややりがいにつながることができる仕掛け人になりたいと思っています。例えば釜石のAさんに会うために、釜石へ通い続けるうちにBさんという面白い人に出会って、というように内と外との関係人口を増やし、そのすべてが好循環で回ることをめざしていきたいです。それが地域活性につながると思っています。

釜石市のプレイヤーとして地元内外の関係人口を増やし地域全体の人材育成に尽力。

イベントにてピッチをする戸塚さん

復興支援ではなく
釜石に根を下ろして
関わっていきたいと気持ちが変化。

戸塚さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

戸塚私にとって、支援者の立場ではなく、プレイヤーとして起業したことはひとつのターニングポイントでした。復興支援をしたいという抽象的な話ではなく、何を実現したいのかを自問自答するようになり、それを軸に事業を作ることで釜石との関わりやつながりが変化しはじめました。

「株式会社パソナ東北創生」は2015年に立ち上がった会社ですが、いわゆる復興10年といわれる2021年までは復興予算もあり、できることもたくさんありました。でも、10年が過ぎて予算がほとんどなくなり、復興支援制度等外部からの支援者を誘致するような制度もなくなって一緒にやってきた人たちも多くが次のキャリアを歩みだしていました。こうした状況の中で、釜石でこれから何かを実現する会社として、どのように今後進めていくかを問われ、考えるうちに、「うまくいかなくて終わってしまうかもしれないけれど頑張ろう」ということをメンバーと再確認し、再スタートのような形で少しずつ変化してきていることが、私にとっての2つ目のターニングポイントであり、“EVOLUTION✕LOVE”です。

釜石市のプレイヤーとして地元内外の関係人口を増やし地域全体の人材育成に尽力。

復興イベントにて皆さんと

10年後、20年後はどうなっていたいですか?

戸塚釜石市の人口は今3万人弱で大企業の従業員とほぼ同じくらいなので、釜石市をひとつの会社として捉えた時に、自分たちは人事的な役割を担いたいと思っています。外から人を呼び込むことも、地元の人たちが活躍することももちろんですが、釜石から外へ出てしまった人たちがひとつのコミュニティとして地域の取り組みに関われるような形づくりをしていきたい。これまでは地域でプロジェクトを作り、そのプロジェクトに人を募集していましたが、人の流れの循環自体をデザインできたらいいと考えています。また地域の企業の中には、社長の右腕がとても重要で、誰が来るかによってその会社の命運が分かれるようなところもあるので、仕事と人をマッチングさせるという発想だけではなく、「今度Uターンする誰々さんはこういうスキルがあるからあの企業に合うのでは?」などと情報交換を行いつつ、人材会社だけではなく地元の人たちとも協力して釜石全体で人材獲得力を上げ、人が活躍して企業が成長していける仕組みづくりに関わりたいと考えています。

今の活動で足りていないと感じることはありますか?

戸塚今は大学生のインターンシップ事業を通して釜石に関心を持ってもらう母集団形成を行っていますが、大学生を集めるのに苦労しています。地方に関わりたいという学生がもっとたくさん飛び込んできてくれたら嬉しいですね。

戸塚さん、ありがとうございました!釜石のプレイヤーとして、地域の人と外の人たちとの関係人口を増やし続けようと日々活動を続ける戸塚さんを、今後も応援させていただきます。