
Interview Vol.92
滋賀県大津市を中心に子どもが大いに夢を語り、
誰もが挑戦し続けられるまちづくりに取り組む
EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第92弾の今回は、スポーツを入り口にした施設を運営しながらまちづくりに貢献する牧貴士さんに話を伺いました。

牧貴士さん
人々を動かす力がある
スポーツを入り口に、
ゼロイチから起業。
現在の活動について教えて下さい。
牧2018年にスポーツを入り口にした地域づくりをコンセプトに「株式会社SEVENTH GENERATION PROJECT」を立ち上げ、2019年からは飲食店併設のバスケットボールコート施設「SG Park」を運営して6年目を迎えています。「SG Park」では、3人制バスケットボールのスクールを運営しています。他にも、コンサルティング事業なども行っています。

牧さんが運営する「SG Park」 外観
大津市で活動することになったきっかけを教えてください。
牧両親が大分出身で生まれたのは大分ですが、小学校1年まで京都で育ち、1年の2学期から大学卒業まで大津市で暮らしました。卒業後、大阪の会社に就職して営業の成績がよかったので東京の新会社立ち上げに関わりましたが、入社から10ヶ月後に会社を退職して2005年に独立しました。
もともと大学卒業後は起業しようとずっと考えていました。というのも、中学生の頃親が嫌いになって、父の職業だったサラリーマンになるのは嫌だと思って。何かやりたいなと思いながら、大学4年までバスケットボールに打ち込んでいて、何で起業するかも決めていませんでした。でも「子どもが夢を語りまくり、世界中の人がチャレンジしたいと思ったことに挑戦できるのが当たり前の世の中にしたい」という理念は持っていましたから、まずは社会勉強と考えて会社に就職し、営業経験を積むことに専念しようと思いました。
当時はバスケットボールと、競馬に自信があったので、このどちらかで起業しようと考えていました。企業セミナーにいくつも参加しましたが、何で起業するか決めていなかったので、会話が続かなくて。そこでまず、競馬の予想の仕方を教える会員制のサイトを立ち上げました。なぜかというと父が競馬好きで、子どもの頃の土日は家族で競馬場によく行って母と一緒に車で待っているのがルーティーンで。中学生になるとたまに父と一緒に競馬場へ行って、馬を選んで買ってもらったりもしました。でも当時を思い出すと、車で母が寂しそうに待っていた姿が目に浮かびます。実は私は小学校6年の時に弟を病気で亡くして、母はそれ以来いつも寂しそうでした。一方で、私自身も子ども心に自分を見てもらえない寂しさを感じていて。家族で出かけても常に寂しそうな母を見ているうちに「競馬が家族全員で楽しめるレジャー・スポーツになればいいのではないか」と思い、競馬で起業することにしたのです。
競馬というとギャンブルと捉えられがちですが、私は「馬はかっこいいな」という思いから始まっているので、馬の様子を見て走り方を見るうちに、競馬新聞を見ないで予想するという理論を確立して、予想の仕方や考え方、馬の見方を発信し始めました。
でも2005年に独立して、ようやくお金が稼げるようになったのは2008年10月。3年2ヶ月も「ゼロからイチへ」にかけていました。この時間が自分の原点となりました。
その後競馬事業は軌道に乗り、ブログやポッドキャストで情報発信を行ううちに起業の相談を受けるようになって、起業支援も行いました。しかし500人支援して、結局続けているのは2人だけ。「1人ひとりにサポートするのは効率が悪すぎる」と考えてスクール形式にして運営していた折に、東日本大震災が起こって、滋賀に戻りました。
戻ってからも起業支援をしようと思いましたがなかなかうまく行かず、その原因を探るうちにスケジュールや予算管理などのプロジェクトマネジメントができないとだめだという考えに行き着いて。2014年から3年間「ロフトワーク」という会社で飛騨市の木材にクリエイティブな付加価値をつけるプロジェクトに取り組みつつ、2016年にカフェを作り、行政と関わりながらまちづくりの仕事も始めました。でも行政の人たちの取り組みはどこか固くて、地域の人々になかなか届かない。ワークショップをやっても毎回同じような人しか参加しない。どうやったらもっと地域の人々を巻き込めるのかと考えて、自分がずっとやってきたバスケットボールに立ち戻り、「スポーツは人々を動かす力と可能性がある。スポーツを入り口にすれば地域の人を集められるのではないか」と思い、今の会社を設立しました。

SG Parkにある屋内バスケットコート
牧さんにとっての地域活性を教えてください。
牧「SG-Park」は車で30分圏内の人たちをターゲットにしていますが、初年度で約100人の子どもたちがスクールに通うようになり、今は月間1万人近い人たちが来てくれるようになりました。行政とまちづくりをしていた時よりはるかに地域の人にリーチできています。スポーツを入り口にしてよかったと心から思いますね。こういう施設の場合、辺鄙な場所にあることが多いのですが、まちづくりを想定して商業施設内にこだわって作ったというのもよかったと思います。ふらりとカフェに来てくれるお客さんにも、自分たちのまちづくりへの思いを話すように意識しています。「子どもや孫の将来のためにできることを今からやっていきましょう」みたいな話ですね。1人でも多くの人がまちづくりへの意識を持ってくれたら大津市はもっとよくなるし、滋賀県全体、日本全体に広がっていくという思いで毎日取り組んでいます。
私は、地域活性とは、その街に住む人が楽しく生きているかどうかということだと考えています。多種多様な方がいるのでひとつにくくることはできませんが、1人ひとりが「なんか楽しいな」と思える瞬間をどれだけ増やせるか。本人たちがやりたいと思うことにチャレンジできている、それが地域活性につながると思います。

SG Park屋外にもバスケットコート
200年先の世代へも
つながっていける
取り組みを行っていきたい。
牧さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
牧「SEVENTH GENERATION」という言葉は、「先祖のおかげで今があるから7世代先のことを考えて意思決定していこう」というネイティブアメリカンのイロコイ族の教え。ビジネスは約30年で1世代といわれているので、7世代だと約200年。私は亡くなった弟の分も生きたいと思っていましたが、200年はさすがに無理です。でも事業や思いならこの先も残すことができる。自分の子どもやここに来てくれている子どもたちの子どもや孫、その次の世代までつながるようなことを1人ひとりが考えてくれるような取り組みを行っていきたいと思っています。とにかく200年先に残すことだけを意識していく。それが私にとってのEVOLUTION✕LOVEです。

3人制バスケットボールスクールの様子
10年後、20年後はどうなっていたいですか?
牧まずこの会社を継いでくれる人が現れてほしいですね。「この子だったら私の思いを受け継いでくれる」という。理想は、うちのスクールに通っていた子たちが一線級で活躍して、終わってからここでコーチとして手伝ってくれるという形になれば一番いいかなと思います。またSG Parkのような施設を全国の地方に作りたいとも思っています。今、3歳から80歳ぐらいの人まで利用してくれていますが、高齢者にとっても集まる場所は必要で、それが近くの公民館や体育館だと味気ないじゃないですか。おしゃれで運動できる場所があると人は集まります。そこで運動してもらうきっかけを作ってほしい。日本は平均寿命世界一といっても、寝たきりの高齢者世界一でもあるんですよ。それはよくないじゃないですか。普段から適度な運動をする習慣や文化は作ることは大切です。地方には高齢者が多いので、まず地方からこういう場所を作りたいと思っています。そのために、あらゆる世代が参加できるスポーツプログラムを作っていきたいと考えています。将来的には自分たちの暮らしやデザインをみんなで一緒にデザインしていく場所になればいいかなと思っています。
牧さん、ありがとうございました!今だけではなく、常に200年先のことを考えた取り組みを行っていく牧さんの活動を、今後も応援させていただきます。