空でつながろう

Interview Vol.93 全国各地にプロギング活動を広めて
“明るい日本”をつくりたい。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第93弾の今回は、大好きな自然に恩返しをしたい思いからプロギング活動を始め、全国に広げて人と人との交流の場を創出し続ける常田英一朗さんに話を伺いました。

全国各地にプロギング活動を広めて“明るい日本”をつくりたい。

常田英一朗さん

押し付けるのではなく
楽しんでやっているうちに
社会貢献につながるプロギングへ。

現在の活動について教えて下さい。

常田「プロギングジャパン」という団体を運営し、全国各地でプロギングのイベントを主催したりしています。プロギングとはスウェーデン発祥のジョギングしながらゴミを拾う新しいフィットネスで、最近ではかなり認知度が高まってきています。おかげさまでローカルの団体も増えて全国で約110団体までになり、各団体への支援も行っています。

具体的には、「心・体・交流」の3つのテーマをもとに、全国各地の行政や企業から依頼されてプロギングのイベントを企画し、開催しています。例えば観光を目的にしたイベントであったり、人と人との出会いをコンセプトにしたイベントなど、依頼者それぞれの特徴や強みを生かして企画しています。

全国各地にプロギング活動を広めて“明るい日本”をつくりたい。

プロギングに参加された皆さんの様子

プロギングの活動することになったきっかけを教えてください。

常田以前から登山やクライミングが好きで、山に登り続けるうちに「この豊かな自然に何か恩返しができたら」とずっと思っていました。というのも、僕らが山に登ることによって自然が破壊されてしまうこともあるからです。例えば、登山者のための道が整備されたり、僕は滝登りが好きですが滝を登るために草にしがみついてむしりながら登ったりと、そこにある自然を破壊していることもある。だから恩返しがしたいと考えていました。

最初に「山に落ちているゴミをどうにかできたらいいな」と考えたのが原点です。その後、北欧の山へ登りに行った友人から「町を走ってゴミを拾っている人たちがいたよ」と聞いてプロギングという活動を知りました。走ってゴミ拾いするなら自分でもできる、よしやってみようと思いました。

実際にやってみたら、ゲーム性があってけっこうおもしろくて、これなら自然を守りたいという自分の気持ちを押し付けることなく、みんなで楽しめるんじゃないかなと思って取り組み始めました。

全国各地にプロギング活動を広めて“明るい日本”をつくりたい。

プロギング初期、大学時代の常田さんと参加者の皆さん

プロギング活動で大切にしていることは?

常田この活動の原点となった登山やクライミングは、完全に自己満足の世界。山の上に登ったからといって何かが得られるわけでもないし、社会のためになっているわけでもないです。また、自分が大学に入学した頃、気候変動に関するデモ活動が活発に行われていた時期でしたが、「もしこの活動に誘われてもちょっと考えてしまうな」と率直に感じました。自然が好きな自分ですらそうだから、自然環境問題について興味がない方ならなおさらハードルが高いでしょう。これら2つのことが自分のアイデンティティになっていて、プロギングも決して押し付けではなく、みんなが楽しんでやっているうちにいつの間にかそれが社会貢献につながっている、そんな活動ができたら最高じゃないかと思っています。よくも悪くも社会貢献という言葉の影響力が大きいからこそ、あえていわなくても自然に広がる社会貢献があってもいいのではないかということを大切にしています。

あと、聞いた話によると最近の小中学生の間には「エコ不安症」があるそうです。気候の変化や環境破壊を学ぶうちに「自分たちの将来、大丈夫なのかな?」と不安を感じてそれがストレスになるという子もいるそう。自分の周りにも大人の方ですが、家のまわりを毎日ゴミ拾いしているけれど何十年経ってもきれいにならないことで鬱になってしまったという方もいます。みんな、社会のために何ができるかと考えて行動しているうちに、反対に気持ちが落ち込んでしまう。こんな悲しいことはありません。だからもっと日本の雰囲気を明るくしていきたいというのも、自分のモチベーションになっています。私たちのイベントでは、20人ほどで1グループを作り、そこにスタッフを1人配属して一緒に周り、参加者がゴミをひろうたびに「ナイスナイス!」と声をかけます。参加者同士にも声を掛け合うことをお願いしています。お互いに褒め合うことで、社会貢献できたことを実感してもらって、明るい日本を作っていけたらいいなと思っています。

プロギングはただのゴミ拾いではなく、走るよりも高いフィットネス効果が期待でき、人々の自己肯定感を高めることでコミュニケーションも促進できるツールです。今後はプロギングのイベントや教育事業などを通してSDGsも意識していきたいと思っています。こうした私の取り組みが社会課題解決をするビジネスプランとして認められ、滋賀銀行のニュービジネス奨励金「SDGs賞」を受賞することができました。とても光栄に思っています。

常田さんにとっての地域活性を教えてください。

常田全国にプロギングが広まることによって「プロギングしに他県へ行く」ということも広まれば、地域活性につながると考えています。住民はもちろん、いろいろな人たちがその地域で交わって同じ空気を吸うというところから、地域活性が始まっていくんじゃないかと思っています。

全国各地にプロギング活動を広めて“明るい日本”をつくりたい。

名古屋の久屋大通公園周辺でのプロギングイベント参加者の皆さん

人にフォーカスし、
「私もあなたも最高!ナイス!」と
言い合えるようなイベントに。

常田さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

常田大学時代、学内のSDGs活動で「マイボトル作戦」を展開しました。ペットボトルを減らすことについて少し考えようと銘打ち、「マイボトルにコーヒーや紅茶を詰めて持っていってくださいと」と教室にフリードリンクも設置して。150杯ほどのドリンクを用意したのですが、実際に使ったのは40杯ほどでした。大失敗でしたね。結局、「教室に入ったらSDGsについて面倒くさいティーチングがあるだろうな」と思われ、入りづらかったのだという考えに行き着きました。このことから、「一方的にSDGsを押し付けるのではなく、もっと人にフォーカスしなければいけない」と考えるようになって。これが今のプロギングに活かされています。最初はただ走ってゴミを拾うというだけでしたが、回を重ねるうちにどうしたら参加者が楽しめるかを考えるようになりました。ゴミは参加者同士で入れ合ってもらって交流を深めるとか、ネームカードにニックネームや趣味を書いてもらったりとか、人にフォーカスすることを大切に培ってきました。

また、2024年5月にフィリピンでプロギングイベントを開催し、拾ったペットボトルのゴミでアクセサリーを作るというブースを設けました。その時、現地の方々に「来てくれてありがとう」とものすごく歓迎されて。こうした思いを行動で表現するのはすごく素敵なので、自分もプロギングイベントを通して皆さんに届けていけたらと思っています。

人と接する機会が減っている社会の中で、同じ目標を持つ人との出会いを楽しみながら「私もいいしあなたも最高!ナイス!」っていえるような交流の場を作ることに価値がある。それが私にとっての“EVOLUTION✕LOVE”です。

全国各地にプロギング活動を広めて“明るい日本”をつくりたい。

プロギング参加者の皆さん

10年後、20年後はどうなっていたいですか?

常田プロギングの文化が根づいて、街の中でプロギングをする人と普通にすれ違えるようになっていたらいいなと思っています。自分たちがイベントをしながら走っていたら、別のプロギングのチームとすれ違って、みたいなことがあったら最高ですね。現状は、プロギングはゴミ拾いの一種と認識されることが多いですが、今後はランニングの一種にしたいなと思っています。数あるランニングの中にプロギングもあって、趣味としてやる、という文化を作っていけたらいいなと思っています。

常田さん、ありがとうございました!プロギングを通して、SDGsや社会貢献を自然にみんなが行えるようになったらいいという常田さんの思いが伝わるインタビューとなりました。常田さんの活動を、今後も応援させていただきます。