
Interview Vol.98
「食✕クラフトビール」で個性豊かなクラフトビールを作り、
大津市や滋賀県、企業の活性化に貢献していく。
EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第98弾の今回は、「食✕クラフトビール」で個性的なクラフトビールを作ることで地域や個人の夢を応援している「近江麦酒」の山下友大さんに話を伺いました。

山下友大さん(写真左)とスタッフの皆さん
クラフトビールの
おいしさにハマり、
東京で勉強し、大津市で起業。
現在の活動について教えて下さい。
山下2018年から滋賀県大津市でクラフトビール醸造所「近江麦酒」を営んでいます。年間12,000リットルほどの小規模なビール製造を行っています。創業3ヶ月目の頃に、野洲市役所の方が地元のビールを作りたいと声をかけてくださって、野洲のビールを作り始めました。蓼(たで)を使ったビールを作ろうという話でしたが、「鮒ずしで作ってみてはどうですか?」と提案したところ結構盛り上がっちゃって。今は蓼のビールと、鮒ずしのビール2種類を、野洲市の地ビールとして販売しています。ひとつは魚の出汁感を感じるビール、もうひとつは鮒ずしの米の部分、あの独特の匂いがうまく収まったビールです。鮒ずしのビールが、近江麦酒のビールづくりの特徴となり、「食材✕クラフトビール」で作り始めてから依頼がどんどん来るようになって、今では100種類を超えています。またビール講座を開催し、これまで7期行いまして19人が受講しました。その中でビール工場を立ち上げた方が3人いらっしゃって、もうすぐ京都にも4件目が立ち上がります。ライバルをどんどん増やしている、という感じでしょうか。でもとても嬉しいことです。

ビアカフェとしても利用できる山下さんのビール醸造所
大津市で活動することになったきっかけを教えてください。
山下以前はプログラマーでしたが、妻があるとき、クラフトビールを買ってきて、おいしすぎて感動しまして。それまでクラフトビールのことをまったく知らなかったので、飲みながら検索したら、クラフトビールづくりはアメリカが進んでいるとか、日本でも昔からあるとか出てきて、飲み終わる頃に日本で作り方を教えている人がいるというのを見つけて、東京へ習いに行きました。その時は商売を立ち上げる気はまったくなくて、ちょっと趣味で楽しもうという感じでしたね。
酒税法の関係でいえば、アルコール1%以上はお酒と定義されるので、個人で1%未満のビールを作ることは許されています。プログラマー時代は新しい物事を調べて現実化するところまでを任されていたことが多く、もともと自分で調べて何かを作り出す、ということは好きでした。スパイスカレーにハマった時は、スパイスがずらっとキッチンに並んでいて、あらためて考えると職人気質のようなタイプかもしれませんね。
大津市で起業したのは、自宅が大津市だったからです。出身は兵庫県で、名古屋の大学へ行き、その後は全国各地で仕事をしながら最終的に大津市にたどり着きました。大津市はよそ者から客観的に見ても、おいしいものはいっぱいあるし、文化も歴史もあって、生活がしやすいし好きなことをやりやすい場所だなと思っています。今は自宅から車で10分ほどの店舗を借りています。もとは六畳二間の民家を改装し、その半分を工場にして、半分でビアカフェを営んでいます。
これまでにいろいろな依頼がありました。商工会議所や行政を通じて守山市や京田辺市のクラフトビールを製造したり、大津市のイベントでもノンアルコールビールを作りました。地元の雄琴温泉や龍谷大学からも依頼があります。龍谷大学の農学部が地域の菜の花栽培の活性化に協力していて、うちで菜の花漬けのビールをつくってお手伝いさせてもらっています。
地ビールは原材料がほぼ輸入品です。しかし地元産100%の地ビールを作りたいと、無農薬の農園にビール麦とホップを栽培してもらい、自社で麦芽を製造し、龍谷大学の先生が研究している野生酵母を使って作り、販売しています。

山下さんが醸造する地元産100%のビール(麦芽、ホップ、酵母全て)
山下さんにとっての地域活性を教えてください。
山下うちのビール工場は堅田エリアの中でもかつて一番賑わった商店街にあります。「以前はこの堅田に映画館が2つあって銀行もあって……」と話すおじいちゃんたちが、「こんな堅田でビジネスをしてくれるんやから、絶対失敗させたらあかんで」って応援してくださる、その思いをひしひしと感じています。自分が地域活性を担うというより、反対に地域で支えてもらっている感じですね。自分自身ももう少し事業を大きくしたいという思いがあって、野望としてはビールパークを作りたいと思っています。山があって、キャンプ場があって、ビール工場と飲食店、果樹園や畑があってそこで農業をしながら6次産業までつなげられるような事業を作りたいと思っています。こういうことを話していると、やっぱり動いてくださる方が増えてきて。こうした期待に応えられるよう、いずれビールパークを作ってそれが地域の観光スポットになったり、これまで手がけてきている「食✕クラフトビール」が地域の目玉商品になればいいと考えています。あえて地域活性化をめざすのではなく、私も含めてみんながそれぞれに自分の好きなことを追いかけてやり続けていった結果が、自然と地域活性につながっていけばいいと思っています。

山下さんがビール醸造で使用するビール麦(刈り取り前)
自分の夢や目標を
応援してくれる人がいるから
自分も人の夢を応援したい。
山下さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
山下今、ビアカフェにスタッフが3人いますが、そのうち2名は妻のママ友です。2人とも違う仕事をしていましたが、「将来はカフェをやりたい」と話していたと妻から聞いて、当時は土曜日が定休日だったので、家賃はいらないから夢の実現に向けて練習してくださいと店舗ごと貸していました。2人は現在うちのスタッフですが、楽しそうな働きぶりを見ると、夢の実現のお手伝いができるっていいなあと思って。ビール講座に来ていた人たちが、いざビール工場を立ち上げた時も、夢や目標に貢献できた喜びを感じます。好きが高じて始めたビール作りですが、自分の仕事や夢を応援してくれる人がいる。だからこそ自分も夢を追う人を応援し続けていきたい。それが私にとっての“EVOLUTION✕LOVE”です。
現状で足りていないことはありますか?
山下自分の夢であるビールパークを作る資金ですね。やっぱり大津市内に作りたいと思っているので、スポンサーになっていただける方がいると嬉しいです。
山下さん、ありがとうございました!地元の食とクラフトビールをかけ合わせて新しい地元の名物を生み出すことや、人の夢を応援することが自然と地域や社会への貢献につながっていく、そんな山下さんの活動を、今後も応援させていただきます。