
Interview Vol.99
マルシェやシェアファームの運営を通して
大津市北部に住む人たちの豊かで楽しい暮らしを創出。
EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第99弾の今回は、滋賀県大津市でシェアファームや蓬莱マルシェを中心とした活動を行い、自分たちが楽しく暮らせるまちづくりに力を注ぐ岡山泰士さんに話を伺いました。

シガーシガのメンバーの皆さんと岡山さん(写真右) 《撮影:山崎純敬さん》
自分が思い描いた
暮らしを手に入れるために
大津市へ移住。
現在の活動について教えて下さい。
岡山建築事務所「Studio Monaka」を共同経営し、オフィスや店舗、商業施設などの建築・設計・改修など建築に関するさまざまな業務を行っています。そのひとつとして、他社と共同で京都の史跡、舟岡山公園の公園管理事務所を活用しつつ、公園の新しいあり方や活用の仕方を提案しながら運営しています。
また約8年前に滋賀県大津市に移住。5年前に「一般社団法人シガーシガ」を立ち上げ、シェアファームやマルシェの運営、移住・起業相談、ワークショップや地域のツーリズム開発などを行っています。仕事の場と生活の場を横断しながら、大きな2つのプログラムをやっている、という感じですね。

エコツアー時の様子(撮影:山崎純敬さん)
大津市で活動することになったきっかけを教えてください。
岡山建築家として、建物を造るだけではなく、そこでの営みをセットで考えたいと思って京都で起業しました。結婚し、京都の町家で生活していたのですが、隣のインターホンが聞こえるくらい家の壁が薄くて。僕は町家独特の吹き抜け構造が気持ちいいなと思っていたのですが、長屋なのでネズミが走ったりすることもあり、奥さんが「ちょっとここでは暮らせない」となって家を探し始め、滋賀県大津市の旧滋賀町と呼ばれるエリアに引っ越しました。
でも仕事が忙しく、朝イチで仕事に出かけて夜戻るという生活が続き、「なんかこれは自分が望んだ生活じゃないな」と思って。自分が暮らしているエリアを豊かにする活動がしたいと思い、地域の美術家や写真家、福祉家と4人で「一般社団法人シガーシガ」を立ち上げました。メンバーのひとりから「福祉関係の施設があるから、ここを地域に向けて開かれた場にしてはどうだろう」という提案があり、その横にあった耕作放棄地を開墾してシェアファームを作りました。そこは社会復帰をめざしている人が働く就労B型施設だったので、シェアファームなら定期的に畑を耕しにくる人たちとコミュニケーションを図ることができてよいのではないか、という考えからです。ちょうど2020年のコロナ禍で僕も仕事をすることがなくなったので、1ヶ月かけてみんなで開墾しましたね。それが、今の活動を始めることになった最初のきっかけです。
「シガーシガ」では、どういう活動をしていますか?
岡山シェアファームを運営するうちに「マルシェをやってみよう」という話になり、月に1回「蓬莱マルシェ」を行うことになりました。都市部からもいろいろな人が訪れてくれるようになって、地域の方といいバランスで交われるようになり、今の活動の核のひとつになっています。またこのエリアの暮らしを伝えるメディア「RE edit」を立ち上げて情報を発信したり、地域の人たちが行っているワークショップを地域外の人たちも使えるようなサービスを構築するなど、自分たちが暮らす地域を豊かにするための活動を積極的に行っています。どちらかというと、遊びながらいろんな事業を作り、仲間を増やしているっていう感じでしょうか。「蓬莱マルシェ」は結構リアルな地域の人のショウケースになっていて、出店者と参加者の間で適度にコミュニケーションが取れているようです。またマルシェを訪れた人が「ここなら移住してもいいかも」と思ってくれるらしく、移住者もけっこう増えています。地域の人たちを紹介するコミュニティ冊子「RE edit」の制作・発行も、さらにこのエリアの解像度を上げるツールになっていると思います。僕個人も、移住者が増えて友人がたくさんでき、寄り道できる場所も多くなりました。
大津市北部エリアは田園が広がっていて、実はそんなに仕事がない。だからこのエリアに、小さくてもいいから人が住み続けけられるような経済圏をたくさん作ることが「シガーシガ」のコアな目標でもあります。

マルシェの様子(撮影:山崎純敬さん)
岡山さんにとっての地域活性を教えてください。
岡山豊かな街ってなんだろうと考えた時に、大切なのはそこに住む人たちが滞在する時間が長い街だと思っています。僕もこれまでは、仕事場と家を行き来している形で、ほぼ家にいなかった。でもこの街にいれば、例えば自分が街の喫茶店に立ち寄ることで経済を潤すことができます。マルシェを通じて仲良くなった人たちが、比良(ヒラ)エリアにある倉庫を買って実店舗化していますが、それも地域のみんなが寄り道できる場所となっています。また大津市の比良には、60〜70代のおじいちゃんおばあちゃんが昔から運営しているイベントがあるのですが、今は蓬莱マルシェに関わっている若い世代が実行委員会を引き継いでいて、その関連でマルシェに出店している人たちも参加したり、横のつながりが広がって街全体に協力体制が生まれている気がします。ある意味、マルシェを通じて環境醸成ができたのではないかと思いますね。街を活性化するということは、住んでいる人たちが立ち寄れる場所や街を楽しむための遊びを増やすこと。それをみんなに伝えることが、自分にとって大切な仕事だと感じています。

移住者交流会(撮影:山崎純敬さん)
日々の暮らしを
丁寧に紡いで作る
豊かな生き方。
岡山さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。
岡山僕の中で大事に思っていることは、自分たちの豊かな暮らしを自分たちの手に取り戻すということです。例えば、僕は味噌と醤油は家で作っているし、山の中に住んでいて除雪車が入れないから、除雪は自分でやっている。都会だといろいろな社会制度やサービスを当たり前に感じますが、ここに住んでいると自分たちの暮らしのことを全部自分たちの手で作り出していて、それが当たり前という人がたくさんいる。そこに自分が足を踏み入れることで、自分も一つひとつの暮らしを自分の手に取り戻している感覚があります。その過程がすごく楽しいです。一見、退化しているように見えるかもしれないけれど、自分の中ではすごく進化していること。そのことを愛することはすごく大切なことだと思うし、みんなに伝えていきたいと思っています。それが私にとっての“EVOLUTION✕LOVE”です。

志賀町の景色(撮影:山崎純敬さん)
10年後、20年後はどうなっていたいですか?
岡山今やっていることは頑張ってやっていることではなく、ライフワーク的にやっていることなのです。10年後、20年後もここに住んでいると思うから、ずっと続けているんじゃないかなと思います。このエリアは集落がすごくきちんとしていて、古い風習も残っていて、いい意味で移住者と二層関係を作っています。僕は来年から消防団に入って、もっと地域のネットワークを広げたいと考えています。10年後、20年後は、こうした集落を、決してひとつにまとめるのではなく、それぞれのコミュニティとしてつなぐことができたらいいなと思います。多分すごく時間がかかることだとは思いますが、それぞれの役割を地域の中で話せるような関係性が築けたらいいですね。
岡山さん、ありがとうございました!「シガーシガ」でのさまざまな活動を通して、人と人、エリアとエリアをつなげて豊かに暮らせるまちづくりを行う岡山さんの多岐にわたる活動を、今後も応援させていただきます。