空でつながろう

Interview Vol.2 東京に24番目の新たな区
「屋上区」

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。

EVOLOVEが目指すのは、様々な人や地域を繋ぎ「共創」の可能性を模索する中で、みんなで進化していくこと。このインタビューを受けた方が、次の人にバトンを渡す企画を通じて、日本全国にその輪を広げていきます。前回のインタビューに登場していただいた「青空ルネサンス」のお二人からのご紹介で、東京24番目の新区?「屋上区」の活動をされている、宿野部さん、和氣さんにお話をお聞きしました。

東京に24番目の新たな区 「屋上区」

屋上区主催メンバーと参加者の方々

「屋上区」の前身、
「東京アルプス」というキッカケ

Q.「屋上区」の活動を開始した経緯は?

宿野部屋上区の始まりは、千代田区にあった、文化庁が支援していたアートプロジェクトスクール(今はもうない)に私と和気さんが通っていて、そこで知り合いました。そのスクールで地域課題解決のテーマとして、「屋上」に着目し、和氣さんを含む他のメンバーと意気投合しました。屋上って行けそうで、行けない場所というイメージがあり、色々な表現ができそうという可能性を感じたことや、私が青森出身だったこともあり、海や山には気軽に行けなくても、眺めが良く、自然を感じる場所が屋上だったのです。屋上を山々のように登ってみよう。そんな思いから、「屋上区」前身でもある「東京アルプス」という活動を始めました。

和氣私は東京生まれ東京育ちですが、屋上は、「屋上」東京において、まだ名前がつけられていない、ラストフロンティアなイメージがありました。宿野部さんと出会って「東京アルプス」プロジェクトにジョインしました。4人のメンバーがいましたが、なかなか具体的に話がまとまらなかったのです。このまま終わってしまったら勿体ない気がしていた中、国際芸術祭「東京ビエンナーレ 2020/2021」に応募する機会があったため、作品として仕上げるという目標をもって仕切り直しました。

Q.「東京アルプス」から「屋上区」へと変わりましたね?

和氣東京ビエンナーレに選出されてから、コア期間が始まるまでの間、2020年の秋に「東京アルプス」から「屋上区」へとコンセプトを考え直しました。東京の各地にあるビルの屋上の総面積は4,917ヘクタールもあります。それは、江戸川区に相当するほど広いのです。しかし、そのほとんどは未利用です。それらの屋上をオーナーと交渉し開拓し、様々なアート活動を行いながら、東京の新たな24番目の区「東京都屋上区」を設立するというのがコンセプトに決まりました。仮想の「屋上区」webサイトと屋上でのイベントを開催し、バーチャルと現実の両面から東京人の新たな生息地をつくりました。

そのアイデアの元になったのは、コロナでした。私個人は昔から屋上は好きで、自分だけのスペシャルな場所、隠れ家のような感覚でした。ですがコロナ禍の初期、公園で遊ぶのも憚られた時期がありましたよね?子供たちとどこへも行けず、息が詰まりそうでした。そんな時、最寄駅付近のビルに上がることが出来て、なんだか解き放たれた気持ちがしたのです。

コロナ禍で同じ思いをしている人がいるのでは?と思うと、この感覚を色々な人に共有したいと思いました。そこでまず、東京の総面積を調べてみることにしました。建築学会の論文で書かれているものがあり、その広さは驚くことに4,917ヘクタール、江戸川区とほぼ同じ広さだということを発見しました。
NOTEより「東京23区の屋上の総面積が気になった話....」)

「東京アルプス」「屋上びらき」など名前と形を変えながら活動してきましたが、24番目の区があるみたいに考えたら、1人でもみんなでもいられる場所という表現ができるという事で「屋上区」というコンセプトに辿り着きました。国際芸術祭「東京ビエンナーレ2020/2021」のソーシャルダイブというアートの枠で2021年の夏、「屋上区」プロジェクトがスタートしました。

東京に24番目の新たな区 「屋上区」

呼吸する屋上@銀座

Q.東京というエリアで活動、そこに注ぐエネルギーと愛は?

宿野部東京は生活の場で、郷土愛とは違うけれど、少しわかりづらいことかもしれませんが、同居人の良いところを見つけて好きになりたいというか、面白く居心地の良い場所だと感じています。そういったところから、東京の良さを見つけたい点が活動エネルギーになっているのかもしれません。

和氣東京出身ですが、地元愛というより、この街が誤解されにようにしたいという気持ちが強いかもしれません。東京は華やかな街だとか、怖いイメージを持たれることもあるけれども、私にとっては、ただ普通に住んで暮らしている人たちがいるという、「普通」のフラットな街。実は小学校の頃に、自然がなくてつまらない街でいやだという感想文を書いたこともありますが、今となっては、東京は友達みたいな感覚。街が変わっていく様を感じながら変化に気づき、見守っている感覚があります。本当はどういう街なのかを客観的に分解したいという思いがあります。その取り組みの一つが「屋上区」です。

東京に24番目の新たな区 「屋上区」

空見インスタレーション@原宿(東郷神社境内のビル)

Q.遊休地の活性化が、活動の動機ですか?

宿野部それもあります。一度「屋上」という魅力的な場所に気づいてしまったので、その楽しみをみんなで共有していきたいです。東京は街の変化が激しく、山と違って景色が変化するので、そこが醍醐味だと思います。名古屋の「青空ルネサンス」のような、他の県でも屋上に注目して活動している人たちがいるので、一緒に盛り上げていきたいですね。

和氣これまでプロジェクトに関わってくれた人たちはみんな、屋上に投影する想いが違います。屋上の場所によっても人それぞれです。各人の屋上に対する気持ちを共有しながら、みんなで楽しんでいく、それが活動を続けていくモチベーションになっています。「屋上」という、東京の名もなき場所で、それぞれ共有したことを話し合っても良いし、過去の屋上に関するエピソードを話し合っても面白いし、屋上に行って何かを思うというだけでも、もう素敵な感じがしてしまいますね。

宿野部屋上って、セキュリティとか制約があって、実際に使おうとすると大変なんです。でも、宗教的な感覚かもしれないのですが、屋上っていう桃源郷があるって思うだけで幸せになるような感じもするし、人にとって救いになるような場所となれば良いと思います。

和氣ただみんなで集まって何かやりましょうというだけでなく、名前がつけられていない「屋上」という場所で一人の時間を過ごすというのもありだと思っています。リアル施策と虚構施策があるのですが、「屋上区っていう区があるらしい」という噂だけで、日々ワクワクする感じがしませんか?そんなワクワクを作っていきたいなと思っています。

東京に24番目の新たな区 「屋上区」

屋上びらきテープカット

Q.「屋上区」では戸籍を発行しているそうですが、何人ぐらいいらっしゃるんですか?

和氣イベントに来てくださると、屋上区民として戸籍を発行することができます。これまで戸籍を登録してくれたのは100名くらい。区民の特典は未だ考えていないのですが、今後は屋上区民の交流を深められると良いなと考えています。

多くの方に伝えたい「屋上」LOVE

Q.お二人にとって、進化する愛、EVOLOVE(EVOLUTION × LOVE)とは?

宿野部個人的な意見ですが、今は家族と離れて暮らしたり、家族間でも愛を感じられない方が多い時代だなと感じています。そんな社会だからこそ、新たな家族像でビジネス的な目的がない関係性は必要だと思います。昔だったら醤油を借したりとかするご近所づきあいがあったように、余計なことを考えずご近所さんとの交流ができるような街づくりをしてみたいと思いました。

和氣先ほども少しお話ししましたが、「屋上区」コンセプト誕生部分と同じで、自分だけの感覚だと思っていたものが、「進化」と「変化」を繰り返し、多くの人と共有したいという気持になりました。「屋上区」では一人でただ過ごすだけでもいいし、他者と空間を共有してもいい。自分の中の感覚が開いて、他人と交わっていくこと、そこが自分なりのEVOLUTION LOVEであるかもしれません。

東京に24番目の新たな区 「屋上区」

ウィッシュバルーン 願いを空に届ける(撮影:坂中 雄紀/Yuki SAKANAKA)

Q.屋上区の活動を通して、誰と誰、何と何を繋げていきたいですか?

宿野部一番はビルをお持ちの方と繋がりたいですね。あそこのビルに登ろうよ、あそこの屋上に行ってみたいねということを広げてみたい。ビルを見るだけで、面白いし、ビルをお借りするときにオーナーさんや企業さんのお話を聞けるのでその話を聞くだけでも、とても面白いです。

和氣「屋上区」の活動していると屋上で藍を育てたいという藍の振興をしている方など、他の方から屋上を活用できないかというお声がけをいただいたりします。多くの方を繋げたらと思います。

宿野部新しい可能性として、現在も養蜂、植物、ワインなど、すでにおこなっている事業だけでなく、もっとできることもあると思います。ただ、まだ多くの場所が開放されていないので、まずは使用に関するハードルを下げることや心のハードルを低くしたいです。実験的なことを色々なことをしてみたいですね。

東京に24番目の新たな区 「屋上区」

「屋上区ノ図」(アートワーク:和氣明子)

若者へメッセージ

Q.若い人に対してどう思いますか?メッセージなどあればお願いします。

和氣これから、ますます大変な時代を迎えるだからこそ、失敗しても良いので、チャレンジした方がいい。誰に否定されても、自分らしい、やってみたいことをやった方がいいと思う。

宿野部今の子は、「立派な大人な子」が多い気がします。たくさんの情報にタッチできるから、賢い人は道筋が見えてしまうのでしょう。それだと抗えないので、情報を見ないでやってもいいのかなと思います。もっと個性が突出した子にも会ってみたいですね。

   ありがとうございました。これからも「屋上区」の活動から目が離せませんね。次回も他の県の方へのバトンを繋ぎ、EVOLOVEの輪を広げていければと思います。