空でつながろう

Interview Vol.3 釜戸で燃え始めた
「クラフトビール」という炎

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思います。今回は岐阜県瑞浪市釜戸町でクラフトビールをつくっている「カマドブリュワリー」東さんにお話をお聞きしました。

「クラフトビール×美濃焼」による地域おこしのため、地元にUターン移住

カマドブリュワリーを運営する東美濃ビアワークス 社長 東恵理子さん(左から3番目)

Beer Loverが生み出す方程式「カマドブリュワリー×美濃焼」

Q.なぜクラフトビール事業を始めたのですか?

はじめは、北海道のテレビ局で報道記者・ディレクターとして地域の情報を伝える番組を作っていましたが、その後、青年海外協力隊に参加することにしました。地域のコミュニティラジオ局の番組作りを支援する役割としてバングラデシュに派遣され、現地の人たちの声なき声を発信するという業務を行っていました。私が行った時には番組コンテンツは既にたくさんあって、自分がやれる仕事は残っていないのではないかと感じました。でも、現地の文化や暮らしを体験するうちに、現地の人たちの健康状態が悪く糖尿病の人も多いことがわかり、バングラデシュの国民的なラジオ体操を作ったらいいのではないか?というアイデアを思いつきました。ここで0を1にする楽しさや価値を学べた気がします。宗教も言語も違う人たちと出会い、「無いものは自分で作る」という精神が生まれました。

日本に戻ってきてからは広告業界で地域活性化の仕事をしたのですが、地元の岐阜県ではなく、自分に縁がない地域を担当している中で、生まれ故郷のためにこれまでの経験を活かして事業ができないだろうかと思うようになったのが経緯です。

なぜクラフトビールかというと、私自身、ビールがとても好きだったからです。また、岐阜県は美濃焼という陶器が有名ですが、近年は中国などの安い食器もあったりして、食器だけのビジネスは難しいと感じていました。そこで、地ビールと美濃焼を掛け合わせた時に、ここにしかないようなコンテンツができるのではないかと思って、ビジネスの骨格を考えました。

Q.生まれ故郷に思いを注ぐようになった理由は?

正直、「地元が大好きで大好きでたまらない」、というほど地元愛が強いわけではありませんが、地元の方も誇れるようなものを見つけて、形にしていくのが自分の仕事だと思っています。ここでは昔から陶磁器を作っていたり、職人気質の強い人たちが多く、良いものを作ることにはこだわっています。でも、素晴らしい商品があるのに、そこに購入に繋げるような体験を加えるとか、売れるラベルでブランディングをするとか、作り手の想いを伝えるということは苦手なのが勿体無いように見えました。

そこで、自分がこれまで経験してきたメディアや海外での経験が役に立つのではないか、という気持ちが、地元の地場産業やビール事業を盛り上げたいと思うようになったのかもしれません。いわゆる地元愛とは違うかもしれませんが、こうやれば新しいことを作っていけるんだ、これだと面白そう!という好奇心から、いろんな事が出来る可能性を感じたのかもしれないですね。地元である岐阜県は、「何もない場所」と一旦は外へ出ましたが、今は可能性を感じて一つ一つ形にしているところです。

Q.最初は、「ビールの会」から始まったのですよね?

東濃地方、多治見市でまちづくりをしていた岡部さんと共通の知人を通じ飲み会で知り合い、お互いにビールが好きで、まちづくりを行っていることもあり、すぐに意気投合しました。彼は過去にドイツに住んでいたことがあり、街々にクラフトビールが存在するという文化を体感していたため、日本でも地域ごとにクラフトビールを楽しむ文化を作っていけるのではないかと思っていたようで、ビールでのまちづくりの可能性を信じていた1人でした。美濃焼の盛んな岐阜県東濃地方ならではのアイデアとして、液種ごとに美濃焼のビアカップを陶芸家と開発制作するというアイデアも固まりました。

そこで、まず最初は「ビールの会」を開催し、陶芸家、観光に関わる人など色々な人たちに集まってもらって、私たちが選んだビールと地元のソウルフードのペアリングをするというイベントを開催したのです。栗きんとんと白ビールが合うとか、五平餅にはこのビールが合うね、という発見や議論が楽しくて、何回か開催しました。

そんな中、ビール酵母の魔術師として丹羽さんについて知ることとなり、直ぐアポを取って会いに行きました。

「クラフトビール×美濃焼」による地域おこしのため、地元にUターン移住

すぐ行動するフットワークがいいですね

バングラデシュに居た時に、暴動が起きたり、テロの脅威があったりして外出ができなくなることもあったため、行ける時に行かないとダメなんだという経験があったからかもしれないです。すぐ行動する、ということを信条にしています。

酵母の魔術師 丹羽さんと出会ったあとの展開を教えてください

出会った当時、丹羽さんは山梨でビール作りをされていたので、山梨まで岡部さんと2人で行きました。初めて会った私たちにとても良くして下さいました。3人でビールについて語っていると、丹羽さんが60歳を過ぎていたこともあり「最後は故郷の岐阜に戻ってビール作りをしたいと思っている」というお話を聞きし、交流が深くなっていきました。

地元のお祭りで、テスト的に丹羽さんの作ったクラフトビールを売ってみたところ、1時間ほどで売り切れてしまって、ビール作りへの想いが高まりました。丹羽さんとも話し合い、一緒に会社を立ち上げてみようとなりました。醸造の場所は決まっていなかったので、どこにしようか考えていると、ありがたいことに、町の人や知り合いが場所探しを手伝ってくれたり、情報提供してくれました。何もないところから何かを立ち上げようとしていた私たちのことを応援してくれたのだと思います。

「クラフトビール×美濃焼」による地域おこしのため、地元にUターン移住

「Beer Love」から進化する想い繋がる人々と広がる可能性。

Q.この後、進化させていきたい想い/Love は?

クラフトビールから派生した色々なものが産み出されていきます。例えば、ビールを仕込むと麦芽のカスが出るのですが、それを活用しようとする取り組みをしています。その中の一つは、麦芽のカスを小麦粉のようにしたスーパーフラワーなのですが、小麦粉の40分の1くらいのグルテンで、それでパンやグラノーラバーを作って販売する計画をしています。

そして、ビールを通して釜戸町を含む東濃地区一帯を盛り上げていきたいと考えています。もちろん全国のビール好きの方々に私たちのビールを飲んでいただきたいです。

Q.現在困っていることはありますか?

釜戸町には空き家がたくさんあり、年々増えています。私と町の有志で探しているのですが、手が回らないほど空き家が増えている感覚があります。廃業する旅館もありますので、空き家や旅館で何かをやりたい人を探したいですね。譲渡したい空き家もあるので、趣味の家にしてくれる人がいたらいいなと思っています。お試しで来てくれるだけでも良いので、もし少しでも興味があれば見に来て欲しいです。陶芸家とか山登りなど趣味のコミュニティで使ってくれるようになると嬉しいですね。

   ありがとうございました。

「ビールが好き」から始まり、地元に戻ってビジネスを立ち上げるに至った、パワフルな活動に注目が集まる「カマドブリュワリー」。様々な経験からアイデアを投入していくことで、地域が変化していく様子は楽しみですね。地域おこしのロールモデルとして、参考になります。

EVOLOVEプロジェクトが「空でつながろう」というインタビュー企画を始めたのは、それぞれの地域で色々な思いで頑張っている人たちはたくさんいらっしゃいますが、そういう人たちを繋げていったら、社会的なインパクトのあるメッセージを発信できるのでは無いかという可能性を感じているからです。私たちは自分達の住むこの場所を、もっと良い場所にしていきたい。街、暮らし、住まいが快適で幸せになるように活動をしていきたいと思っています。