空でつながろう

Interview Vol.4 高原と柱状節理の地、
曽爾村で「ふつうに暮らす」

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第4弾の今回は奈良県曽爾村で移住サポートをされている菊原さんにお話を伺いました。

高原と柱状節理の地、曽爾村で「ふつうに暮らす」

SONI SUMMITを運営する菊原さん(写真真ん中)

サステナブルマインドと地域活性化への想い移住サポートSONI SUMMITの役割

Q.この事業を始められたキッカケは何でしょうか?

菊原1年半ぐらい前に、曽爾村に来ました。その前は10年ほど農林中央金庫という金融機関に勤め、横浜に住んでいました。仕事を辞めるまでの最後の3年で取り組んでいた業務は、サステナブル事業の立ち上げや地域活性化に関する事業だったのですが、会社員としてビルの中に居ても解決できることへの限界感や、サステナビリティ(持続可能性)を金融の視点で考えるだけでは、本質的な解決はなかなか難しいのでは?と感じ始めていたことが、転職するきっかけとなりました。

サステナビリティを考えていくうえで大切な要素である自然資本にどう向き合っていくかを考えると、結局、自然資本にあふれる地域の現状への理解が自分自身に圧倒的に不足していて、いつもモヤモヤとした疑問をもっていました。このまま会社員として働いていてもその疑問は解消されないので、地域に実際に入ってみて事業を興すということをやってみたいと思うようになりました。最初は横浜に住んでいたので関東圏で仕事を探していましたが、なかなか思うような仕事が見つからず、出身地である奈良県を含めて探すようになったそんな折、曽爾村で移住定住を促進する組織を立ち上げて欲しいという求人を見つけました。

Q.奈良県ご出身ですが、曽爾村が地元ではないですよね?

菊原そうですね。「一人一人の声」を大切にしたい、という想いがありました。元々住んでいた横浜だと人口は300万人くらいいますので、一人ひとりの声は300万分の一になってしまいます。また、地元の奈良県香芝市も人口10万人規模で、今でも人口が増えているので、横浜と比べれば自治体レベルでより大きな比率の声を拾えますが、それでも意見を汲み取るにはサイズが大きすぎる気がしました。

そして、地域活性化に関わるのであれば、人口減少が進んでいる地域の方が、人口減少を課題としてしっかり捉えられていて、そんな新しいことを考えていくために村の人たちも一緒に動いてくれるのではないか。また、村の一人ひとりの声が聞けるのではないか。そう考えました。

それから、自分自身で熱い思いがあったとしても、それが一人相撲にならないように、地域住民のマインドが前向きかどうかも重要だと思っていました。そして、何度もこの地に足を運んだ結果、曽爾村には、村民と一緒に取り組めそうだという雰囲気を感じました。この求人の採用担当者も熱意があり、タイミングや条件が揃っていたのは、本当にご縁だと感じました。

高原と柱状節理の地、曽爾村で「ふつうに暮らす」

曽爾村移住体験ツアー

Q.人口減少の激しい村は、課題も多いと思います。活動のエネルギーはどこから来るのでしょうか?

菊原この課題を解決するために、何かできることはないだろうか?なぜ人が出ていってしまうのだろうか?どうやったら人が来るのだろうか?という疑問は、1年半経った今でも、モヤモヤしています。このモヤモヤが私の原動力なので、これがなくなったときは別のことを探しているかもしれませんね(笑)

Q.そういう視点は、海外で生活していたからですか?

菊原確かにボストンで生活していた時も貴重な経験をしたと思いますし、成長したと感じますが、元は日本での大学時代からだと思います。その当時は、色々な国に海外旅行や留学をしていたことがあり、特に新興国に行くたびに感じていたことがあります。経済や見た目は日本の方が豊かに見えるのだけれども、日本人一人ひとりを見ると、なんだか疲れていて、気力がない人が多い印象がありました。一方、旅行や留学先では、国全体としては貧しいかもしれないけれども、イキイキとしている人が多く見られる気がしていて、人の幸せはお金が全てではないのかもしれないと感じました。それを理解するために、海外と金融に関する仕事をしたいと思い、農林中央金庫に就職したのだと思います。

先ほどと回答が同じになってしまいますが、昔から、疑問が出てきたらそれを解消するような動きをして、そういうモチベーションを繰り返しながら生きてきている気がします。その集大成として今の活動に繋がっているかもしれないです。

「ふつうに暮らす」というのがコンセプトですが、どんな想いからですか?

菊原法人を立ち上げるにあたって、3ヶ月くらいどういう組織を目指したいのかを議論していました。幸い移住/定住については、コロナをきっかけに沢山の人が関心を持ってくれています。ただ、たくさんある移住地の中で、どうしたら曽爾村に住んでもらえるんだろう、などと考えてみると、実は「移住」という言葉があまりに重く捉えられがちなのでは?というポイントに辿り着きました。

例えば、みなさんそれぞれにお住まいがあって、そこで生活している。それが仕事の都合なのか、自分の意思なのかは、わかりません。場所に関わらず、シンプルに暮らしていることそのものが、「ふつう」なのでは?という議論になりました。繰り返しになってしまうかもしれませんが、たまたま住んでいる場所が今の場所だったり、曽爾村だったりするだけのこと。「ふつうに暮らす」はそこから来ています。「移住」という言葉を使うとなんだか重く考えてしまいがちですが、単なる「引越」と考えてもらった方が良いかもしれないですね。

また、人によっては、農業をしたいと思い立ったのかもしれないし、都心での仕事に疲れて田舎に移りたかったのかもしれない。でも、そういうことがそれぞれの方にとっての「ふつう」なのではないかとも思います。
「移住」を、大それたこととして人を呼び寄せたいとは思いませんし、自然とこの場所やここに住む人に惹かれて、何か呼び寄せられたように感じる人が自然体で来てくれればいいなという感じがしています。ちなみに、私も知らなかったのですが、村の役場の職員は村民しかできないと思っていたんです。実は、3分の2は村外の人なんですよ。外の人の力を借りて運営しているのですが、そういう働き方もあるんだな、ということは、こちらに来てみないとなかなかわかりませんよね(笑)

高原と柱状節理の地、曽爾村で「ふつうに暮らす」

地域おこしワークショップ参加者の皆様

サステナビリティと
曽爾村でのこれからについて

Q.あなたにとってEVOLUTION×LOVEは?

菊原気候変動とかエネルギー・食料自給のことなどを考えたりすると、サステナビリティ(持続可能性)をなんとか経済性を持たせて実現させていきたい。例えば、地域の電力とか食べ物をどのように自給率を上げる形でうまく賄っていくか、をこの村で考えていきたいと思っています。
できるだけ生活水準を落とさない形で、サステナビリティを実現するようなトライアルの取組をしたい方がおられれば、その受け皿となれるような会社が地域にあると、実現に向けて一歩が進みやすくなると思っていまして、まさにそのような会社を作っていきたいな、と。会社でやるというのも、やはりボランティアだと持続性に限界があるな、と感じているため、経済活動として収益目線をしっかりと持ちながら運営し続けられるようにすることが大事だと考えていますが、考えている間にも、人口がどんどん減っていってしまうんですよね。。。

なので、今は人口減少の危機感の方が先にありますね。魅力のある地域の情報を発信して、イベントなどのプロモーションで一過性の人を集めるのではなく、この土地が過ごしやすいなと、来やすくなるようにし、持続的に滞留してくれる人を増やす方が、先にしなくてはいけない喫緊の課題です。

サステナビリティのような自分のやりたいことの前に、人口減少にどう歯止めをかけていくか、という大きな課題に急ぎで対応しないといけないのが現状だと考えています。「社会実験的」と言うと少し大それた表現になってしまいますが、それに近いものがあると思います。早々に試して、やってみないといけない状況ですし、先が見えていないので、実験的にやらないといけないのも現実です。今も多くの人たちと会話しながら、これをやってみよう、トライしてみよう、という感じで日々活動しています。

Q.現状で困っていることはありますか?

菊原圧倒的にプレイヤーが足りていないです。ボランティアではなく、ここで生活していける産業を作っていく必要があるので、意欲をもって、ビジネスを興そうとする人と繋がりたいですね。

または、面白がって、ここでの新しい生業に挑戦する人たちと出会いたいです。遊びに来てもらうだけではなく、住んでもらうためには仕事を作っていく必要があるので、サステナブルに住んでいける場所にならないといけない、そういう基盤を作りたいです。

これから事業を興そうとしている方で、特定の地域に拘らないのであれば、曽爾村にきてチャレンジしてもらいたいと思います。私も最大限の応援をしますので、飛び込んできて欲しいです。頑張りたい人をサポートする支援制度をこの1年半をかけて整えてきたので、もし地方で事業を興したいとか、場所を探している方がいらっしゃったら、気軽に連絡してもらいたいです。

あとは、色々な人と繋がることができると嬉しいですね。他の地域の人たちで同じ悩みを抱える人たちと、アイディアをシェアできると嬉しいです。他の地域の人たちとの繋がりは、もっと積極的に広げていきたいと思います。

Q.奈良県や曽爾村の若者のイメージはどうでしょうか?

菊原曽爾村には中学校までしかないので、若い人が少ない印象があります。中学を卒業するタイミングで、家族ごと他の地域に引っ越してしまうことも多く、子供の進学に伴って、転居してしまうパターンが多いですね。人口減の理由の一つなので、早急に対応していく必要があるな、と感じています。

   ありがとうございました。「移住」と気負わずに、少し滞在してみるところからスタートするのでも良いですし、日本の典型的な中山間地域で新規事業を興す場所を探している方は、一度見学に行ってみるのはいかがでしょうか?