空でつながろう

Interview Vol.44 鹿嶋を循環させる、
世代を超えた環境づくり。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行なっています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第44弾の今回は、茨城県鹿嶋市で、子どもたちと高齢者をつなぐ居場所づくり(ココプレイス)を行なっている、前田友美さんにお話を伺いました。

鹿嶋を循環させる、世代を超えた環境づくり。

居場所づくりを経営されている前田さん(写真中央)

出産・育児で実感した、環境の大切さ。

現在の活動について教えてください。

前田色々な活動をしているのですが、以前は理学療法士として病院に勤めていました。その後、夫の転勤で鹿嶋へ。専業主婦も考えましたが、子育てだけの生活に無理を感じて、整体やバランスボールのインストラクターの資格を取得して、運動指導やボディメンテナンスのレクチャーゼロイチ起業ママの支援をしています。ほかには子育て支援として、鹿嶋市の子育て支援関連の委員をしたり、県内の他の子育て支援団体のメンバーでもあります。その一つとして昨年6月に子ども食堂を立ち上げ、現在は4月の2拠点目のオープンに向けて動いています。

活動の原動力となるものはありますか?

前田環境を変えたいという想いは強くあります。もともと私は、先生の言うことを真面目に聞くタイプで友達も少なかった。理学療法士になったのも、子どもの時に読んだ本がキッカケで、特別な思い入れはありませんでした。

そんな私に子どもが生まれ、価値観が一変しました。子どもがいたらすべて子ども中心。予定通り家を出ることもできないし、お金も時間も自分のために使うゆとりがない。今までのキャリアも全部、ゼロスタートになった感覚でした。そんな時に、起業しているママに出会って自分の気持ちに向き合った時、「環境」を整える大切さを思い出しました。

虐待やいじめは、本人の意思に反して、歯止めが効かなくなって加速するケースが多くあります。自分が子育てしてみて、そういった行動に出てしまうのは、家庭や置かれた状況といった環境によるものが大きいと痛感しました。ですから私が運営している居場所づくりは、便宜上「子ども食堂」と名乗っていますが、親子とお年寄りの3世代交流という意義が大きいです。

鹿嶋を循環させる、世代を超えた環境づくり。

居場所づくりへ来られる子供達と高齢者の方々

鹿嶋市への想いについてお聞かせください。

前田「何もないのが当たり前」という考えを変えたいです。とある職場で働いていた時に同僚と子育て支援について話していて、「何もないのが当たり前だから、疑問に思わなかった」という人の多さに驚きました。鹿嶋市は実は転勤族が多く、現状に疑問を感じて行動を起こしているのは、転勤してきた外の人たちが中心。もともと鹿嶋にいた人は、「ここは何もないところだから」で終わってしまう方が多いのが現状です。たとえば市内には、雨の日に親子で遊びに行ける場所がほとんどありません。私はそういう時、車を走らせて市外に出ますが、地元の人は市内メインの方が多い。少し動けば色々な情報をキャッチできるのに…。自分の活動を通してそうした現状を変えて、地元の人を巻き込みたいです。

地域活性化について、どのように考えていらっしゃいますか?

前田やはり、とりあえずチャレンジすることでしょうか。行政もですが、新しいことを提案しても「前例がないから」と断られることが多い。行政に頼るだけではなく市民も積極的に動く。そうした慣習が続いてしまっているので、もっとチャレンジしたり、ないものを新しく作ることが、地域活性化だと想います。

ボランティアの価値を高め、
「踏み出す勇気」につなげる。

前田さんにとっての”EVOLUTION x LOVE”を教えてください。

前田ボランティアという活動への意識が変化しました。一般的にボランティアって、「やったら内申書に書けるよ」とか「ボランティアやってるなんて偉いね」と言われがちですよね。それは若い世代も高齢者も、同じイメージを持っています。私の場合、最初は子どもを連れていけるという理由で、ボランティアをしていました。しかしある日、「この世のもので決して戻ってこないものは時間だ」と気づきました。その時に無償で時間を提供するボランティアはあくまで入口で、その後の継続が大切だと感じました。ボランティアの原則の一つに自主性がありますが、今の時代、無償で自主的に継続した活動をする人はどのくらいいるのか、疑問ですよね。それなら活動を循環させる意味で、有償ボランティアという枠組みをスタートさせました。支援する人に対しても、ボランティアが支援をするのは、あくまで入口であり、ご縁づくり。そこからちゃんと稼いで、自立していくための支援をしていく必要があると思っています。

ですから運営しているココプレイスも、2拠点目を作っています。それはやっぱり、ボランティア=すごいことではなく、「この活動をすることで喜んでくれる人がいる。喜んでくれる人がいるから収入(対価)になる」ということを伝えたいから。現在の活動を通して、困っている人が一歩踏み出せる環境を作りたいし、子どもたちにも学校が全てじゃないと伝えたい。可能性があることを、発信していきたいですね。

鹿嶋を循環させる、世代を超えた環境づくり。

子供達と作る作品

10年後20年後のビジョンはありますか?

前田私のテーマは循環。町が循環していくために、やりたい人がやれることをやればいいと思っています。たとえば子育てに悩んでいる人は、子育てが得意な人と一緒に子育てすればいいし、料理が得意な人は料理が苦手な人の代わりに作ってあげたらいい。今、一緒に活動しているスタッフは実は、起業した人や悩みを抱えている人が中心。来た人が何でも相談できるようにという視点で、スタッフを集めています。

またお年寄りの循環も感じます。これは気持ちの変化という意味合いですが、たとえば以前、「ここは何をする場所なの?手遊びや体操をしてくれると思った」と怖い顔で言われたことがありました。「ここは子どもと触れ合う場なので、そういった活動は公民館で探してみてくださいね」と満面の笑みでお答えしたのですが、引き続きいらっしゃって…。しかし徐々に「毎回食事のメニューを考えていて偉いね」と言ってくれたり、笑顔が見えてきたりといった変化を感じました。ほかにも自然に洗い物を手伝ってくれたり、私の実家の農園が作ったみかんを食べて「みかんが苦手で何十年ぶりに食べたわ」と仰っていただいたり。高齢者と子どもなど、世代を超えて関わる場を設けることの大切さを実感したので、今後も異世代のつながりを大切にして、循環を進めていきたいです。

現在の活動で困っていることや足りないことはありますか?

前田子育て支援=無償・低価格というイメージを払拭したいです。今回2拠点目を作る上でも、1回につき1,500円ほどを想定しています。その額が一般的な子ども食堂と比べて高いため、行政として飲食店営業にあたると言われました。食事はもちろん、空間やスタッフ、時間などすべてに価値を見出しての値段として捉えているのですが、行政にとっては前例がないため、OKが出ない。保健所の方も「個人的にはその意義に賛成だけど、前例がないから」と、改めて前例がないことを実現する難しさを痛感しています。

とはいえ今の小学生は、放課後、校区外に遊びに行けないという決まりがあります。子どもたちの世界を少しでも広げるため、この活動を校区に1つ作りたい。子どももお年寄りも歩いて気軽に立ち寄れる場所を点々と作ることで、ご縁をつなぎたいと試行錯誤しているところです。

最近の若者に対して感じることはありますか。

前田やりたいことは折れずに挑戦してほしいです。やりたいことを続けていれば、応援してくれる人は必ずいる。辞める場合も周りの意思で辞めるのではなく、自分の意思で決めてほしい。芯を貫き通していいと思います。

また、リアルなつながりはやっぱり大切です。今は情報過多の時代で、情報の取捨選択がとても難しい。買い物も何でも家で完結してしまうので、引きこもりや人間不信になる人が増えていると聞きます。便利な世の中ではあるけれど、リアルなつながりも大切にすることで、自分や周りの環境が循環していくのではないでしょうか。

   前田さん、ありがとうございました!子育てをキッカケに、様々な地域の循環を生み出している前田さん。2拠点目の子ども食堂を通して、世代を超えたご縁がつながっていくことを楽しみにしています!