空でつながろう

Interview Vol.132 京都市で「アトツギラボ」を展開し、
“アトツギ”たちをつなぎ、応援しながら
新たな可能性を生み出し、未来へ継承する。

EVOLOVEプロジェクトでは、日本全国47都道府県にて「地元愛」を持ち、積極的に地域活性に力を注ぐ方々へのインタビューを行っています。これまでの活動内容から、この後どのように「地元愛」を進化させていくか。未来へ向けたチャレンジを、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。第132弾の今回は、京都府京都市で市役所に勤務しながら、アトツギ世代のコミュニティづくりを運営する「応縁堂」の代表を務める小野寺亮太さんに話を伺いました。

京都市で「アトツギラボ」を展開し、“アトツギ”たちをつなぎ、応援しながら新たな可能性を生み出し、未来へ継承する。

小野寺亮太さん

公務員に染まらず、外に目を向け、
後継者たちのコミュニティを設立。

現在の活動について教えて下さい。

小野寺京都市役所の職員として働きながら、2024年に任意団体「アトツギラボ」、2025年からは「一般社団法人応縁堂」を立ち上げ、「“人類みなアトツギ”を応縁する」をスローガンに、中小企業のアトツギ(若手後継者)を応援する活動をしています。まちづくりや地域活性化に取り組む行政マンとして働きながら、一般社団法人という民間で自由な動き方ができる立場の二輪で動いています。

京都市で「アトツギラボ」を展開し、“アトツギ”たちをつなぎ、応援しながら新たな可能性を生み出し、未来へ継承する。

一般社団法人応縁堂理事のお二人と小野寺さん(写真左:鈴木 粋さん、写真右:村山 俊輔さん)

京都市で活動することになったきっかけを教えてください。

小野寺私は滋賀県にある三井寺の門前で和風レストランと土産物販売を営む店の長男として生まれました。現在私は家業を継いでおらず、繁忙期にお店を手伝う程度です。お寺の門前で商売をしていることもあって、両親は基本的に365日働いています。休みなく働いて、なかなかゆっくり遊びに行けるような時間もないという感じです。幼少の頃からそういう姿を見ており、家業を継いでほしいと言われたこともなく、私自身家業を継ぐ気がありませんでした。

ただ、家業がある長男という自覚はあるので、就職活動を控えた大学3年の時、父親に「公務員を目指そうと考えているが、家業は継がなくてもいいのか?」と話したところ、父が「好きなことをやればいい。ただし、公務員になってもいいけれど、公務員になるな」と言ってくれました。これは「公務員に染まるな」というメッセージでした。その言葉が自分の中にすごく残り、堅苦しい公務員に染まらないためにはどう意識・行動したらいいのか?と常に問い続けるようになりました。

私の答えは、「外に目を向ける」ということでした。なるべく外の人との交流・接点を増やす活動を意識したわけです。その一つに、約4年前に仕事で参加した地域や社会の課題解決を目指す金融機関との連携プロジェクトが大きな転機になりました。たまたま同じチームになったメンバーが家業を継がずに金融マンとして働いている人で、自分との共通点をきっかけに、家業がある人にアプローチしてみようということになったのです。

同級生や先輩・後輩など、自分の周りにいる家業がある人たちに「なんで家業に戻ってきたのか?今はどんな課題があるのか?今後どうしていきたいか?」とインタビューをして回りました。それまで私自身は家業を受け継ぐことに対して肯定的に捉えていなかったのですが、みんなの話を聞くと「自分の代ではこうしていきたい」と前向きに家業を捉えている人が多く、だんだん「家業を受け継ぐのって面白いんじゃないか」と思うようになりました。

しかし、自分が家業を継ぐというところまでには至らなかったのですが、昔からコミュニティや活動の場を作ることは好きだったので、まずは家業を継いだ人たちを集めた飲み会から始めました。そのうち、ただの飲み会だけでなく、「もう少し学びや気付きも生まれて、かつ、楽しく交流できて、仲間が見つかる場づくりがしたい」と考えるようになって「アトツギラボ」の立ち上げに繋がります。

活動を続けていくうちに色々なご縁をいただくのですが、企業とコラボするイベントは任意団体だとなかなかできないし、公務員という立場を活かして、出島的に活動するのは自分自身のブランディングにもなると思ったので、一般社団法人を立ち上げました。今は、起業家でもある中学時代からの同級生と10歳下の後輩に応縁堂の活動を支えてもらっています。概ね、京都では月に1回、滋賀では2ヶ月に1回、活動を行っています。

京都市で「アトツギラボ」を展開し、“アトツギ”たちをつなぎ、応援しながら新たな可能性を生み出し、未来へ継承する。

アトツギ縁日に参加した皆さんと

応縁堂の活動によって変化はありましたか?

小野寺最初は「悩みを共有したい」「同じ立場・境遇の人と話をしたい」というところから始まりましたが、今では「協業・共創したい」という次のフェーズに向かいつつあります。

アトツギの人たちは家族や社員に相談できないことが意外とたくさんあります。こうした悩みを話せるサードプレイスの場として徐々に認識されてきている実感はありますし、ビジネスから始まったコミュニティではないので、友達のような関係性が生まれる場として浸透してきたかなと思っています。

「アトツギラボ」に参加してくれている学生で、とある料亭のアトツギ候補の学生がいます。以前は家業があることをすごく言いづらそうにしていたんですが、先輩アトツギと交流するうちに、今では「自分は料亭のアトツギです!」と積極的に言うようになって。私もそうでしたが、「跡継ぎ(後継ぎ)」と聞くと、ボンボンとか親の七光りとか遊んでそうとか、あまり良いイメージがない側面もあると感じていました。ですが最近では「アトツギ」として、受け継いだ価値を次の世代に託すために、行動を起こし、新たな挑戦をし続けることが大事だと考える人が増えたように感じます。

小野寺さんにとっての地域活性を教えてください。

小野寺アトツギの皆さんは売上第一にどんどん儲けていこうというよりも、長く続けることに重きを置く価値観で、未来を見据えて商売をしていると思います。社会に必要とされ、地域に愛されることを自然体として大切にし、長期思考の姿勢は、まちづくりという観点からも親和性があります。私が「応縁堂」という法人名にしたのは、ご縁を大切に、応援し合える、お互いに支え合えるような関係性を作ってほしいと想いがあったからです。「アトツギが描く未来は地域の未来」という言葉が好きなのですが、今後は行政マンとしてのバックグラウンドを活用しながら、「アトツギとまちづくり」をもう少しリンクさせるようなことをやっていきたいと思います。

京都市で「アトツギラボ」を展開し、“アトツギ”たちをつなぎ、応援しながら新たな可能性を生み出し、未来へ継承する。

応縁堂の設立パーティーには約80名のアトツギが集まった

アトツギ同士をつないで、
新たなイノベーションを起こす

小野寺さんにとっての“EVOLUTION✕LOVE”を教えてください。

小野寺金融機関や中小企業診断士等の方がアトツギ支援(事業承継支援)をされていますが、自分がやっていることは「支援なのか?」と聞かれるとあまりしっくりきませんでした。アトツギラボの活動を1年間続けてきて、「場づくりを通して、結局自分は何をやっていたのか?」と振り返った時に、「挑戦する人をひたすら応援していた」という思いに辿り着きました。

「この人とこの人がつながったら面白そう」という感じで知り合い同士を繋げてみたり、勝手にイベントのゲストに呼んで活動の宣伝をしてもらったり。そういう“おせっかい”をかけまくっていることが自分なりの応援だと考えています。

一方で、応援をしながら自分も応援されているなということをより強く感じるようにもなりました。“応縁”という名前も自分の中で今一番しっくりときています。最近、「誰かの夢を応援すると自分の夢が前進する」「みんなでつくる現実は、理想を超えていく」という言葉と出会ったんですが、まさに“応縁”の世界観です。応援が更に応援を呼んでいくような連鎖がどんどん生まれるといいし、そうなることで世の中がもっとよくなっていくのではないかと思っています。

「文化の中心地で新しい文化が生まれるのではなく、文化と文化が交差する場で新しい文化が生まれる」といった話を聞いて、今後はアトツギに異端、辺境、変人といった人たちを掛け合わせていきたいと考えています。それがイノベーションの源泉になります。またこれまで受け継がれてきた文化や歴史、技術やノウハウ、経営哲学など有形無形の資産をこれからも継承・発展させていくためには、時代にアップデートさせながら、アクションとチャレンジを繰り返すことが大切です。家業に入るとなかなか外に目を向けにくくなる側面もあるので、全然違う業種や業界、生き方をしている人との出会いや化学反応が新たな価値の創出の種になると信じています。それが私にとっての“EVOLUTION✕LOVE”です。

この活動を通して、新しい可能性のある何かを生み出すとしたらどんなことでしょうか?

小野寺アトツギたちの共創イベント「アトツギ縁日」だと感じています。アトツギたちの日々のチャレンジが「ケ」だとすると、縁日はそれを外に見せることができる「ハレ」の場としての役割を担っていけると思います。社会に必要とされ、地域に愛されるアトツギ企業の「お祭り」が新しい可能性を生み出すチャンスになると思っています。

京都市で「アトツギラボ」を展開し、“アトツギ”たちをつなぎ、応援しながら新たな可能性を生み出し、未来へ継承する。

小野寺さんと「空でつながろう」インタビューに出ていただいた濵﨑航平さん

小野寺さん、ありがとうございました!アトツギの方たちをつなぐことで新たな可能性を生み出し、また脈々と受け継がれてきた価値を未来へ残すために活動を続ける小野寺さんを、今後も応援させていただきます。