空でつながろう

Interview Vol.152 心に火がついてアメリカへ。
打ちのめされて、それでも前に進んだ

本記事は、高校生・大学生を対象に開催されたキャリアイベント「キャリアフェス in むなかた」での講演内容をもとに構成している。進路や将来に迷う若い世代に向けて、成功談だけでなく、失敗や遠回り、思い通りにいかなかった経験も含めて語るこのイベントは、「正解のキャリア」を教える場ではない。今回登壇したのは、アメリカ留学・海外就職・帰国後の再出発など、数々の挑戦と挫折を経験してきた桜美林大学芸術文化学部教員・五十峯聖さん。海外に飛び出したからこそ見えた現実と、それでも歩み続けた理由が語られた。

心に火がついてアメリカへ。打ちのめされて、それでも前に進んだ ~桜美林大学・五十峯聖さんが語る「挑戦のリアル」~

「留学していました」「海外で働いていました」

そう聞くと、どこかキラキラした成功ストーリーを想像する人も多いかもしれない。

けれど今回、福岡県宗像市で開催された「キャリアフェス in むなかた」にて、福岡県の高校生と大学生に向けて語ってくれたのは、“うまくいかなかったこと”だ。

桜美林大学 芸術文化学部の准教授・五十峯聖さん。高校卒業後すぐに単身アメリカへ渡り、学業、仕事、ビザ、差別、帰国後の挫折——数えきれない壁にぶつかってきた。

それでも今、教育者として若い世代に向き合い続ける五十峯さんは言う。

「点と点は、あとから必ずつながる」と。

海外に興味がある人にも、まだ迷っている人にも、そして今ちょっと立ち止まっている人にも届けたい、等身大の挑戦の記録だ。

高校卒業後、いきなりアメリカへ。
夢と現実のギャップ

五十峯さんは、千葉の高校を卒業後、日本の大学には進学せず、そのままアメリカ留学を選んだ。

英語が好きで、海外への憧れが強かったからだ。

最初に降り立ったのは、自然豊かなオレゴン州。その後、ワシントン州、ウェストバージニア州、そしてワシントンD.C.と、アメリカ各地で学び、暮らした。

だが、現実は甘くなかった。

壁①:お金がない

アメリカでは学生ビザでのアルバイトが原則禁止。

生活費を抑えるため、洗濯を極限まで減らし、食費を削り、献血ならぬ「血漿提供」でお金を得たこともあったという。

「自分の血がチューブを通って体に戻ってくるのを見たとき、さすがにきつかったですね」

壁②:授業についていけない

日常英会話と、大学の講義英語はまったく別物。

「Hey, what’s up?」は通じても、専門的な議論になると歯が立たない。

壁③:孤独と自己否定

特に辛かったのは、人間関係だった。

「正直、日本人男性はモテない(笑)。それ以前に、仲間に入れてもらえない感覚が常にありました」

それでも五十峯さんは、立ち止まらなかった。

「できないなら、別の武器で勝負する」

英語が完璧じゃなくても、できることはある。

そう気づいた五十峯さんは、自分の“武器”を使い始める。

中高で続けていたバレーボール、音楽、そして持ち前の明るさ

言葉が通じなくても、スポーツや音楽は人をつなげてくれた。

「アメリカでは、自分から行かないと何も始まらない。
下手でも話しかける、頼まれたことは率先してやる。それだけで、ちゃんと見てくれる人がいる」

“完璧じゃなくてもいい。動いた人が、場をつかむ”

この感覚は、今の教育にもつながっているという。

人種差別と銃社会
「日本では当たり前じゃない現実」

楽しいことばかりではない。

五十峯さんが語るアメリカの現実は、時に重い。

  • 「GO BACK TO JAPAN」と叫ばれる
  • 仲良くしていた相手から、突然差別的な言葉を投げられる
  • 銃を持ったままスーパーに入ってくる人がいる日常
  • 寮での盗難、銃トラブル、麻薬探知犬の巡回

「怖かったです。でも、“海外=キラキラ”だけじゃないと、身をもって知りました」

それでも彼は言う。

「だからこそ、行く意味がある」と。

心に火がついてアメリカへ。打ちのめされて、それでも前に進んだ ~桜美林大学・五十峯聖さんが語る「挑戦のリアル」~

大変だけど楽しかった寮生活。寮長としてアメリカ人学生をまとめるという大役を担う。(本人提供)

就職、ビザ、そして“逃した”大きなチャンス

卒業後に待っていたのは、さらなる壁——就職とビザ問題だった。

アメリカで働くには、雇用主が労働ビザを出してくれる必要がある。

「わざわざ外国人を雇うメリットは?」

そう、何度も問われた。

そんな中、知人から声をかけられたのが、マイクロソフト社の仕事。

Windowsの日本語ローカライズに関わるチャンスだった。

だが当時の五十峯さんは、こう断ってしまう。

「パソコン興味ないし、Mac派なんで」

今振り返れば、高収入を得られたかもしれない大きな分岐点。

この経験から学んだことを、彼は強い言葉で伝える。

「チャンスの神様は前髪しかない。通り過ぎたら、もうつかめない」

帰国後、まさかのホームレス状態から教壇へ

ビザの期限が迫り、永住権も難しいと判断し、五十峯さんは日本に帰国する。

だが、そこにも安定はなかった。

実家はなく、恋人とも別れ、友人宅を転々とする生活。

「夢を追いかけた結果、行き場がなくなりました」

それでも、“英語”という軸だけは失わなかった。

留学支援の仕事を経て、知人から大学で教える話が舞い込む。

今度こそ——

マイクロソフトの教訓を胸に、チャンスをつかんだ。

非常勤講師からスタートし、大分の立命館アジア太平洋大学(APU)へ。

10年以上にわたり、日本人学生と留学生を教え続けた。

若い世代へ伝えたいこと

最後に、五十峯さんは高校生・大学生へ、こんなメッセージを送る。

● とりあえず、海外に出てみよう

1週間でもいい。空気を感じるだけで、世界は変わる。

● 本物に触れよう

スポーツ、音楽、映画、演劇。現地で見ると、価値観が揺さぶられる。

● 英語が完璧じゃなくても大丈夫

好きなこと、得意なことが“共通言語”になる。

● チャンスが来たら、前向きに検討しよう

点は、あとからつながる。

「計画通りの人生なんて、ほとんどない。
でも、動いた人だけが、振り返ったときに“意味”を見つけられる」


グランドキャニオンで撮った、20代の自分。

そして数十年後、同じ場所に立つ今の自分。

「冒険してよかった」

その言葉は、これから一歩を踏み出すあなたへのエールでもある。

心に火がついてアメリカへ。打ちのめされて、それでも前に進んだ ~桜美林大学・五十峯聖さんが語る「挑戦のリアル」~

photo 本人提供

そんな五十峯聖さん、最近では専門である英語教育に加え、多様性について研究するゼミを担当している。日本で多様性というとLGBTQ+のように性的マイノリティのイメージが強いが、アメリカでは人種、宗教、結婚状態、軍隊経験、年齢、身体的特徴、薬物、銃の所持・・・など多岐な局面において、様々な価値観や経験の違いがぶつかり合う。それらについて映像や音楽を通して学生たちに感じてもらい、決して綺麗事では片付けられない多様性について議論を重ねている。そしていつかは海外に自分でいき、現地で多様性について自分の五感を通して感じて欲しいと願っている。

心に火がついてアメリカへ。打ちのめされて、それでも前に進んだ ~桜美林大学・五十峯聖さんが語る「挑戦のリアル」~

華音さん(英語系インフルエンサー)とMayuさん(Mayu E Room)を招いて、アメリカの多様性についてディスカッションするゼミの様子(本人提供)


  • 五十峯 聖

    五十峯 聖

    桜美林大学 芸術文化学群 准教授
    英語教育のスペシャリスト。日本で4人しか存在しないTOEFL®︎公認トレーナーとして、全国各地の学生や教員向けに講演やワークショップを行う。元立命館アジア太平洋大学准教授。

五十峯 聖さんの言葉から感じられたのは、「目の前の選択に誠実に向き合い続けてきた」という姿勢でした。将来に対する不安や焦りを抱えながらも、自分なりの問いを持ち続け、行動を積み重ねてきたその歩みは、高校生・大学生にとって確かな道しるべになるはずです。

EVOLOVEは、成功の裏側にある迷いや葛藤、そして一歩を踏み出すまでのプロセスにこそ価値があると考えています。この記事が、あなた自身の選択を信じるきっかけになれば幸いです。答えは一つではありません。自分の歩幅で進んでいってください。